第7話 前を向いて歩くしかない

私が母のいる病室に入ると、両親はどちらも笑顔だった。


「アキ、忙しいのに来てくれてありがとうね。びっくりするぐらい調子がよくなったの」


父は涙を浮かべつつ、こう続ける。


「お医者さんも奇跡だって言っている。俺もずっと母さんを信じていた甲斐があったよ」


まさか寿命を伸ばす術が効いたのか…インチキだと思っていたけど、本当だったみたいだ。

私は少し気になることを聞いた。


「お母さん、よかった…私もお母さんが治るって、ずっと祈っていたよ。ところで退院はいつ頃できるの?」


「もう少し様子を見て、今週中には退院できるとお医者さんがいっていたわ。今日が木曜日だから、あと少しね」


私は心底ホッとして、自然と涙が出てきた。


「まぁまぁ…アキまで泣かなくていいじゃない」


「アキも就活とバイト頑張りつつ、家の手伝いもしてたもんな。そうだ、病院に来る前に福福堂で豆大福買ったんだ。退院の前祝いで、みんなで食べよう」


父はそういうと豆大福とペットボトルのお茶を3つずつ出した。


「ありがとうね、お父さん。味気ない病院食ばかりで飽きていた頃だったのよ。いただきます」


「福福堂のお菓子好きだから嬉しい!いただきます」


3人で病室で食べた大福は、今まで食べたどの大福よりも美味しかった。


そして2日後、母は無事に退院した。

退院した後も、様子見のために定期的な通院は必要だが、基本的には以前のおように家での生活となる。


「お母さん、これから頑張っていい仕事見つけるからね」


「アキ、応援しているわ」


まだまだ難しい部分はあるけれど、私は新しい仕事を見つけるべく奮闘している。

そして、家族とまた笑い合って生活したい。


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僕の名前は三津島ケイト。

ニンゲンの寿命を伸ばす手伝いをしている術師だ。


僕はもともと、この世界のニンゲンではない。

もとは魔術の使える世界の者で、一度命を失って気がついたらこの世にいたのだ。

いわゆる転生ってやつだ。


僕が命を失った原因は、ほかでもない「自殺」だ。

僕が転生前にいた魔術の国は、他の国と壮絶な戦争を行っていた。


その戦争の中で妻と5歳の息子を失って、生きる意味を見いだせず自らの剣を胸に貫いて死んだ。

それにも関わらず、こちらの世界で生まれ変わったのには正直驚いた。


僕は前世で、「誰かの寿命と引き換えに他の人の寿命を伸ばす」という特殊な術を知っていた。生まれ変わっても、その能力だけは引き継がれていた。


「また僕のように自ら命を絶とうとする人がいたら救いたい。きっとこの術を生かすために、僕はこうして転生したのだろう」


まずは世の中を知るために、実在の人物に変身する術を使い、夜の仕事をした。夜の仕事は羽振りがよく、さまざまなお客様に会えて勉強になった。幸いにも、会社の独身寮にも住まわせてもらった。


夜の仕事をしながら着々とお金をためて、事務所兼自宅をこさえることに成功した。

ただし、寿命を伸ばす術をあまり人に知られてはならないと思い、僕自らが自殺しそうな人に声をかけていくスタイルだった。


最初のお客さんは、事務員の岸川綾乃だった。彼女は婚約者に浮気相手がいて、それが原因でビルから自殺しようとしたところを助けた。


それから彼女は、過去の仕事の経験を生かして、事務員兼アシスタントとして僕を支えている。


僕一人の力ではなく、岸川さんがきめ細やかなサポートをしてくれるおかげで、依頼者も前を向けているのだと思う。


ある日、事務所に一本の電話が入った。


「もしもし…あ、お久しぶりです!はい、三津島に変わりますね。」


岸川さんから電話を預かり対応すると、前にお母様に寿命をあげた山岡さんが出た。


「三津島さん。あの術をかけられた後に、母が奇跡的な回復を見せたのです!今は退院して療養していますが、以前のように元気になりつつあります。本当にありがとうございます!」


「山岡さん。それはよかったです!これからは命を大事にしつつ、ご家族と幸せに暮らしてくださいね。あと、就職活動も頑張ってください」


「はい。この御恩は一生忘れません。それではいつか、また会う日まで…」


そして、彼女からの電話は切れた。


「きっと、世の中には自分の人生に絶望し、自殺をしようと考えてる人は多いのだろう。僕は、その一助になりたいんだ。岸川さん、ついてきてくれるか?」


「はい、私もこれから所長をしっかりサポートします。」


「ありがとう。次はどんな人に出会うだろうか…」



『三津島つなぐ事務所』で、僕はこの特殊な術を生かして誰かのためになりたい…


そう思っている。


続く 

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私の寿命、あなたにあげます 夜海野 零蘭(やみの れいら) @yamino_reila1104

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