第9話 身勝手極まりない男
俺はすぐに三津島という男と連絡を取り、言われたとおり事務所へと足を運んだ。
「河野(かわの)さん、お待ちしておりました。さあ、おかけください」
そういって、三津島は俺をソファへと案内した。
「さて、河野康介さん。あの場で何をしようとしていたのか、詳しくお話を
していただけますか?」
俺は少し深呼吸をして、あの日の話を始めた。
「人生に絶望したのです。数年前、ほんの出来心で浮気をしてしまったのですが…その浮気相手が妊娠しているといって、医療費などを多額請求してきたのです。しかし、彼女は実際に妊娠していないことが発覚して、私は結局借金を背負うことになりました。」
「ほう…あなたは浮気相手以外にも、お付き合いしている相手はいたってわけですか?」
「いました。それも5~6年ほど交際しましたが、浮気相手の彼女が妊娠していると伝えて俺から別れを告げました。」
それを聞いて、事務員の女性らしき人が奥で怪訝そうに俺を見ていた。眼の前に居る三津島も、俺のことを蔑むような視線を送っていた。
「その浮気相手の女性と、長年付き合っていた女性はどうしているのですか?」
「浮気相手の女は、現在は連絡を取っていません。昔の彼女は最近会いましたが…真面目にバイトをしながら仕事を探して頑張っていましたが、俺とヨリを戻すのは無理みたいで」
「当たり前じゃないの!」
俺の一連の話を聞いていて、奥にいる事務員は怒っていた。
「浮気相手に騙されて借金作ったのが何よ。あなたが長年お付き合いしていた女性は、どれだけ傷ついたことか…それに自殺を考えるより先に、借金を返すほうが先なんじゃないの?」
「まあまあ、岸川くん。落ち着いてください。」
岸川という女性を、三津島はなだめた。そして、三津島は俺の方を向いて話を続けた。
「失礼いたしました。あなたは、自殺するより先に借金を返すべき…僕もこれに関しては同意です。そして、同じ過ちを繰り返さにように残りの人生を送るべきなんじゃないですか?」
「はぁ…」
「そこで提案です。誰かに半分ほどあなたの寿命をあげて、残りを借金返済と有意義な人生を送るのに使ってみてはいかがでしょうか?私はそのような術を使えるのです」
思いがけない提案だった。俺は少し悩んだが、三津島の嘘をついてない目を見て決意した。
「わかりました。それでは、俺の寿命は、こんな俺でも見放さない年老いた両親に半分あげようと思います。」
「承知いたしました。それでは、術式を始めるので少々お待ちください」
その術とやらは、至ってシンプルだった。まずは白い紙に両親の名前を書いて、三津島に「目を閉じてください」と言われて目を閉じる。そして、目を閉じている間は両親の顔を思い続ける。
「術式を完了しました。それでは目を開けてください。」
そして俺は目をあけた。特に変わった感じはないが、少し心がスッキリした気がする。
「三津島さん、ありがとうございます。あの、お代の方は…」
「あなたはお金がないのでしょう?それならば、払わなくても大丈夫です。その代わり、残された分の人生は無駄をせずに生きてください」
「あ、ありがとうございます…これから、頑張って生きていきます」
俺は2人にお礼を言って、事務所を後にした。この2人には、不思議と感謝の気持ちでいっぱいになった。
俺はこれまで何でも人のせいにして、逃げるような最低な人間だった。
今回、あえて寿命を短くすることで、駄目だった人生を取り戻したいと思えるようになった。
元カノのアキも、彼女なりに幸せな人生を送ってほしい。
そう願わざるをえない。
私の寿命、あなたにあげます 夜海野 零蘭(やみの れいら) @yamino_reila1104
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