テアナ戦記 ――霹靂のエルスフィア―――

第2話 「天畏（てんい）」

　令和ＸＸ年八月ＸＸ日　零時　――

　それは起こった。

　後に「天畏（てんい）」と呼ばれるそれである。

　鷹松市を中心に赤々と燃えるような幾つもの光が天まで伸びる。

　それらは一定の高さまで伸びると、お互いを結ぶかのように光の壁を作った。

　――　刹那！　強烈な光が辺りを包む。

　それを見ていた全てのものが目を閉じた。

　「…………！」

　瞼の裏に光が焼き付く。それと同時に耳鳴りが生じる。

　キィィィィィィッ！　ガシャン！　ズドォン！

　次第に、ゆっくりと、遠くから、耳鳴りの回復と共に周りの音が入ってくる。

　恐るおそる目を開ける。

　まだ薄っすらと光の残像がある中で、それらは一つの塊になっていた。

　車の正面衝突だ。

　音の出どころを探るように脇の路肩も見る。

　そこには、電柱に突っ込んだバイクと人が無残に転げていた。

　その周りには、まだ視力が回復せずうずくまっている者、奇声を上げている者、根性でスマホに動画を収める者がいた。

　その日、その時刻　――

　人工衛星が捉えたのは、鷹松市を中心に五芒星を形どる光のカーテンだった。

　後日、死傷者およそ二五八名、行方不明者七名を出したこの怪奇現象を本国政府は「天畏（てんい）」と発表した。