第5話 第一村人発見! でも不審者認定されました
カスタマーサービスにつながったと思ったらまさかのガチャ切りをくらいました。
どう見ても悪質クレーマー扱いです。ありがとうございました。
などと血圧を上げていたのが悪かったらしい。
いつの間にか謎の生命体が追い付いてきていた。
「しゃげえええええええ!」
うるさい。もうわかったっての。というか、縄張り? からは外れたんだから追いかけてくるんじゃありません。
などと、言ったところで通じるはずもなく、俺は再び速度を上げた。
息が弾むが、それでもそれほど疲れない。もしかしたら、地球よりも重力が軽いのかもしれない。
背後からは変化のない、しゃげしゃげとした叫び声。
それをBGMに走り続けることしばし、何と眼前に道が見えてきた。
俺から見て、左右に伸びている。
舗装されていない道はいかにもファンタジーを感じさせるが、それよりも大切なことがある。
つまり、道があるということは街に続いているということだ。
左か、右か、果たしてどちらが街に近いのか。
まさに運命の選択である。だが、迷っている時間はない。
俺はステップを踏むように勢いよく左にターンした。
ちらり、と背後を見ると謎の生命体はずりずりずり、とまだ勢いよく移動していた。
このまま、逃げ切る。
決意を新たに、俺はより一層加速する。景色がぐんぐんと遅れていく。
しばらく走ると、一台の馬車が見えてきた。馬車の周囲には、護衛だろうか、数人の武装した人影が見える。
ついに第一村人発見!
だが、俺は考える。果たして、これは幸運なのか、と。
追われていることを主張することで、安全が確保できる、かもしれない。
だが、追ってくる謎の生命体を引っ張り込んだのが俺であるとバレた場合、犯罪者待ったなしである。
そもそも、あの護衛達が俺を守ってくれるという保証はなく、むしろ守ってくれる理由もない。
とすれば、あちらを刺激しないように、つかず離れずの距離を歩いて向かうのが無難かもしれない。
そこまで考えて、チラリ、と後ろを振り返る。
あれ? なんか分裂してない?
しゃげげげげ、と紫色の物体はいつの間にか二つになっていた。
大きさが縮んだ気がするので、分裂したのだろう。多分、きっと。
そして、俺は信じられない光景を目撃した。
しゃげ、しゃげ。しゃげえ。
二匹が何か話? のようなものをしている。
そして、互いに頷きあったように見えた。
その、次の瞬間。
「しゃげらああああああああああああ!」
一匹が尻尾で一匹を弾き飛ばした。弾き飛ばされた方は、雄たけびを上げて迫ってくる。
「ウソだろおおおおおおおおおお!」
もはや四の五の考えている場合ではない。
俺は叫びながら馬車の方へとダッシュした。
「助けて! ヘルプ!」
叫びながら、馬車へと追いつく。
その声に反応して、護衛のうち一人が振り向いた。
馬車の後方を歩いていた、背中に弓を背負った、革鎧姿の女性だ。
その肌は白く、髪は抜けるような金髪、というのだろう。正直こんな場合でなければ眼を奪われていたかもしれない。
だが、俺にそんな余裕はない。相手も、訝しむようにこちらに視線を向けてくる。
そして、必死の形相の俺から恐らく背後の物体に視線を移して、脚を止めた。
そのまま躊躇なく弓を構え、矢を番える。
淀みない動作で、それは放たれた。
ビュン、と風を切る音が耳を掠め、紫の物体へと飛んでいく。
俺はその結果を確認する余裕もなく、女性のもとへと駆けこんだ。
「はあっ、はあっ」
立ち止まって大きく呼吸する俺に、冷たい視線が向けられる。
俺という異分子が近づいたことを警戒してか、馬車は先行して進んでいた。残り三人の護衛も、そちらを優先している。
つまり、俺は怪しい男として認定されている。
「あなたは何者?」
その予想を裏付けるように、女性がかけてきた言葉は素性を疑うものだった。
「龍見。
「トオルね。どこから来たの? 目的地は?」
俺はどこから来て、どこへ行くのか。
それは、俺が聞きたい。
ある意味哲学的な問いにも聞こえるそれに、どう答えるか考える。
即答しない俺に、女性の視線の温度がどんどんと下がっていくのがわかった。
しかし、その視線は不意に逸らされた。
その視線を追うと、その先には例によっての紫色の物体。
どうも、矢の一本では倒せていなかったらしい。
「初めて見るけれど、思ってたより頑丈なのね」
女性は再び弓を番え、しかし今度は、射る体勢で止まる。
変化は、次の瞬間だった。
白い光が、矢を覆っていく。
「……魔法?」
思わずつぶやく俺に、一瞬だけ視線を向けてから、女性は矢を放った。
ゴウッ! と空気を蹴散らしていく轟音が響き、狙いを逸らさず謎の生命体に突き刺さる。
しゃげえええええええ! と叫びが響く中、対抗するように女性も叫ぶ。
「爆ぜよ!」
言葉とともに、ボン、と爆発音がして、矢が爆発する。
その矢が突き刺さっていた物体が耐えられるはずもなく、紫の肉片が飛び散った。
「案外魔力はよく通すのね。謎だわ」
女性はそうつぶやき、そして――
「それで、トオル、だったわね。話を聞かせてもらうわよ」
じろり、と睨む彼女に逆らえるはずもなく、俺は頷いた。
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