第1話 客人
ここは、魔法も魔法使いも存在しない、レイルスロー王国。
その昔、この国にも魔法があり、妖精や精霊、魔獣なども存在し、魔法使いも居たといわれる。
が、今は子供向けの夢物語として童話の世界の中だけに存在している。
科学が発展し、魔法など無くても誰もが生活出来るようになったからか。今では、この国に魔法や魔力などというものが存在していたことなど、信じる者などいない。
そんな、魔法が無くても何不自由なく暮らせる王国のセンター街から少し離れた住宅地に、ひっそりと暮らす貴族の男が一人。
そこそこ金持ちで無ければ住めない高級住宅地内であることから、治安も良く、昼夜問わず静かな場所だ。
男はその静寂が気に入っていた。
二階にあるリビングの窓際に置かれたリクライニングチェアに身体を預け、レースのカーテン越しに入り込む柔らかな陽射しに、うとうとしかけていると、男の暮らす家の前に一台の車が止まった音が聞こえてきた。
些か乱暴にドアが閉まる音が二回。
ヒールの高い音が石畳に当たる音が一つ。そして、踵の低い靴音が細かく刻む様に響いている。ヒールは大人の女性、そしてもう一人はまだ身長がさほど無い少女だ。その時点で、男は誰が来たのか分かった。そして踵の低い太い音が、それに重なる。
太い音の方が、歩幅がある。背の高い男だ。
目を閉じて、その音を聞いていた男は、小さな溜め息を吐いた。それと同時に、玄関のドアベルがけたたましく鳴り響く。
それは家主に『早く開けろ』と言わんばかりに、間髪入れず立て続けに鳴り響いた。すると、一階から「はいはい、今出ますよー」と、暢気な男の声が聞こえてきた。
「こんにちは、いらっしゃいませ! キャロル様、アーサー様」
「こんにちは、エリック。ダレンは居るかしら?」
「ええ、二階のリビングにいらっしゃると思いますよ」
「じゃあ、お邪魔するわね」
「はい、どうぞ」
二階でそのやり取りを聞いていた男は、再びため息を一つ。そして、ゆっくりリクライニングチェアから立ち上がり、リビングに隣接しているキッチンへ向かった。
一階から階段を上って来る複数の足音と、賑やかな声が近づいてくる。
「よぉ、フィーリア。元気そうだな」
「ありがとう。エリックも……なんか、また大きくなった?」
「そうかな? 身長測って無いからわかんないけど。フィーリアは、なんか縮んだな?」
悪戯っ子の様な笑い声が、リビングに響いた。その笑い声に、幼く可愛らしい声が抗議をする。
「ちっ!? 縮んでないわよ! エリックが馬鹿みたいに大きくなってるだけでしょ!」
「まぁまぁ、リアも落ち着いて。リアは小さくても可愛いから、そのままでも良いんだぞ?」
大人の男が、少女の愛称を呼びながら朗らかに言う。
「やぁ、皆さん。前触れもなく、お揃いで」
キッチンから出て来た男が、何の連絡もなくやって来た客人に向かい、嫌味を含め挨拶をする。
一斉に声の主を振り向き、大人の女が言った。
「ダレン、依頼よ!」
ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべた女に、ダレンと呼ばれた男は、それに応えるようにフンと鼻を鳴らし笑みを浮かべ、一つ頷いた。
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