第17話 体育祭へ向けて

 少し前にテストが終わり、5月中旬。光雪学園では1ヶ月後に体育祭がある。


 そして放課後、俺は泰晴の家にお邪魔していた。


 「なんかこの部屋って落ち着くよな」


 「凄い分かる! まあ私は慣れているってのもあるけどね〜」


 俺にいつものテンションで言葉を返す水初。前みたいに戻って良かった。


 「……翔梨はまだ1回しか来てないだろ……」


 「ま、まあ翔梨の気持ちもわからなくはないわよ……?」

 ちなみに今日のメンバーは俺、泰晴、水初、冬奈の4人だ。


 「ん? いつの間に冬奈は翔梨を呼び捨てで呼ぶようになったの?!」


 まあ、流石に気づくか。冬奈はどう反応する?


 水初の問いに冬奈は目を泳がせ、挙動不審になりながら答える。


 「き、昨日……いえ、やっぱりなんでも無いわ」


 いや、別に誤魔化さなくて良いのよ。昨日ただ冬奈を家に送っただけだよ? それだけだよ?


 「まあまあ、落ち着け水初」


 「いやでも泰晴! 私は許せないの!」


 「ん、何がだ?」


 俺もわからん。何が許せないんだ?


 水初はこほん、と咳払いをし、目をキラキラさせた。


 「冬奈に呼び捨てにされるなんてずるい! 私の事も呼び捨てにして?! いや、あだ名でも良いよ?!」


 「え? え?」


 水初に眼前まで顔を近づけられ、冬奈は困惑している。だが、すぐに泰晴が水初の服の襟を掴み、離す。


 「あうう」


 「冬奈さんが困っているだろうが。やめなさい」


 「お願い! お願い冬奈! ね?! ね?!」


 泰晴に嗜められながらも水初はしつこくお願いする。どんだけ呼び捨てにして欲しいんだよ。


 「え、え〜と……水初?」


 「やったー! 泰晴聞いた?! 翔梨聞いた?!」


 『五月蝿い』


 冬奈に抱きついて頬擦りしている水初に注意する。完璧にハモったな。流石に近所迷惑になるだろ。


 「てか、今日は雑談だけが目的で俺の家に集まった訳じゃ無いだろ?」


 「あ、そう言えばそうだったね! 翔梨は体育祭の種目決まったの?!」


 「体育祭の種目って何があるっけ? 今日聞いてなかったんだよな……」


 「ちゃんと先生の話を聞きなさい」


 「はい、すいません……」


 冬奈に呆れた目を向けられたので素直に謝る。


 「何があったっけ?」


 「リレー、障害物競走、借り物競走、綱引き、玉入れ、棒倒し、クイズかしら」


 「確かクイズは全員参加だよね! 他は選択制だったっけ?」


 「ええ、そうよ」


 水初に抱きつかれながら冬奈が答える。泰晴は水初を剥がすのを諦めたようだ。呆れているように見せて少し嬉しそうだ。


 「クイズって何が出るのかな〜? 楽しみ!」


 「元気だな、お前」


 俺はキンキンに冷えてやがるコーラを飲みながら家でゲームしてたいよ。


 「一応確認しておくが選択制の種目は2つ選ぶ。最初に生徒の要望を聞き、全部希望が集まったら先生が生徒と相談して各種種目に出る選手を決めていく。俺はリレーと棒倒しだな」


 「私はリレーと障害物競走! 私も泰晴と同じで結構運動は得意だからね!」


 「俺はお前ほどじゃないけどな」


 「空手の大会で何度も優勝している人がそれは無理があると思うな〜?」


 「2人だけの世界に入らないでくれ。俺と冬奈が泣いちゃうぞ?」


 「なんで私も?」


 わいわいと4人で雑談をしながら体育祭について話す。


 「ちなみに冬奈は種目決めたのか?」


 「え〜と、確かみ——」


 「冬奈は私と同じ! 一緒にやろ〜って誘ったの!」


 途中で止めるなって。冬奈が可哀想だろ。勢いが凄いな。


 「じゃあ泰晴がリレーと棒倒し、水初と冬奈がリレーと障害物競走か。俺は……まあ適当に玉入れと綱引きで良いか」


 「あまり動かない種目だな」


 まあ、俺あまり運動好きじゃ無いし。誰かの代わりにとかなら出るかもだが。


 ——その後、雑談をしていると18時30分頃になった。もうそろそろお暇するかな。


 「さて、もうそろそろ帰るとするよ。泰晴、今日はありがとうな」


 「私も帰るわ。お母様に怒られたくは無いもの」


 俺と同時に冬奈も立つ。水初はベッドで漫画を読んでいた。


 「水初、お前は帰らないのか?」


 「ん〜? 私は今日泊まっていくから〜。おばさんに許可は取ったからね〜」


 ……これで付き合ってないとかこいつらマジか。


 俺と冬奈は見送りに来た泰晴に挨拶をし、冬奈を送るために冬奈の家への道を歩く。


 「冬奈は運動得意だもんな。色々な種目に引っ張りだこなんじゃ?」


 「まあ、そうね。ある程度は出来るわ」


 「流石だな。俺もぼちぼち頑張るとするか〜」


 ある程度はやらなければバッシングを受けてしまう。それは遠慮したい。


 俺のその言葉に対し、冬奈は右手を握り締め、何かを決意したような顔をした。


 「やるからには全力でやらなきゃ。高校で最初の体育祭なんだもの。それに、みんなが私に期待してくれている……それに答えなきゃ」


 そして、その時の冬奈の表情は、言葉とは違い、悲しそうな顔をしていた。


 体育祭の種目を決めろと先生から言われた後、冬奈の周りには大勢の人が集まっていた。なんの種目にするのか、運動が得意だからこの種目に出て欲しい、など。


 勉強も、運動も、習い事とかも、冬奈は期待されて、努力し、それに答えて来たんだろう。だからこそ、冬奈は周りから天才と、そう呼ばれている。


 冬奈と俺は、少し同じで、少し違うのかもしれない。

 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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