第4話 三年前の事件


 アワーズ一家が帰った後、夕食の席でダレンはエリックにも、アーサーから聞いた話を伝えた。


「その三人だけで合宿しようって話して、集まってるとかないですか? ほら、女の子ってそうやって集まるのが好きじゃないですか」


 本日の夕食は、蕪とベーコンの炒め物を添えたローストチキンをメインに、焼きたてパンに野菜スープ、サラダ、そして数種類のピクルスが小皿に乗っている。

 料理は全てダレンの手作りだ。一人暮らしをはじめてからキッチンに立つようになり、今ではレストラン並みに様々なレパートリーがある。

 エリックはダレンの料理を初めて食べた第一号であり、あの時の感動をいまだに口にする程、彼の料理を気に入っている。その言葉は、お世辞では無い。その証拠に、エリックの食欲は凄まじまく、ダレンの倍の量を平らげるのだ。

 今日も変わらず「旨い!」「これ好きです!」などと言いながら、食べ進めていく。

 その気持ちがいい程の食べっぷりを見つつ、ダレンは器用にチキンを骨と肉に取り分けながら、話を続ける。


「僕もそれは考えた。だが、三人に面識は無かったんだそうだ」

「合宿……か。ねぇ、ダレンさん」

「ん? なんだ?」

「なんか……この事件、三年前にオレとフィーリアが巻き込まれた【子供の神隠し事件】に、何となく似てませんか?」


 難しい顔をしつつ、チキンを取り分けているエリックを見つつ「そうだろうか?」というと、エリックは「ええ」と頷き、フォークを置くとダレンを真っ直ぐに見返す。


「今回は子供とは違って自主的に行動が可能な年齢だけど、言葉巧みに誘導して連れ去られたって考えると、似ているんじゃないかなぁと思って」

「ふむ。なるほど。合宿すると伝えた何者かが居る事は確かだからな。そう考えると、誘拐という線もあり得る。エリック、いい推理だ」

「えへへ。ありがとうございます」


 ダレンに褒められて、満面の笑みを浮かべ喜ぶ弟子に、ダレンも顔を綻ばせた。



♢♢



  夕食後。

 片付けを終えてエリックが自室へ戻っていくと、ダレンは三階にある書斎から過去の事件を記録しているノートを取り出して、再びリビングに戻ってきた。

 一人分のブランデーを用意して、リクライニングチェアに横たわる。


 手に持っているノートは、三年目の【子供の神隠し事件】についてだ。

 夕食時にエリックと話をしていて、ふと今回の事件のヒントになればと思い、読み返してみることにしたのだ。


 一通り目を通して、そっと閉じる。


 エリックやフィーリアと初めて会った日が、懐かしく瞼の裏に浮かび、自然と口角が上がる。

 ダレンは、そのまま三年前の思い出の海へ潜り込んでいった。



 始まりは、まだダレンの助手だったキャロルが持って来た一通の依頼の手紙からだった---。



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