第19話 悲しい現実と豆腐メンタル《ガラスのハート》

 体育祭の準備の手伝いがあった日から1日経ち、今日は土曜日。なので学校は休みだ。やったぜ。


 そこでみんなに質問だ。休みの日、何する? そう、ゲームだよね!


 と言う事で朝8時、今俺は泰晴とゲームをしている。


 「すまん、こいつ気絶させてテイムしててくれない?」


 「ああ、了解だ」


 淡々と2人で作業していく。今、この家には俺しか居ない。姉さんは大学でやらなければいけない事があるらしい。


 今日は特にやることも無いので家でだらだらするだけ。う〜ん、最高の休日か?


 作業の途中、聞こうと思っていた事を思い出し、泰晴に質問する。


 「そう言えば、生徒会長いるじゃん?」


 「ああ、いるな。それがどうした?」


 泰晴は目線を画面に向けたまま淡々と告げる。


 「いや、昨日あの人目を瞑っていたけどあれ見えてるの?」


 「ああ、見えるらしいぞ。会長から直接聞いた」


 聞いたんかい。まあそりゃあ気になるよな。目を瞑ってたら普通見えないんだから。


 その会話の後、互いに集中していたからか会話は無くなった。……だが、その30分ほど経った時、聞き覚えのある声が聞こえた。


 「お邪魔しま〜す! 泰晴〜! 今日は私が朝ご飯の当番だよね〜?!」


 「そうだぞ〜!」


 水初だった。あいつ朝起きるの結構早いんだな、意外過ぎる。……ん? 今日は私が当番?


 「なあ、泰晴。今日はって言っていたがいつも水初と朝ご飯を食べているのか?」


 「ああ、互いに用事が無い日とかは大体一緒だな」


 ……なんかもう驚かなくなって来た。1周回って尊敬するよ、もう。


 「水初〜! 今日は遊びに行くんだよな〜?!」


 泰晴が水初へ言葉を飛ばす。それに対し、水初は悲しさを含ませたような声で返事をする。


 「断られた〜! だから泰晴の家にいる〜!」


 「わかった〜!」


 泰晴がまた声を張り上げる。いつまでそれで会話するんだお前ら。


 「水初は冬奈を誘ったのか?」


 「ああ、そうだ。前からたまに遊んだりしているみたいだぞ?」


 そうなのか。初めて知った。まあ仲良いから行ってそうだけどさ。


 その時、コンコン、と泰晴の部屋がノックされた。その訪問者とは勿論……。


 「ねえ泰晴。今翔梨と通話してる?」


 水初だ……が、何故かテンションが低い? 


 俺と泰晴はさっきとは違う水初のテンションに何かあったのかと心配していると、水初は焦ったように捲し立てた。


 「あ、いや! 私はなんとも無いよ?! 元気だよ?! ……でもね——」


 水初は真剣な表情になり、水初から見て画面に映っている俺と目線を合わせた。


 「私も注意するけど……泰晴、翔梨達もいつもより注意して冬奈を見て」


 「……どう言う事だ?」


 水初のように誰かに恨みを買った? いや、それとも前に冬奈の前に現れたジャスパーとか言うやつか?


 「なんて言うか……私みたいな感じじゃ無いと思う。なんか……疲れてる、みたいな?」


 「疲れている……か」


 何に? 体育祭の準備か? いや、そこまで重労働では無かったはず。


 「まあ……わかった。注意しておく」


 「ああ、俺も気をつけよう」


 その返答に頷き、水初は泰晴の部屋を出て行った。


 その後も水初が朝食を作るまでの間ゲームをし、水初が泰晴を呼んで泰晴は朝食を済ませに下に降りて行った。その間、1人でボス用の生物を育てる。これ、マジで時間がかかるんだよ。


 その時に考えるのは勿論、さっきの水初の言葉。


 「……少し、メールを送ってみるか」


 そう思い立ち、スマホを手に取り電源を入れる。メールアプリを立ち上げ、水初に「冬奈の連絡先持ってないの?! ならはい! ちなみに許可は取ってるよ! 凄く嬉しそうだった!」と言われながらに登録された冬奈の連絡先へメッセージを送る。


 『おはよう、冬奈。今何をしているんだ?』


 ……我ながらあまりにもド直球。それに唐突過ぎる。やばい、何か詮索されるか……?


 なんて思っていると、返信が来た。返信早過ぎないか? まだ1分も経ってないぞ?


 『おはよう。特に何もしていないわよ? ただ、少しだけ勉強していただけ』


 え、この子偉すぎんか? 休みの日に勉強してんの?


 『そうか。勉強も大切だがしっかり休むんだぞ?』


 『ええ、ありがとう』


 またもや早い返信。そして……なあ、もしかしてなんだけど。俺、会話繋ぐの下手なんじゃね?


 自分から話しかけてんのに速攻で終わらせるじゃん。


 も、もう少しだけなにか……!


 『今何時間くらい勉強しているんだ?』


 ……数分ほど時間が経った。さっきまでめっちゃ早かったのに……どうしたんだ?


 『30〜1時間くらいかしら』


 俺にとっては結構勉強していると言う部類に入る時間だな。これを少しと言えるのは流石冬奈。


 『ごめんなさい。もうそろそろ休憩が終わるわ。また』


 そうメッセージが飛んできたので『ああ、またな』と返し、メールアプリを閉じる。詮索はされなかったようで安心した。


 今日気づいた事は、俺は会話が下手だって事。


 薄々気づいては居たが……こうやって突きつけられると悲しい。そして、何故か懐かしさを覚えた。……何故? この高校生活でそんな事があった覚えは無いが……。


 「俺って結構、豆腐メンタル《ガラスのハート》だったんだな……」


 俺が悲しさで机に突っ伏していると、泰晴が戻って来た。気がついたら30分ほど経っていたらしい。


 少し俺を観察した後、泰晴は怪訝そうな顔で口を開いた。


 「……なんでお前、そんなに悲しそうなんだ?」


 「……はは、鉛筆の佃煮って美味しいのかな……?」


 「おい? どうした? 翔梨?」


 「トリカブトを添えたらもっと美味しそう……」


 「食べるなよ?! おい、水初! 翔梨が壊れた!」


 その後、何事だと駆けつけた水初に爆笑されたのは言われるまでも無い。



 


 


 


 


 

 

 


 


 

 


 


 


 


 

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