第10話 ダンジョン都市アレーヌのSランク冒険者領主
-side ゼノ-
「初めまして!お噂は予々」
「初めまして。こちらこそお噂は予々。ステラから色々聞いております。ようこそおいでくださいました」
ガッチリと握手する。
領主館で俺を出迎えたのは、ガタイの良い30代前半の男性だった。
赤髪に黒目。鍛え抜かれた体は歴戦の猛者の雰囲気を感じさせる。
冒険者という職業柄、俺は慣れているが、そうではない一般市民からしたら圧倒されるだろう。
彼の名はザイク。ここーーダンジョン都市アレーヌの辺境伯であり、超有名Sランク冒険者である。
「まさかあなたが冒険者を辞めてこの町の領主をやっているなんて思いもしませんでした」
「こちらこそ、まさかあなたが冒険者を辞めてのらりくらりしているとは…」
「あはは…人生色々あるものですね」
「ほんとほんと、色々あるものだな」
「それにしても、お前、またとんでもない仲間を手に入れたようだな」
「やっぱりわかりますか?」
「ああ。右の鳥さんはフェニックス。左の女の子は、少女ながら戦闘力の底が知れねえ。そもそも人間ではない気がする」
そこまで分かるのか。さすが、Sランク。この人には隠し事とかしても無理そうだな。
「ご名答です。彼女はドラゴンなんですよ」
「ど、ドラゴン!?お前さん、とうとう行くところまで行ったんだな!」
「い、いや、たまたまですよ、たまたま。ーーってなんですか?行くところまで行ったって」
「そりゃお前、ギルド内ではテイマーの到達者とかいう二つ名があること知らないのか?」
「知りませんよ!そんなの!それになんですか?そんな大層な二つ名は?」
「ガハハハハハ!そりゃお前さん、そこまで強い従魔を3人も従えていたならその二つ名に釣り合っているだろう」
「あってませんよ、俺みたいな若者が」
「なら、それに見合うだけ努力すればいいだけさ」
「それはそうですけど……」
ザイクさんは俺がお世話になった先輩冒険者の1人だ。フェンリルを従えた時、冒険者ギルド、商業ギルド上層部や貴族などからいきなり色々なところから声をかけられた俺を守ってくれた1人でもある。いつか、直接お礼を言いたいと思っていたのでこんな機会が巡ってきて良かった。相手がSランク冒険者なら色々話が早い。貴族の鬱陶しさもよく分かっているだろうし、面倒ごとも少なそうだ。
「いつも大体が手紙でしたから、いつかちゃんと会ってお礼がしたいと思っていたんです。本当にその節はお世話になりました。
「ああ、いいっていいって、前途ある若者を守るのが俺の役目だからな」
やはり、人格者でいい人そうだ。本人はあんまり気にしていないみたいだけれど、俺がフェアではないと思うから、借りは返したい。それにこれからしばらく、この都市に居座らせてもらいたいという賄賂的な物も送った方がいいだろう。
「早速だが、受けて欲しい依頼がある。この依頼を受けてくれたらこの町にいる間は一切口を出させないように取り測ろう」
「待ってました!話が早くて助かります!」
やっぱり!想定した通り話が早い。きっと、俺をここに長く止めるのは申し訳ないと気を遣った故だろう。
こんないい領主だったら、しばらく、この都市にいてもいいかもしれない。
「Aランク以上はどこも人手不足でね。俺が片付けてもいいんだが、領主としてそうは行かない。だから、誰かが来るのを待っていたんだが、みんなダンジョンの方に潜っちまって全然依頼を受けていかねえ」
「あはは……」
そうなんだ。まあ、ダンジョン探索の方が楽しいもんねえ……。
町の依頼はどれも似たり寄ったりで、たまーに人間関係が面倒になったり、騎士団と共同で討伐を行わなければならないとかがあったりする。その点、ひたすらダンジョンに潜って魔物を倒していた方がコスパが良く楽ではある。
「ただ、今回ばかりはそうもいかねえ。なんせ、初心者ダンジョンとはいえ、スタンピートが起こってしまっているからだ」
「えっ……!」
スタンピート。ダンジョン内の魔物が外に溢れ出てしまう現象。
スタンピートにもランクがあり、初級ダンジョンだとCランク、中級ダンジョンだとBランク、上級ダンジョンだとAランクまたはSランクになることさえある。
何よりも厄介なのは、ダンジョン内にある魔物が一般市民を気づつけてしまうことだ。
なので、魔物はできるだけ早めに討伐しなければない。緊急依頼だ。
「怪我人はいるが幸いにも死者はいない。招集命令を出した上級冒険者たちはまだダンジョンの中だ。本来は、こんなこと事前の準備で対策していけと言ったところだったが、ここのところハイランクの依頼が重なってしまったんだ。すまない、行って来てくれないか」
「もちろんです!罪のない市民は守らなければ!」
「助かる。報酬ははずむから終わったら領主館に来るといい」
「承知いたしました!」
こうして、俺たちは初心者ダンジョンのアルケーに旅立ったのだ。
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