町に雪が降った。空気に開く穴は頻繁に見かけるようになった。指から始まり、今では腕や足が落ちていたり、車のタイヤが急に落ちてきたり。


「あっぶなっ…!」


「気をつけろよ紬。最近の天気はおかしいよな。」


 たまたま一緒に下校していたクラスメイトの和也かずやは、降ってきた看板をサッと避けた。

 あの穴が出現するようになってから、町の人間の反射神経が良くなっている。それはいいことなのか悪いことなのか。


 穴について分かったことがある。あれは穴じゃない。亀裂だ。原理はわからないが、空気に穴が開いている。

 そして、あの亀裂はこちら側から入ることはできない。入ればバラバラになり、中の物と混ざってしまう。


「なんかさぁ…ユウスケが気の毒だよな。興味本位であの中入って…出てきたときには頭が熊の胃の中って…」


「その話はやめよ。聞くだけで怖くなる。僕達だっていつの間にか中に入ってるかもしれないんだし…」


 あの日、クラスメイトのユウスケは、開いていた大きな亀裂の中に飛び込んだ。本人は肝試しのような感覚だったのだろう。止める間もなかった。

 ユウスケが飛び込んだ亀裂は、暫くの沈黙の後に大きな顔のない熊を吐き出した。

 熊の喉に開いた穴からは、ユウスケの頭が吐き出された。近くで見ていた僕達は驚いて、その場から走って逃げた。

 その日から亀裂には飛び込むなというルールが出来上がった。


「ミユキも、リュウキも…部屋にいる間に、丁度身体と被さるように穴が開いたせいで見つかったのは身体半分だけなんだって。」


「見つかってない部分も結構あるよな。ユウスケの身体も。どこ行ってるんだろうな。」


 亀裂は部屋の中だろうと場所を選ばない。亀裂が身体と被されば、触れた部分が切れる。肩と被ってしまった由紀ゆきは、片腕を失うだけで済んだ。

 しかしバレー選手を目指していた由紀は、おかしくなってしまったように毎日ボールを眺めては髪の毛を抜いて食べている。


 由紀の髪の毛は、由紀の顔に開いた穴に吸い込まれていく。あの髪の毛たちもいつか、由紀の口から吐き出されるのだろうか。


「何ぼーっとしてんだよ紬、そんな調子じゃ何かに潰さ… 」


 和也の声が消え、隣を見ると雪の山が出来上がっていた。雪が降った1週間後くらいに道の端に残っている雪はこうして出来上がるのか…


「ぶはっ!!雪溶けてたから上着着てこなかったのに……くっそ、寒っ……紬!上着よこせー!」


「うぇぇ…!?やだぁー」


 追いかけてくる和也から逃げながら、僕達は今日も無事に家に帰った。


 ✱✱✱✱✱✱


 ついに人が死んでしまった。ページを飛ばしたせいで、結構な人が死んでしまっている。

 登場人物の名前が漢字だったりカタカナだったりするのは何か理由があるのだろうか。

 部屋を見回し、変なものが落ちていないことを確認して僕はベッドに入り、眠りについた。



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