第2話 ショタ神様(命名)による転生前研修

 僕と契約して、異世界転移してよ。ときたもんだ。

 魔法少女になってよ、的な勧誘にしか聞こえない。

 あまりにも胡散臭い言葉であった。

 しかも異世界は狙われているとか、青き流星になる未来しか見えてこない。

 俺がいやーな想像を繰り広げていると、神様は取り繕うように言ってきた。


「あ、本気にした? 大丈夫大丈夫。特に何もない平和なオープンワールドだから」


 そこには無限の可能性が広がっているのか。悪くないな。

 我ながらチョロすぎる方向転換を脳内で実施する。

 というか、ゴネ得ってあるのだろうか。一応確認しておこう。


「ちなみに断るとどうなります?」

「何の補助もなしに、強制的に異世界転移」

 

 思っていた以上に最悪な返事だった。選択肢なしかよ。

 どっちにしても異世界転移が確定っていうなら、もちろん補助が欲しい。というか、チートくれ。


「喜んで転移するから、チートください」

「めちゃくちゃ直球だね」

 

 欲望を素直に表現すると、神様は呆れた声を出した。

 というか、声もなんていうか、美声だな。その容姿と相まって、腐海に沈んでいる淑女の方々に人気が出そうだ。

 ショタの神様、さしずめショタ神様といったところか。


「ひどく失礼なことを考えているね」


 思考が脱線させていると、ショタ神様(仮称)が呆れの色をさらに深くして言ってくる。

 というか、あからさまに溜息をつかれた。


「擦り切れかけのサラリーマンのくせに、ずいぶん順応が早いね、君」


 むしろそれは擦り切れているからではないだろうか。特に失うものもないし。


「ああ、なるほど。そういう考え方もあるね」


 またしても思考を読まれた。

 神様というか、それに近い存在なのは確定と判断してよさそうだ。

 まあ、それ以外と言われると悪魔的な何かしか思いつかないが。いや、勧誘のセリフが完全にアレだったことを考えると悪魔寄りでいいのかもしれない。


「そこは悪かったよ。ちょっとした冗談だし、引っ張らないでほしいな」


 了解。同じことにツッコミ過ぎると嫌われるからな。

 不快なサインを出されたらネタにはしない。社会人の嗜みだ。


「じゃあ話を戻すよ。君には異世界転移をしてもらいます」


 もはや勧誘ですらない。


「転生ではないんですね?」

「うん。ぶっちゃけ転生って、現地の人の人生を一つつぶすことになるし、すり合わせが大変なんだよね。転移だったら基本放り込むだけだし。僕だけで完結できる作業だからね」


 念のために確認しただけだったのだが、思っていた以上に身も蓋もない回答が返ってきた。

 調整って大変だよな。どこのどんな仕事でも。


「わかってくれて嬉しいよ。人によっては、現地の貴族に転生したいとか言い出すこともあるから、大変なんだよね。転移だ、って言っているのに」


 それは大変だろう。何しろ妥協の余地がない。

 ゴネまくった人はそれこそ、身一つで放り出されたんだろうな。

 そもそも相手の方が圧倒的に優位な立場なんだ。交渉も気をつけないといけない。

 もはや読まれること前提の俺の感想に、ショタ神様は満足そうに頷いた。


「そういうこと。……というか、その呼称は何とかならない?」


 ならない。もはや俺の中で定着してしまった。というか、実害はないし、俺は腐海の住人でもないし構わないだろう。


「まあ、それもそうかな。長い付き合いにはならないしね」


 ん? ということは、ここで別れたら転移先では会うことはないパターンか。


「そうだね。転移後のことは現場に任せているから」


 丸投げかよ。どこの本社管理職だよ。いや、中途半端に口を出されるよりましかもしれないが。


「そういうこと。さて、具体的な話に入ろうか」

「そうですね」


 転移に際しての具体的な条件、ってことだな。


「まず、転移先の世界だけれど、君たちが言ういわゆる西洋ファンタジーの世界になる。ただ、結構な数の人が異世界転移しているから、彼らが持ち込んだ知識の影響で、文明の発達は君たちの歴史に比べたらかなり歪になっている。度量衡なんて、メートル法がそのままだしね」


 なるほど。いわゆる細けえことはいいんだよ、的な世界観だな。多分。


「お約束の魔法もある。文明的にはその影響も大きいかな。ただ、君が魔法を使えるかどうかは素養による」


 魔法キタ! と言いたいが、俺が使えるかはわからないのか。まあきっとどこかで素質を調べる仕組みはあるんだろう。ある程度管理できていないと、文明の発展に寄与とかできないだろうし。


「異世界の言語と文字の読解は、転移の時にできるようにしておくよ。言語の習得からはじめるとか、お互い手間なだけだしね」


 お互い? 放り出して終わりじゃないのか。いや、言語と文字の理解は欲しいんだが。


「僕は投げ込んだら終わりだけれど、現地の神々の要請でもあるからね。効率の悪いことはしたくないんだ。だから、君の肉体年齢も20歳くらいに若返ってもらう。記憶とかはそのままだけれどね」


 お、そうなのか。マジで人生のリセットボタンだな。でもそれは手間じゃないのか?


「手間なんだけれど、アラフォーの人をそのまま転移させて内臓系の病気とかにすぐなられても困るしね。転移したからには、長生きしてほしい、ってところだよ」


 なるほど。じゃあこの肘も治してくれるのかね?


「肘も含めて、健康体で行ってもらうよ」


 おお! それは素晴らしい。是非ともお願いします。


「喜んでくれて何よりだよ」


 ショタ神様は満足そうに微笑んだ、気がする。光ってて表情わからないし、気配だけで。

 その後、細々とした説明を受けていく。

 すごい丁寧だな。入社時研修みたいだ。

 俺は真剣に話を聞いていく。何しろ自分のこれからに関わることだ。サボっていられるのは学生のうちだけなのだ。

 そうして、おおよそのことを理解した後、ショタ神様がこう告げた。


「さて、最後に、補助のことだけど」

「チートですね!」


 待ってました!

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