第4話

居間の襖に手をかける。

…本当にこの先に父様が…母様がいるのだろうか?

やはり夢なのか。不安と緊張で中々襖を開けられずにいる。…どのくらいだったのだろうか?一分?十分?その場で立ち尽くしていた


(開けなくては…早く開けないと……あぁ!男は度胸だ!)


襖を一気に開けた。


(勢いよく開けすぎた!今襖がバシンッ!ってなった)


そんな事を思いながら襖の先の景色を見る。


(ーーーッ!父様…母様…)


「ど、如何したの?白夜君?何かあったの?」


「如何した白夜?そんな勢いよく襖を開けて…」


何故だか二人の姿と朝餉の風景が滲んで見える。

何だか周りの音も聞こえ難い。


「白夜君!?」


「白夜?」


「あれ?…俺ッ」


二人の心配そうな声で俺は気付いた。

俺の両目から止めどなく涙が溢れている事を。


「白夜君!怖い夢でも見たの?あっ!それともまた虐められているの!母様に正直に言いなさい!懲らしめてやるんだから!」


「いえ…いじめられてなどおりません。ただ急にこの風景をみていたら感慨深くなってしまい…」


「そ、そうなの?それなら良いのだけど…」


暖かい朝餉の様子に、父様と母様


それをみて改めて実感する


(戻れたんだ…あの頃に。まだ全てある頃に)


俺の大切な時間に


「白夜。朝餉が冷めてしまう早く此方に来なさい。」


父様の優しい声が聞こえる。何時迄も感傷には浸ってられない。俺は涙を拭い気持ちを切り替えて席に着く。


朝餉の良い匂いがする。家族全員で頂きますをし、

箸をとる。柔らかい白米に鮭の塩焼きに和物と味噌汁なんていつぶりか…未来では硬い米と薄い汁物を混ぜ込んだものしか食べていなかった。


米を一口含んだ時思わずまた泣いてしまった。


「やっぱり白夜君何かあったのね!」


また心配させてしまった。俺今の所過去に戻ってから心配しかさせていないような…


「いえ…とても美味しくて…」


嘘では無い。


「そ、そう」


そうして穏やかに朝餉を終えた。













部屋に戻り今後について考える。


(まずは…霊力の回路を繋がねば)


俺は生まれつき霊力があまり無い。だから未来の俺はこう考えた


"体内に無いのであれば体外から霊力を取り込めば良い"


一見無謀に見えるが俺は霊力と身体を調べ尽くし可能にした。


そして意識を世界に満ち溢れている霊力に向け一体化する。俺の存在自体を霊力にし、世界の"霊力の核“を探す


世界の霊力の核というのは霊力の源だ。

万物が霊力を宿すのは霊力の核から溢れている霊力を受け取るからだ。霊力の核の力は測りきれない。しかし唯一人だけは自分の体内で霊力を生成する。だが先ほども言ったように俺には体内で生成出来る霊力は無に等しい。だから俺は自分の回路を捻じ曲げ核に繋げる。無限に霊力がある核から霊力を取り込めば霊力切れの心配は無くなる。


…見つけた。核だ。

俺は核に向けて霊力の回路を伸ばし繋いだ。この行為は自分の霊力の回路を歪ませる為かなりの痛みが伴うが痛みにはなれている。大丈夫だ。


(よし。繋がった。)


これで霊力に関してはもう心配は要らない。

実質霊力は無限になった。



次は今どのくらい陰陽術が使えるか確かめなくては。俺は術を使いたい為近くの森へと行くために部屋の窓から飛び降りる。勢いを止める為自分に術をかける。そして術式を構築し唱える。


「鈍速・一ノ段」


周りの景色がゆっくりと動き俺の勢いが遅くなる。成功だ。"鈍速"は自身の速さや周りの速さを遅くさせる術だ。その術の効果で俺は空から舞い降りるように窓から出て怪我なく地面に足をつける。


「解除」


これで術は解けたはずだ。動きを確かめると速さは通常に戻っていた


次の術を試す。


「倍速・三ノ段」


"倍速"は"鈍速"とは逆に自身の速さや周りの速さを加速させる術だ。試しに走ってみると景色がものすごい勢いで流れる。もはや止まって見える


(倍速も成功っと。)


あっという間に森につき術を解く


「解除」


次は時間停止を確かめる。術を構築し森一体にかける



「停止」



その瞬間鳥は空で静止し音は無くなり風は止む。


ーーーー時間が止まった。


この時間が止まった世界では俺だけが動ける。

この術は文字通り時間を止める技だ。試しに使ってみたが成功したようだ。


「解除」


そう唱えると世界は時を取り戻し、鳥は羽ばたき風で花は踊る。


最後は巻き戻し。時を戻す力だ。

一輪の花に手を翳し唱える


「戻れ」


花はみるみる小さくなり種にまで戻った。

ーーー成功だ。


全ての術が成功した。


術が全て使えることに安堵していると、不意に森の茂みの方から音が鳴る。


俺は警戒しながら茂みに近づき様子を見る



ーーー妖だ。


あの姿は毒蜘蛛だろう。毒蜘蛛とは毒の牙を持つ非常に凶暴な妖だ。しかし普段は山に居るはずだ…こんな小さい森にはいない。

…やはり異変がもう起きているようだ。








(…丁度いい今の俺の戦闘能力がどれくらいか測る良い機会だ。)






そう思い俺は毒蜘蛛に戦いを挑むことにした。

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