亀裂
空っぽになった靴を持ちながら、僕は学校からの帰り道を歩いた。なんとなく靴を持ち出してしまったけど、どうしようか。
これも学校裏に埋めておいたほうが良かったのだろうか…なんて思いながら歩いていると、足に何かが当たった。
「…あ?」
コツン、と音を立てて僕に蹴られたそれは、転がって塀に当たった。小さくてよく分からないが、白っぽくて硬い。
それが置いてあったのであろう場所を見ると、穴が開いていた。
塀に穴が開いていたのではない。空気に穴が開いていた。ガラスが割れたように開いた穴の中は真っ暗だった。
「……いったぁっ!!?」
なんとなく指を突っ込んでみると、人差し指に激痛が走った。穴から指を抜くと、爪がなくなっている。
僕が痛みに顔を歪めていると、穴の中からぽろり、と何かが落ちてきた。
「う…僕の…爪…?」
どうやらさっき落ちていたのは骨のかけらだったらしい。そして今、ぽとりと落ちてきたのは指だった。血がついた爪は間違いなく僕のものだが、指は違う。靴の持ち主であるあの子のものだ。人差し指にあったほくろが、何よりの証拠だ。
「気持ち悪い…」
気味が悪くて、他の人の指に僕の爪がついているのが気持ち悪くて、僕は早歩きで家路についた。
次の日、登校時にはもうあの穴は無かった。
その代わり、穴があった場所にはカーブミラーの頭が置いてあった。
そういえばあの子は、靴下のまま下校してここで轢かれたんだっけ。カーブミラーと車に挟まれて、遺体は圧死みたいになっていたらしい。さぞ痛かった事だろう。
✱✱✱✱✱✱
ペチャッ、という音がして僕は部屋の中を見回す。僕の部屋には湿ったような音を出すものなんて置いていない。
ひと通り部屋の中を確認して、音の正体を見つけた。
部屋の隅で顔のない腐った猫が、喉があるのであろう空洞からネズミを吐き出している。痙攣する猫の頭は、部屋の反対側の隅で目を開いたまま転がっていた。
「何…これ…」
猫の首の断面は真っ黒だった。猫の革を被った黒い何かが、ネズミの死骸を吐き出しているみたいでどうにも猫に見えない。
僕は庭に出て、猫とネズミを埋めた。気持ち悪くて、暫くトイレに閉じこもった。
あの主人公の紬は、爪が落ちていても指が落ちていても冷静だった。実体験でも小説でも、いくらなんでも薄情すぎないだろうか。
トイレから戻り、何となく読む気になれなかった僕は、ページを少し飛ばして読むことにした。
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