1話 己を持つ人々が望むからこそ、さも醜悪な神をみる

「―ここは」




眠りから覚醒するように意識が戻る。


ただ白い世界で俺はポツリと立っていた。


確か俺は 睡眠薬を飲んで自殺をしたはずだ。


それよりも、ここは何処なんだ?


周囲を見渡してみる


辺りは行き止まりがなく果てしない白だけの景色。


ただ俺にはわかる、白しかない世界なのに


ここは海の中のように居心地が良く


天を仰ぐと その白が波打っている。


「そうか、ここが天国ってところか?」


信じちゃいなかったし、死ぬ寸前に呟いた一言でさえも本気にはしていなかった。


だが本当にあったんだな・・・死後の世界なんてものが


「おいおい・・・・わりと居心地良いもんだなぁ・・・・あの世ってのは」


全てを投げ捨てたせいなのか、やけに気持ちが軽い。

生きているってのはこんなにも辛かったんだな、と…妙な全能感に満たされていく。


暫くして、俺は立っているのもなんなので「ふう」と、一息つきながらしゃがみこんだ。





やがて正面に顔を向けると 「それ」は前触れもなく存在していた。




「なんだ…これ…」




羽根…腕…もしくは角…?


それだけじゃない。


頭蓋骨に十字架、ロウソクや木の枝

扉 果実 あるいは目 あるいは口 雲 鳥居 睡蓮 歯車 


気づいてしまえば止まらない程のの単語一つで認識できるモノが、一つの球体に真っ白色でずっしりと押し込められたように、毛玉のようにがんじがらめになっていた。


ありとあらゆる全てのものを纏ったこの世のものとは思えない存在。


文字通り、得体の知れないモノがそこに或った。




俺は立ち上がり、ゆっくり近づこうとする


「ソ…」


「は?」


そいつは、異音を漏らす。


「ソ・シ・ジ」


ヴゥウウンと言う音と同時に、謎の塊が脈打ちながら何かを言い始める。



「魂ノ再構築完了ヲ確認シタ 思考正常 状況把握弱程度」


「は?」


得体の知れないそれから発せられた機械的な言葉に俺は歩みを止め、間抜けな声を漏らす。




「トウハタ ジロウ オ前ノ 往ク先ヲ 導ク」


「父ヲ 人ヲ 全ウ 出来ヌ 愚カナ人間」


「責任ヲ 背負ウ 異端ノ 境遇者ヨ」


「貴様 ハ 選バレタ 真実 ト 邂逅スル権利ヲ持ツ者トシテ」


「邂逅セヨ」


「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ」




「邂逅セヨ―」






いや、意味が分からない


そもそも天国かと思っていたが、ここは本当に一体どこなんだ?


この機械的な言葉を発する物体はなんだ?


つかこの塊、いつまでも心臓のように脈打ってて気持ちわりい

真っ白で、様々な形をしているのに、肉質が感じられる事に妙な嫌悪感を覚えた。


「私 ハ 、 世界 ノ 調律者」


「観測者 ニ 『アズィー』 ト 呼バレル存在」


「貴様 ノ 辿ッタ 運命 ハ」


「『二面世界』 ノ 因果 ニ由ッテ」


「招カレタ 特異的事象」


「世界 ノ 調律者代行トシテ 此レ ヲ 正セ 」


「使命 ヲ マットウ スレバ 」


「オマエ ノ ノゾミ ヲ カナエヨウ」


―ああ?


目眩がした。

こんな事って本当にあるのだ。

俺は忘れていた嫌な生前の記憶で最も最新のものを思い出す。

ああ、テレビで流れていた異世界転生もののアニメだ。しかも、再放送の。

あのアニメもそんな事を言っていた。


もし、この今俺がここにいる現状がそれと同じであるならば、


きっと重要なワードなんだろう


コレは、俺が自殺するまでに至った不幸を知っている


そして、そこには意味があると言っているんだろうよ。




―だが、それをそのまま頭に無理矢理叩きつけられただけだ。

これ以上思慮に至ることができない、当然だろ?


ただでさえ俺は・・・


世界に


運命に


妻を、娘を…奪われて


もう疲れたんだ。


「なぁ、もういいじゃねぇか」



これじゃあ死を選んだ意味が無い。

わかってるさ、ようはお前は神様なんだろ?




俺の人生に意味を与えようとしているんだろ?

この場所で行われているのは、俺の魂に対する審判に違いない




だがよぉ。




俺の人生なんて数百数千数万数億の出来事で残された

ほんの些細なクソみたいなものにしか感じてないんだろ?

だから、結局俺の気持ちだってお構いなしなんだろ?


「ムッカつくんだよ!!全て終わった後に今更ノコノコ出てきておいて…調律者だぁ???神様なんだろ???」



だったらもっと早く…なんで…


―いや、わかってる。これは逆恨みだって


けれどよ、湧き上がってくるんだよ。


この自分でも扱いきれない感情を…どうしてくれる。




今までに抱えた全てを吐き出さないと…俺は…俺はっ!


「最早 問答 ハ 不要」


「…は?」


「世界 ノ 余剰 ナ 変革 ハ 現在急速的に進行中 選択ノ余地無シ」


「おい、まてよ…」


「此レハ 決定事項」


「…なんだよそれ…ふざっけんなあああああああああ!!」




余りにも一方的な言葉の連続に俺の中の全てが遂に怒号となり爆発した

決めた、一発こいつを殴ってやる。前から思っていた事だ。

不幸が起きる度、運でも神様でもいいから

物体としてそれが存在するなら、ぶん殴ってやりたかった。

俺は前のめりになりながらツカツカと神を名乗るクソったれに足早で近づく


「――二面世界ヘノ 転送ヲ 開始 スル」


その言葉と同時に。俺の足元から魔法陣のような模様が広がり、そこから発する光が自身を包んだ。


「身体が、うごか…ない?」


金縛りか?これ以上前に脚を動かすことも拳を振り上げることも出来ない。


「何しやがる!この野郎!!こんのっ…クソったれがぁ!!」


俺は無理矢理上体を前のめりにしながら

少しでもこのクソ野郎に届く距離で罵声を吐き出した。

これが転送装置だと?わりと強情じゃねえか

俺はアズィーを強く睨みつけた。

だがそいつは変わらず心臓のようにただ脈打つだけでこれ以上の動きは無い。


本当に…本当にふざけた存在だ。神ってやつは。

全てを生み出しておいて気まぐれに選んだものを運命だとかほざいて壊すんだろ?




お遊びのつもりか?

余興を酒の肴にでもして一杯宜しくするつもりだってか??

俺ら一人一人が持つ命なんてものはテメェらからしたら玩具みたいなもんなのか?

奈津も、奈々美もそんな事で殺されたのか?


なぁ…答えろよ!!!


「神 ハ 居ナイ」


「…ああ?なんだって?」


「―真実 ト 邂逅 セヨ」




機械のような声が俺の心の中の問いに答えた。


…はっ。


知りたきゃ、自分で見てこいってか?



………………上等だ。



「お前…言ってたよな?」




確かに冷静さを欠いて怒りを優先して吠えるだけ吠えたが

それでも聞き逃すわけが無い。こうなった以上 奴の言質だけはもう、一度確認させてもらう。



「俺の望みを叶えるっていってたよなぁ?どうなるかわからねぇけどよぉ

お前のその言葉だけは本当なんだよなぁ!?なぁ!!!アズィー!!!!」




「真実 ト 邂逅 セヨ」




「神聖領域ニ 向カイ 然シテ  ト 邂逅 セヨ」




全く答えになってねぇ

クソったれ これが夢だったらどれだけマシだと…


いや、そもそも俺は死んでるから夢もクソもないか。



「座標特定 転送」



突如の衝撃。肉体的に感じるものではない。

頭を掴まれグチャグチャに揺さぶられる感覚だ。

気持ちわりい。本当になんだってんだよ。


そこで俺の意識は再び眩い光に圧倒されるように途絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る