第3話 チートについて本気出して考えてみた

「チートですね!」


 どんなチートがもらえる? いくつ貰える? っていうか、成り上がり転生も夢じゃない?

 

 ――などという、都合のいい妄想はもちろんぶった切られるのである。


「チートとは限らないよ」


 あ、やっぱり。そうそう都合よくいくはずないよな。

 世間の荒波に揉まれまくった経験が、ショタ神様の言葉をあっさりと受け入れる。


「つまり、どういうことでしょう?」

「各転移者の差別化のために、特定の補助をそれぞれ与えるんだけれどね。同じ補助は与えないようになっているんだ」


 なるほど。ベタなチートはもう使用中ということか。


「まあ、その使用者が死んだあとは、別の人が得ることもあるんだけれどね」


 海に嫌われるなんとかの実みたいだな。


「危ういことを言わないように」


 さーせん。


「まあともかく、そういった制約があって、早い者勝ちだと公平性にかけるだろう?」

「確かにそうですね」

「だから、くじ引きにしているんだよ」


 ガチャじゃねーか。ユニークスキルガチャ。

 でもそれなら、チートが残っている可能性もあるかもしれない。


「スキルとは違うよ」

 

 んん? どういうことだ?


「与える補助は、異世界転移者独特のもので、同時に二人は持っていない」

「ふむふむ」

「スキルは現地世界の住人達も持っていて、ある程度重なったりする。魔法もこのスキルに該当する」

「あー」


 納得した。


「もちろん、ごくごく珍しい、一人しか持たないようなスキルもある。これを現地ではユニークスキル、と呼んでいる」


 ショタ神様はどんどん説明を続ける。

 理解が置去りにならないようにしなければ。


「僕が与える補助は、ギフト、と呼ばれている。ギフトは転移と同時に使えるようになる。使用制限もほぼなし、ってまさに神からの恩寵的なものになる。ちなみにそのことから、君たちは現地では恩寵あるもの(ギフテッド)と呼ばれている」


 なんか地球のギフテッドと変わらないな。いや、チートがあり得ることを考えるとより極端な感じか。


「まあ、似たようなもんかな。一方でスキルは本人の才能によって発現する時期が違う。魔法は基本このスキルが発現しないと使えない。一方、剣術スキルみたいなものは、あると特殊な技が使えるようになる。ただ、ないと剣が振れないわけじゃない」


 ということは、一人が複数のスキルを持つこともありそうだな。


「その理解であってるよ。それから、スキルは使用すると体力か魔力か、何かしらを消耗する。君たちでいうRPGのような感覚かな」

「とてもわかりやすい説明ですね」


 某RPGの魔法と特技みたいなもんだな。特技でも消費があるけれど。


「ということで、はい」


 軽い声とともに、俺の手元にスマホが現れる。画面を覗き込むと、何かボーリングのような画面で、手元に近い位置に、引っ張れ! と表示がある。

 おいこら。

 まんまガチャじゃねーか。


「慣れ親しんだ形の方がいいでしょ?」

 

 むしろ善意でやっている、くらいのノリで言われ、俺は色々と文句を飲み込んで、スマホを注視する。

 慎重に、指をスライドする。

 別に慎重になったからといって、結果が変わったりしないのだが、まあ気分的なものだ。

 はなせ! の文字が出ていることを確認して、指を離す。

 球が転がり、ピンに当たる。

 激レアを引き当てたときのような、特殊演出は――――ない。

 ただ、不意にスマホが激しく発光した。


「うわっ!」


 反射的に声が出て、思わず眼を閉じる。


「おー! 『異空間収納』だね、おめでとう!」


 ショタ神様の声だけが聞こえてくる。

 名前だけ聞いていると、いわゆる空間収納とか、アイテムボックスとかいう類のものだろう。

 大当たりではないだろうか。

 はっきり言って、運び屋をやっているだけで食っていける。


 そう考えると、不意に思いつく。


 ――ああ、運び屋をしながら、異世界を旅するのも悪くないな。

 ここんところ旅行どころか、家と会社と取引銀行しか行っていなかったものな。

 肘の痛みだってなくなるんだ。

 またバスケみたいな、何かスポーツをやってみてもいい。

 なんだったら、店を開いてみるのも楽しそうだ。


 ――そうだ、俺は、自由だ。

 何だってできる。どこにだって行ける。

 無限の可能性がある。

 ――――念願の、異世界転移をするのだから。


「結構ピーキーな性能だけれど、いわゆる空間収納だから、いいんじゃない、かなあ?」


 俺の感傷をぶち壊しにする声が響く。

 おい、ピーキーってなんだ。どういうことだ。


「それでは、異世界へ転移します」


 このエレベーターは上に参ります、くらいの軽さで告げられる。

 ……おい、ここまで懇切丁寧だったのに、なんで急にこんな巻きになるんだ。


「だって、ギフトに文句言われても面倒くさいしね」


 神様のくせにそのぶっちゃけ癖は何とかならんのか。


「細かいことは気にしない! よい異世界生活を!」

「気にするわー!」


 俺の叫びはしかし、誰かに届くことはない。

 結局眩しさから眼を空けることもできないまま、俺の視界はここに来た時と同様、あっさりとブラックアウトするのであった。

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