最終話 歩もう。貴方の、君の隣を
なんで、ここに居るんだ? 玖凰を継ぐのなら2年やそこらじゃ足らないと思っていたんだが……
「実は私もまだ理解が追いついてないのだけれどね」
「そうなのか?」
「ええ」
そして冬奈は話してくれた。自分も最近まで知らなかった事。飛行機のチケットが日本行きであるのを見て驚いた事。そして玖凰政人に認められた事を
「じゃあ、冬奈は……」
「ええ、ここに居るわ。つまり——約束、果たしに来たわよ、翔梨」
次の瞬間、俺は駆け出し、目の前にいる冬奈を抱きしめた。
「冬奈……冬奈……!」
「ただいま、翔梨」
俺の目から涙が零れる。約2年と少し、待ち望んだ瞬間なのだ。多少かっこ悪いのは許してほしい。
「かっこ悪くなんてないわ。ごめんなさい、待たせたわね」
「いや、全然だ。いつか会えるって信じてたから」
「ありがとう、翔梨。こんな私の事を信じてくれて」
「また、話せたな」
「ッ! ええ」
冬奈は俺の腕の中で嬉しそうな笑顔をし、抱き返してくる。その優しくも柔らかい温かさに、更に涙が零れた。
「あの時の事、思い出してくれたのね」
「ああ。忘れててごめん。大切な約束だったのに」
「良いわよ。今こうして叶ってるのだから」
冬奈と会うだけで、こんなに嬉しい気持ちになる。声を聞くだけで、こんなに愛しい気持ちになる。やっぱり冬奈が好きなんだなぁと、今更ながらに再認識した。
「ふふ、知ってるわよ。翔梨が私の事大好きな事くらい」
冬奈はおかしそうに笑う。俺は少し気恥ずかしくなり、なんとか反撃しようと言葉を探す。
「そういうお前も俺の事大好きじゃん」
「ええ、勿論。この世で1番愛してるわよ?」
「うぐっ」
照れ隠しの攻撃を更に返され、俺の顔が赤くなる。まさか反撃されるなんて……
「ふふ。まあ、それはさておき。もうそろそろかしら」
「もうそろそろ?」
冬奈の謎の言葉に疑問の声を漏らすと、誰かがこの教室へ走って来る音がした。その足音の主はこの教室の前まで来ると、バンと強く扉を開けた。
「冬奈!」
「水初?」
足音の主である水初は手を振っている冬奈を見る。すると、さっきの俺の様にバッと走り出して冬奈を抱きしめた。
「帰って来てたんだね! おかえり〜!」
「きゃっ! ……ええ、ただいま水初」
冬奈の豊満な胸に顔をうずめ、頬擦りをしている水初の頭を困った顔をしながら冬奈は撫でた。
そして、また足音がした。
「冬奈さんが居るです?! ……本当の冬奈さんです〜!」
「お前もかい」
水初のように冬奈に抱きついた胡桃にツッコミを入れる。まあ、俺も人のこと言えないけどさ。
「冬奈さん、こっちに戻って来ていたんだな」
「こんにちは、泰晴君」
こんなに早くまた5人で集まる時が来ようとは。……最近涙脆くなっているのかもしれない。
「翔梨、真子さん達にも挨拶をしたいのだけれど」
「んじゃあ俺の家行くか。ほらどけ2人とも」
『え〜』
「え〜じゃない!」
「お願い2人とも。離してくれないかしら?」
『わかりました!』
「おい!」
いつも通りな俺達を見て、冬奈が笑う。その笑顔を見ると、俺もこれ以上何かを言う気力が無くなった。
そして、手を繋ぎながら2人で俺の家に行く。今家には姉さんともう1人、弟がいる。
「ただいま〜」
「お邪魔します」
「お、翔梨おかえ……え? 冬奈ちゃん?」
「兄さんと……義姉さんですか。おかえりなさい」
「え? なんで貴方が……」
冬奈がジャスパーを見てポカンと口を開ける。
「なんでって……兄さんの弟だと言ったら真子姉さんのご両親が『住んで良いよ〜』と仰ってくださったので。あ、それと私の事は
「え、ええ」
淡々と言う侑李に少し動揺しながらもなんとか反応する冬奈。そのいつもは見れない姿に少し笑いそうになる。
「……笑わないで」
「ごめんごめん」
睨まれてしまったので大人しくやめるとしよう。これ以上ご機嫌を損ねてしまうと大変な事になってしまう。
「ささ、上がって上がって! お話しよ?」
冬奈の手を引っ張りリビングに連れて行く姉さんを俺と侑李は見送る。
「約束、ちゃんと叶ったんですね、兄さん」
「ああ。2年で帰って来るとは思わなかったけどな」
「翔梨〜! 侑李〜! 早くこっちに来なさ〜い!」
「今行く(行きます)!」
そして、4人で他愛のない雑談をする。冬奈は侑李に対して最初はぎこちなかったが時間が経つに連れて態度が軟化していった。
話し始めてから数時間が経った頃。冬奈は荷物を持って席を立った。
「ごめんなさい。まだ家に顔を出してないのでもうそろそろ帰りますね」
「また話そうね、冬奈ちゃん。いつでもおいで」
「またお会いしましょう、義姉さん」
「はい、また来ます、真子さん。侑李君もまた」
「冬奈、送ってくよ」
「ありがとう翔梨」
玄関で靴を履き、2人並んで冬奈の家への道を歩く。
「みんな元気そうで良かったわ」
「ああ、そうだな」
慈愛の籠った瞳で空を見ながら、冬奈は呟く。
冬奈の隣で歩けるこの時間が一生続けば良いのに、なんて、そんな事を思ってしまう。多分、冬奈も同じだと思う。心は読めないけどわかる。
突然冬奈がくすくすと笑い出した。俺はその理由を聞く為に冬奈の方を見る。
「いえ、ごめんなさい。翔梨に心を読まれたなと思ったら、おかしくて……ふふ」
そんなに笑うか、と言う疑問と共に俺と同じ気持ちだったという事に嬉しさでよくわからない気持ちになる。
そのままムズムズしていると、冬奈が俺に笑いかけて来た。
「でも、大丈夫よ。どうせこれからもずっと一緒なんだから」
「冬奈……ああ、そうだな」
右手で冬奈の左手を握る。すると、冬奈も強く握り返してくれた。冬奈の小さくて柔らかい手から温かさが伝わって来る。
「ねえ、翔梨」
「なんだ、冬奈?」
冬奈は俺と手を繋ぎながら、俺の唇に自らの唇を重ねた。そして数秒経ったくらいで離れ、次は片目を閉じながら白く細い人差し指を俺の唇に当ててきた。
「この手、絶対に離さないから。それに貴方はもう、私の物なんだからね?」
「ッ!」
冬奈とのキス、悪戯な笑顔、そして魅力的な姿に俺の顔は沸騰しそうなほど熱くなる。だが、今度は俺が反撃をする番だと自分を奮い立たせ、ニヤッと笑みを作り、こう言ってやった。
「ああ、冬奈も俺の物、だよな?」
「ええ、勿論よ」
そして、今度は俺から2回目のキス。この手を絶対に離さない、と俺は心に誓った。
※※
高校を卒業した俺は玖凰財閥の社員となって経験を積んだ。そして数年後、社長となった冬奈の秘書として毎日忙しくしている。
「もうそろそろね」
今日は休日。ソファに座ってテレビを見ていた俺の前にコーヒーを置き、もう一つを自分の前に置いた後、冬奈は隣に座って来た。
「コーヒーありがとう、冬奈。もうそんなに経ったのか。時の流れは早いな」
明日は結婚式を挙げる日。父さんや母さん、姉さんと侑李は勿論、泰晴達も招待している。
「ええ、本当に。貴方と出会ったあの時が昨日のように思い出せるわ」
「懐かしいな。あれがもう数年前だなんて」
冬奈はふふ、と上品に笑いながらマグカップに口をつける。その左手の薬指には俺がプレゼントしたジャスパーをメインとした指輪が付けてある。
「ねえ、翔梨」
「なんだ、冬奈?」
「ありがとう」
「……どうしたんだ、藪から棒に?」
冬奈は真剣な、でもどこか優しさもある目で俺を見つめて来る。
「私を見つけてくれて、私を救ってくれて、私を好きになってくれて。そして、私を愛してくれてありがとう。貴方は、私の光よ」
「ほ、本当にどうした?」
「ただ急に、言いたくなっちゃって」
ごめんなさい、と愛おしそうな目を向けてくれる冬奈に、俺も何かを返したくなった。
「なあ、冬奈」
「なに、翔梨?」
「こちらこそ、俺の告白を受けてくれてありがとう。これからも、ずっと一緒に居ような」
「ええ。愛しているわ、翔梨」
「俺もだよ、冬奈」
これからも共に歩もう。ずっと隣で、冬奈を守ろう。それが俺の人生の道だ。
「あら、かっこいい。頼りにしているわ」
「……最後なのに茶化すなよ……」
↓作者から
ここまで読んで頂いた方、本当にありがとう御座いました。作者からの言葉はまた改めて別で出しますがここでも感謝を述べます。ありがとう御座いました。
良ければ星などをして頂けると幸いです。ではまた。
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