はじまり

「なあ、俺の靴知らね?」


「知らないよ。なくなったの?」


 ある日、クラスメイトの靴がなくなった。その子は、教室に入ってきて真っ先に僕に聞いてきた。多分、昔よく遊んでいたから話しかける勇気が出たんだろう。

 大人しい子だったから、いじめられているのかと思って一緒に学校中を探したが靴は見つからなかった。

 きっとこれはいじめではない。この子は今登校して来たのだから。


「ねぇ、君どうやって登校してきたの?」


「え?そんなの決まってるだろ。あるい…て…?……あれ、なんで俺ここにいるんだ?」


 そのクラスメイトは結局、もう一度下駄箱を見てくると言って教室を出たきり、戻ってこなくなった。

 朝のホームルームが終わっても、昼休みが終わっても、帰りの時間になっても、その子は戻ってこなかった。


 ──本当に、靴はなかったのか?


 気になった僕は、その子の下駄箱の扉を開けた。すると、キィ…と軋んだ音を立てて開いた下駄箱の中には、靴が2足、ちゃんと並んでいた。


「なんだ、あるじゃん……」


 僕の中学校は、基本的には黒い靴で来なくてはいけない。それなのに、あの子はずっと赤くてかっこいい靴を履いてきていた。

 その靴が今、下駄箱の中で色褪せたように白っぽくなって並んでいる。なんとなく靴を手に取り、地面に向けて逆さまにすると中からぱらぱらと桜貝のようなものが出てきた。

 拾い上げると、桜貝だと思っていたものは爪みたいだ。


「うぇ…」


 爪を拾い集め、学校裏に埋める。どうして忘れていたんだろう、あの子は去年死んだんだ。

 確かあの時は、帰りに靴を隠されたんだっけ。

 あれが幽霊だとは思わなかった。本当は一緒に探してほしかったんだろう。だから、過去からワープしてきた……幽霊というよりはそんな感じだった。


 今思えば、これが始まりだった。僕達はここから、不思議な現象を体験する羽目になったんだ。


 ✱✱✱✱✱✱


 読み終えてから、僕は少し違和感を覚えた。

 どうしてこの主人公は、現れたクラスメイトが幽霊ではないのだと思ったんだろう。未練を残した幽霊が、当時の行動をやり直そうとする怪談なんていくらでもあるのに。

 それに、なぜクラスメイトの名前が出てこないんだろう?昔遊んだことがあるなら、名前も知っているはずなのに。

 書き残したくなかったのか、それとも本当に名前が分からなかったのか。

 違和感を覚えつつ、僕は次のページを捲った。

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