第一章『止まぬ邂逅』序幕:逃げる少女

「ハァ…!!はぁっ……えふ…!!」




もうどれだけ走っただろうか。


少女はひとり薄暗い森の中を必死に駆け抜けていた。


もう何度目だろうか、足元を踏み外し転んだのは。


擦りむいた膝、本当は泣き叫びたい


いつもなら執事やメイドが駆け寄ってくれるだろう。


母がいたなら駆け寄ってくれるであろう。


なのにその日常は全て嘘で塗りつぶされたかのように終わってしまった。


執事もメイドも、母親さえ 側にはもういない 


殺された。全てを奪われた。


得体の知れない数人の盗賊らしき者達に全てを殺された。




「どうして・・はぁ・・・どうしてっ・・・!?」




あまりの戦慄に涙を流すことを忘れ、

代わりに必死に呼吸する口の端からだらしなく涎を零す。


もはやどこに向かうのか 少女には分からない。

ただ何から逃げるよう言われた。


走りながらもチラ見下ろした先に彼女が抱きしめているもの

小さな少女の身の丈には似合わない程の大きな剣






―お嬢様…どうか、この旦那様の…




それは、執事が己の首を落とす寸前少女に託した剣

それが何を意味するのか、彼女自身は何も知らない。




「あうっ」




しかし、その長く感じた短い奔走は間もなく終える。

絶望という形で。

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