テアナ戦記 ――霹靂のエルスフィア―――
世渡赫夜
第1話 「結成から四度目の夏を迎えていた」
僕の名前は 「西伯 奏(サイカ カナデ)」。
この4月に18歳の誕生日を迎えた高校三年生だ。
趣味はバンド活動。担当はギターボーカル。
転勤の多い父を持ったおかげで、僕は転校先で何度かイジメに遭い、人と関わることが苦手になった。
少し過去を振り返る。
■□■□■□■□■□
中学一年生の夏 ――
このとき僕は鷹松市にいた。
そして、理不尽な理由からイジメにあっていた。
きっかけは些細なことだ。
転入早々、僕はやたらと圧をかけてくる女子の隣になった。
その女子に、興味を持てなかった僕の隠しきれない想いが、表情が、態度に出ていたのかもしれない。
気付けばその女子から嫌われていた。
……今更ながらに思う。思春期の女子ほど怖いものはない。
その女子の陰口に尾ひれはひれがついて、気が付けばクラス中の女子から嫌われていた。
更に、そんな女子にいいところを見せたいバカ男子共からイジメのターゲットにされた。
どんなイジメかって?
例えば、突然目隠しされ口を開けろと言われ、口を開けたら「熱湯」を注がれた。
ただ、そんなイジメも半年後には収束していた。
掃除の時間の出来事だ。
その日のイジメは、僕に濡れ雑巾を投げつけ、それを拾って「カナデ菌だー!」っと言って投げ合うもの。
イジメをする側にとっては大した内容ではないかもしれない。彼らは暇を潰すためのイジリ程度にしか考えていないのだ。
だが、その日の僕の反応は「いつも」と違った。自分でも未だに理由は分からない。
気が付けば「カナデ菌だー!」と言っていた彼の頭を脇に収めていた。そう、ヘッドロックだ。
時間が止まる……。
誰も動かない、誰も動けない。僕自身もだ。
この後の処理をどうしていいか分からず、僕は脇の彼に目で圧力をかけた。
これがプロレスの「ごっこ遊び」であれば、彼も簡単に脱出できただろう。人は想いもよらない出来事に動揺し、身動きが取れないものだ。
「ご、ごめんよ。放してよ」
彼はか細い声で僕の腕を軽くタップしながらギブアップを宣言する。
この状態の出口を模索していた僕は、安堵しながら彼を開放した。
そして周りを見渡す……。
それまで下品に笑っていた女子があんぐりと口を開けて静止していた。彼らの頭に「仕返し」の文字は無かったのだろう。
それからというもの、僕へのイジメは途絶えた。
■□■□■□■□■□
中学三年生の夏 ――
僕は、相変わらず学校で「ボッチ」でいた。
ただ、以前の僕とは違う。
そう、この時の僕には親友と呼べる友達が学校の外に出来ていた。
一人はご近所さんで、母親同士がお茶をする仲だ。
名前は『北宮 洋人(キタミヤ ヒロト)』。
性格は好奇心旺盛で積極的……そこまでは歓迎するが、残念なことに飽き性だ。容姿は整っているが、ぽっちゃり気味だ。
もう一人は洋人の幼馴染で、名前は『子守 健一(コモリ ケンイチ)』。
性格はいたって真面目だが、少し臆病なところがある。容姿は背が低く、どちらかと言えば小動物的な感じがする。
三人は同い年ということもあり、学校が違えどいつも一緒遊んでいた。
この時の僕らは、町のシンボルである赤灯台を目指して自転車を漕いでいた。
地方あるあるだが、ケンイチの学校課題である「地域の観光資源調査」が目的だ。
立ち昇る積乱雲が防波堤越しに僕らを見下ろす中、不意にヒロトが立ち漕ぎしながら叫ぶ。
「俺、ドラムやりたーい!」
僕とケンイチは顔を付け合わせる。そして、二人して溜息をついた。
ここで僕とケンイチが溜息をついたのには訳がある。
彼の性格だ。重要なので繰り返すが、ヒロトは好奇心旺盛で積極的なのはいいが……飽き性だ。
以前にもこんなことがあった……。
人気ロボット小説でアニメ化までされた「女神の躯の物語」のジオラマ作りだ。
彼の「チャレンジしてみたい!」の号令で作り始めたジオラマは、三日と経たず打ち切りとなった。
その理由は……「塗装が面倒臭くなった」だ。
その時に「ほらっ!?」っと見せられたのが、主人公が搭乗する翠色に輝く女神の躯「呪縛躯殻(アルマトゥーラマレデッタ)『眠姫』(プリンチペッサ・アッドールメンタッタ)」のあられもない姿。
「いや、『ほらっ!?』っじゃなくて、塗装の『と』の字もしてないじゃん! それにゲート(あのねじ切って下さいと言わんばかりの細いところ)のカッティングがパーツに残ってトゲトゲだよ!」
「うん、なんか試しに組み立てたら満足しちゃって。それに塗装とか部屋中シンナー臭くなるじゃん?」
僕はこの後軽く切れた。
イジメに遭ってさえ怒らない僕がこの時に切れた理由、それは、このロボット小説が「かなり」好きだったからだ。
特に「呪縛躯殻(アルマトゥーラマレデッタ)『人魚姫』(プリンチペッサ・シレーナ)」という紺碧の外観に、白銀に輝くレイピアを振るうそれが好きだった。
そして、このロボットが繰り出す超必殺技奥義「海への誘い(ローレライ)」も、シンプルなエフェクトにこそある「最強」がたまらなく好きだった。
更に、その搭乗者も好きだった。搭乗者の彼は、この物語の序盤で登場する主人公の弟であり、主人公が想いを寄せる王女と密かに恋仲だった。
彼は病弱であるにも関わらず、愛する王女を内外の敵から守るために手を血に染め、そして茨の道を進むのだが、志半ばで主人公である兄の裏切りに遭い、この物語から消える……っと、この話しは長くなりそうなのでここまでにしよう。
それと事後談だが、僕は購入したシレーナで小説のワンシーンを見事に再現。今でも部屋の片隅でその光景を見ることが出来る。
そしてケンイチだが、流石幼馴染と言ったところ。まだプラモデルを購入すらしていなかった。
話は戻る ――
「ね? ね? ね? お願い! どうしてもドラムしたいのー」と赤灯台の下でヒロトが上目遣いをしながら気持ち悪くせがんでくる。
僕とケンイチはドン引きしながら致し方なくOKした。
ちなみにケンイチは、ギターに比べて弦が少ないからという理由だけでベースを所望した。僕は残ったポジションでギターを担当することになった。
そんな僕らのバンド活動は、予想通り順風満帆のスタートとはいかなかった。ヒロトがドラムを叩きながら「ボーカルもしたーい!」というので任せていたが、「飽きた、歌詞覚えるの面倒」と例の如く言い始めたので、僕とケンイチの二人で切れた後、僕がボーカルを取り上げた。
■□■□■□■□■□
そして高校3年生の夏 ――
あれから僕らのバンド「Tre bacchette rosse(トゥレ・バケッテ・ロッセ)」は、自分で言うのもあれだが、一部のコア層に絶大な人気を誇るスリーピースバンドとして結成から四度目の夏を迎えていた。
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