第8話 借金地獄の男

「気がついたらこんなに借金にまみれて、俺の人生などお先真っ暗。これから生きていても何の意味ない」


うわごとのように、俺はつぶやいた。それからしばらく道なりを歩いて、気がつくと高い橋の上に来ていた。


ここは「あの世橋」とも言われる、自殺の名所としても有名な橋だ。よく自殺した人の幽霊が出る心霊スポットとして、オカルト系の動画チャンネルで取り上げられていたのを、俺はなんとなく覚えていた。


「いっそのこと、ここから飛び降り自殺でもした方がいいかなぁ…そして霊になって、あの女どもに復讐でもしてやるか」


俺はその橋の欄干に手をかけた。すると、背後から誰かが肩を叩いてきた。


「まだそちらへ行ってはなりません」


振り向くと、30代ぐらいの優しい雰囲気をした男が立っていた。まさか幽霊か?とは思ったが、生身の人間だった。


「なんだ、あんたは!?死んでも死ななくても、俺の勝手だろうが!騙されて借金だらけで、こんな俺なんか生きていて意味がないんだよ。」


俺は思わず大声を張り上げてしまったが、その優男みたいな野郎は眉一つ動かさずに話を続けた。


「あなたに何があったのかは知りません。しかし、死ぬぐらいなら他の誰かに寿命をあげみてはどうでしょう?ここで死んでは、しばらく誰にも見つけてもらえずに無駄死にをしてしまいます」


「はぁ…何を言ってるんだ、あんたは?」


男はSF漫画にでも出てきそうな話をした。俺は意味がさっぱり分からなかったが、男はそれでも話を続ける。


「まぁ、信じてもらえないのも無理はありません。私はこの世の人間ではないのです。とある事情で、誰かの寿命をまた別の誰かにあげる仕事をしているんです。大っぴらには言えませんが、そういう術を使えるんです。」


「まるで漫画みてぇな話だ。それで、実際に誰かの寿命が伸びたことはあるのか?」


「ありますよ。条件付きですが…もしあなたが死のうとしているのなら、あなたが生きるはずだった分の人生を、生きる意志のある誰かに与えてみてはどうでしょうか?あなたが死にたい今、『生きたい』と思っている人もいるのが事実です。」


なるほど、そんな考え方もありか。その男がどうも嘘をついているようには見えなかった。騙されたと思って、俺は野郎の話に乗ってみることにした。


「あんたがそこまで言うなら、一度信じてみるか。ところで、あんたの名前は何ていうんだ?俺は河野かわの康介っていうんだ。」


「お話を聞いていただけて嬉しいです。私は三津島みつしまケイトといいます。この『三津島つなぐ事務所』というところで仕事をしています。この名刺にある連絡先に、気が向いたら連絡をください。」


「分かったよ。都合のいいときが決まったら連絡するわ。ありがとうな。」


そうして礼を言ったのも束の間、三津島という男は音もなく俺の目の前から姿を消した。まるで忍者や魔法使いでも見ているかのようだ。


「もしかしたら、本当にこの世の人間じゃないのかもしれないな…なんだか面白い男だな」



あとで、俺は三津島に連絡しようと決心した。

奴との出会いは、俺の人生観を変えることとなるのだった。



続く

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