第11話 ハッキングのようなもの
先頭を行く王女様の威光によってか、俺達は誰に咎められることもなく、城の奥へと進んでいく。
そのまま衛兵が入り口に立つ一室に迎え入れられる。
もしかしなくとも、謁見の間、というやつだろう。
大きな扉が開かれ、まずレイラ姫が一礼し、歩みを進める。
「ただいま戻りました」
「うむ」
そのまま部屋の奥の玉座の主に声をかけ、自らも一段低い、しかし豪奢な椅子に座る。
恐らく何千回、もしくは何万回も繰り返しているのであろう、よどみのない動作。
王女というのが壮大なドッキリという線もこれで消えた。もっとも、大して疑っていたわけではない。ワンチャンそうだったらいいな、という妄想めいたものに過ぎない。
次に数歩進んで跪く肇とエリザに合わせて、俺も跪く。
視線は下へ。下手な観察はしない。
「面をあげよ」
テンプレ通りの言葉だが、まったく心は躍らない。
ただただ、言われたとおりに顔を上げる。相手の視線は直視しない。
奥の壁に焦点を当てて、見るともなしに上段を見る。
人影は3人。
まず、レイラ姫。以上。
それから、国王を挟んで反対側に、姫と似たような少し年上の女性。
年齢的にはエリザと同年齢くらい。つまり、20歳前後に見える。少しニヤニヤしながら、こちらを見てきているが、これも無視。釣られるものか。
そして、最後はもちろんこの部屋――いや、この国――の主、国王陛下だ。
年齢は40半ばくらいだろうか。くすんだ茶髪に、同じ色の口ひげを蓄えている。ゆったりとした服装のため、身体つきはわからないが少なくとも太ってはいない。
精悍な力溢れる王、といったところか。
直視していないためぼんやりとそんなことを考えていると、王はレイラ姫にいくつかの質問を投げる。
報告は聞いているのだろうが、齟齬がないかの確認だろう。
つまりは、保護するに至った経緯だ。
レイラ姫はそのすべての質問に淀みなく答えていく。
そして、国王の視線が再び俺の方に向けられる。
「トオルといったな」
「はい」
「そなたのギフトを鑑定させてもらう」
その言葉に合わせて、俺は国王に視線を合わせた。
なぜだろうか、そうすべきと思ったからだ。
「はい、承知しました」
俺は従順な言葉を口から垂れ流す。しかし、視線には力をこめる。
俺を意のままに動かせるとは限らない、という意志を。
国王にも伝わったのだろう。わずかに国王の視線が鋭くなる。
「まあ」
「へえ」
レイラ姫と、姉姫が驚いた声を上げるが、気にしない。
周りが少しざわつくが、それも無視する。
「どうぞ、お調べください」
俺は、笑みさえ浮かべることができた。
流されてここに来たとはいえ、舐められすぎても困るからな、多分。
さて、とはいえどうしたものか。
異空間収納はクソギフト。というか、検証をほとんどしていない。
わかっているのは、時々なんかよくわからないものを引っ張り出してしまうということだけである。
しかもその時々ときたら、今のところ100%だ。一分の一。100%。あってる。
容量も極大とはいうが、よくわからない。収納したものの時間が経過するのかも、よくわからない。
せめてなんか、うまい具合に隠蔽できないもんだろうか。主に謎物体が出てくるハイパーリスクについて。
『隠蔽しましょうか?』
うお、出たなクソサポート。急に脳内に呼びかけるんじゃないって言っているだろう。
『聞こえますか……私の声が、聞こえるのですか?』
なんかいい風に言ってもダメだ。大体そういうのはファーストコンタクトの時にやるべきだろう。
『チッ』
舌打ちすんな。
ところで、隠蔽できるの?
『収納、というところは伝えないといけませんが、他の部分はそれなりに誤魔化せますよ。あまり役に立たないように言えばいいのですね』
そう。そういうこと。できるなら是非頼みたい。
『わかりました、マイマスター』
そんな気持ちのこもってないマスター呼び聞いたことないわ。そもそも、お前俺に仕えている何かなの?
『いえ、全然違います。何言っているんですか?』
ムカつくコイツ。
『隠蔽しませんよ』
しかも脅してきやがった。最悪すぎる。
でも隠蔽はしてください。お願いします。
『もう、あなたって私がいないとダメなんだから』
今度は彼女ヅラかい。エアー彼女は危険すぎるから遠慮しておく。
『そうですか。では』
またもブツ切り。強制終了。
本当に隠蔽してくれるんだろうな……。
俺の不安をよそに、重鎮らしき人物以外が退出していく。肇とエリザもここまでらしい。
それと同時に人間の頭くらいの大きさの水晶が運び込まれてくる。
国王たちの近くに台座が置かれ、水晶が据え付けられる。
「ではトオルよ、こちらへ」
よくわからないが重鎮中の重鎮っぽい人が言ったので、俺は立ち上がり、一礼して進み始める。
「その水晶に手をかざしなさい」
だろうな。他にやりようはない。頭突きしろとか言われたら大惨事だわ。
俺が水晶の前に立つと、また脳内に声が響く。それも、先ほどまでとは違う声だ。
『よく来ました、異世界人よ。それでは私に手をかざしなさい』
え、この声水晶なの? 人格があるの?
俺は驚愕しながらも手をかざす。
それに合わせて、水晶の中で光が産まれ、動き始めた。
『どれどれ……ふふふ。人の秘密を暴くのは素晴らしい娯楽』
最悪だ。最悪水晶がいる。
俺の思いをよそに、水晶の光はさらに動き、そして不意に黒ずみ始めた。
『浸食を開始』
『ん? え、ちょ、なんだお前……! うわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp……ガーピー』
だいぶアカンやつや。
思わず関西弁になってしまうほどの悲劇が起きたが、俺意外にこの事態は伝わっていない。
ぷすん。もくもくもく。
なぜか水晶が煙を吐き出したので、伝わるかもしれん。
「ええっ!?」
「なんだと!?」
驚きに声を上げるレイラ姫。腰を浮かべる国王。
それに対して、もう一人の王女はふんぞり返って頬杖をついていた。
「へーえ。こんなことが起こるのね。面白いわね」
ニタリ、と笑う彼女は、水晶と俺を交互に見た。
煙が収まり、水晶がその光を安定させる。
「解析終了。この世界にもたらされたギフトは、空間収納系。収納物時間経過あり。食料品の収納不可。容量短小」
おめでとう、スーパークソスキルに進化したぞ。
本当に隠蔽の結果なんだろうな、これ。
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