第18話 体育祭の手伝いは結構面倒
結局、俺達4人は全て希望する種目に出れるらしい。
放課後廊下を1人で歩いて行く。周りに人は居ない。大体の人は部活に行ったのだろう。夕陽に照らされた廊下に喧騒は無い。
あれ、確か今日なんか先生が体育館は使えないとか言ってたか? ……まあ良いか、俺関係無いし。
昇降口に向かう為に階段を降りる。1年2組の教室は3階にある為少々面倒だ。
2階まで降り、あともう少しで昇降口と言う所で泰晴と会った。
「ん? 翔梨、今帰りか?」
「ああ」
泰晴は目線を落とし、「翔梨に頼むか? ……聞くだけ聞いてみよう」と呟き、顔を上げて俺の顔を見た。
「すまない、翔梨。少し時間あるか? 少し手伝って欲しい事がある」
「手伝って欲しい事?」
今日も部屋でゲームするだけなので暇だし……まあ話だけでも聞くか。面倒な感じだったら最悪嘘をつこう。
「ああ、体育祭の準備をやっているのだが休んでいる人も居てな。人手が足らんのだ。手伝ってくれないか? 報酬も出そう」
「う〜ん」
体育祭の準備か……。あまり話した事の無い人と話すのは苦手なんだよな……。だが、泰晴が困っているのに無視するのも……。
「……わかった。俺も手伝う」
「すまない。恩に着る」
泰晴に案内して貰い、その作業場所に行く。階段を降り、1階へ。そして、そこから泰晴に着いていく。
「なあ、お前って生徒会とか体育祭の実行委員とかだったりするっけ?」
「いや、違う。ただ、飛び火しただけだ」
「飛び火?」
俺が首を傾げるが、泰晴は「行けば分かる」と言い進んでいく。そのまま並んで歩いて行くと体育館に着いた。少し前の俺に告ぐ。お前、関係あるよ。
「これそっちに持ってって〜」
「はーい! 了解です!」
……なんか、聞き覚えのある元気な声だな。
体育館の中を覗くと、結構人が居た。少し見覚えのある人、先輩と思わしき人、そして先生達が忙しそうにしていた。
「ああ、泰晴君。……と、そこの君は?」
そしてダンボールを運んで居た人がこっちにやって来た。誰、この人。
髪は紺色でさらさらのセミロング。身長は155くらいか? 人を惹きつける綺麗な顔。そしてずっと目を瞑っている。見えるのか、それ?
「生徒会長、こんにちは。こちら、桜井翔梨です。手伝いで来てくれました」
「ああ、そう。ありがとうね、翔梨君も忙しいだろうに。じゃあ、早速お願い。あそこの人に指示を仰いで」
会長は高身長でテキパキと作業をしている仕事の出来そうな男を指差し、ダンボールをどこかへ持って行った。見えるんだ、その目で。
会長が行った後、俺は隣にいる泰晴に小声で捲し立てた。
「え、あの人生徒会長なの?!」
「なんだお前、知らんのか。行事の時とかたまに前に出て話していただろう」
「その時の俺、意識あった?」
「知らんわ」
まあ、とりあえず手伝うことにしよう。
俺達はさっき会長が指を差した人に近づく。その先輩? はこちらに気づき、手を振って来た。
黒色のツーブロックにシュッと引き締まった良い体をしている。泰晴はガタイが良いと言う感じだが、その先輩は細マッチョだ。
「泰晴君、すまないね。それに君は桜井翔梨君だね。手伝いに来てくれてありがとう」
なんでこの人、初対面なのに俺の名前知ってんの? こわっ。鳥肌たったわ。
「この人は副会長。生徒の名前は1年生も全て把握している」
その言葉に、俺は驚愕を隠しきれなかった。化け物だろ、この人。
「それじゃ、あそこの手伝いをお願い出来るかな? 泰晴君はあっちをお願いするよ」
副会長は飾り付けをしている人達を見ながら言う。そこで俺は見覚えのある女子生徒を見つけた。
「まさか冬奈もここに居るなんてな」
「あら? 翔梨?」
毛先だけ赤色の黒髪はわかりやすいし何よりも人よりも雰囲気が違う。
「なんでここに? 貴方は自主的に手伝ったりする人では無いと思うのだけれど」
「わぁお辛辣な評価。まあ合ってるけど。泰晴にお願いされてな。冬奈は……水初か」
「正解。あんな風にお願いされたら断れないわ」
どんな風にお願いされたんだよ。
そして冬奈が脚立、俺は下でその補助をする。暇だし外見てよ。
まだ1ヶ月前なのにこんな事するのか、と思っていると、冬奈に呼ばれたので上を見上げ、冬奈を捉える。
すると——
「うおっ!」
「うん? どうしたの?」
俺は反射的に視線を逸らす。何を見たのって? ……秘密だ。ヒントを言うとすれば……この学校の女子の制服はスカートだ。
「いや……その……」
俺が言い淀んでいると、冬奈は自分のスカートの中を隠し、こちらにジト目を向けて来た。
「……ばか」
「すいません……」
思わず謝ってしまった。心を読まれたのか。……これは俺が悪いのか?
少しの間、会話が無く淡々と作業が進み、飾りつけが終わった。
「やっと終わったか。意外と長かった〜」
「ええ、そうね。結構時間がかか——きゃっ」
「冬奈ッ!!」
冬奈が脚立から降りようとして足を滑らせる。俺は、反射的に動いていた。
「あぶねっ!」
なんとか冬奈を受け止める事に成功する。最終段まで登って居たから危なかった。
「怪我は無いか?」
「……多分無いわ、ありがとう。……それと、いつまでこの体勢なの?」
「あっ、やべ」
無意識にお姫様抱っこのような体勢になってしまった。
「ごめん……」
「いえ、助けてくれたんだし……ありがとう」
その一部始終を見ていた人達からは嫉妬や興奮、その他諸々の視線を受けるのだった。
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