第15話 不可解な解決
私、卯月水初は今日(水曜日)、放課後に光雪学園の2階にある空き教室に来ていた。
ここに来ていた理由は1つ。それは呼ばれたからだ。クラスメートに。
「どうだ、宮雛泰晴を守れそうか?」
「……」
そのクラスメート、佐奈田裕里が私に性格の悪い質問をぶつける。その言葉に、私は沈黙を返した。
「……泰晴に手を出したら許さない」
「あっはは! 唯一出た脅しがそれか? あまりにも滑稽だな!」
祐里は私の無様な抵抗に嘲笑した。
この3日間、色々な手を使い調べたが情報は全然得られなかった。わかった事は2つ。1つ、佐奈田裕里はただの駒、犯人は別にいると言う事。もう1つは——何も情報が無いと言う事。
1つ目の根拠は私と佐奈田裕里には接点がない。私は一度話した人の顔は大体覚える。だが、佐奈田祐里は記憶に無かった。そして佐奈田裕里は詳しい事は何も知らないと思う。多分、裏の犯人に命令されているだけだろう。
そして2つ目はそのままの意味だ。色々な人に話を聞いたり、他の手段を使って調べてはみたが何も出なかった。
そして、佐奈田裕里も意味がわからなかった。観察してみたが何か行動をするわけでもない。ただ友達と談笑し、授業を受け、帰宅する。家は裕福とも貧乏とも言えないくらい。
そして何よりも不思議なのがあの宣言をされた後、佐奈田裕里に違和感を覚えて話しかけて見たがまるで初対面のような顔や口調だった事。そして、それは泰晴にも同じだった。
いくら情報を渡されてないと言っても私とはあの放課後に会っているし泰晴を狙っている事だって知っているだろう。
意味がわからない。何をしたいんだ?
「……くくっ、悩んでるな」
「……ちっ」
思わず舌打ちをしてしまう。不可解な事ばかりだ。私ではどうすることも出来ない。
「……む? 珍しいな。ここに客か?」
「え?」
佐奈田裕里が意味のわからない事を行った2秒後、この空き教室の扉が開いた。
「確かにここなら大体誰も来ないな」
「……泰晴?」
泰晴だった。どうしてここが? それに泰晴は何も知らないはず……。
「お前は佐奈田裕里だな。お前に聞きたいことがある。お前の本当の目的はなんだ?」
私を無視し、泰晴が扉を閉めた後に祐里へ質問する。本当の目的? 目的は泰晴を使って私に復讐をする事なんじゃ……?
その質問に対し、裕里は試すような笑みを浮かべる。
「本当の目的、とは? 私の目的はわかっているはずだろ?」
「なら、何故最初に俺の情報を漏らさなかった?」
「……」
「そうした方がお前に有利になったんじゃ無いか? ただ水初を傷つけるのが目的ならな」
「……」
佐奈田裕里は沈黙を通す。そして更に泰晴が口を開く。
「そしてもう1つ。お前は誰だ?」
「はは、クラスメートなのに忘れるとはな。私は悲しいよ、宮雛泰晴。私は佐奈田ゆ——」
「そうじゃない。今のお前は、と言う意味だ」
「今の、お前? 泰晴、どう言う事?」
「そのままの意味だ。今のあいつは何かが違う。お前だって雰囲気などで薄々気づいているだろ?」
確かに、私が佐奈田裕里に対しての第一印象は今のような見下すような感じでは無かった。
「それに……その目だ。さっきからずっと虚ろだ。光が無い。それはなんだ?」
確かに、今の佐奈田裕里の目には光が無い。まるで意識が無いような、そんな印象を受ける。色々不思議な事が多すぎてそこまで意識が向いてなかった。
「何かに取り憑かれているとか? もしかして幽霊?」
「さあな。それはわからないが……本人なら知っているだろう?」
泰晴がギロリ、と睨むと、佐奈田裕里はそれと反対に楽しそうに笑った。
「……まあ、最初だしこれくらいの難易度で良かったみたいだな」
佐奈田裕里が呟く。その言葉を聞き逃さず、泰晴が問いただす。
「おい、それはどう言う意味だ。最初? 次があるのか?」
「勿論。だって私の目的はお前達じゃない。お前達の近くにいる人物だ」
「近くに居る、人物?」
泰晴が聞き返す。私達の近くにいるとなると冬奈、翔梨、そして家族とかかな?
「そうだ。今回はその人が出てくるか見ていただけだ。お前達とは違う、私が尊敬するただ1人の人間。多分、この件にも関わっているだろ? ……桜井翔梨が」
「ッ!!」
私と泰晴はその予想外の名前に驚愕を隠せなかった。翔梨? こいつは翔梨が目的なの?
「くくっ。やはりか。あまり他人に動揺を見せない方が良いぞ?」
「ちっ、随分と癪に触るやつのようだ。お前、友達居ないだろ?」
「さあ、それはどうかな?」
泰晴の煽りにそう返した後、佐奈田裕里は泰晴と私を通り過ぎ、教室の扉に右手をかける。
「この件はもう終わりだ。元々君達に危害を加える気は無かったし、私は帰る事にするよ」
だが、泰晴が佐奈田裕里の左手を掴み、止める。
「待て、これだけ意味わからない事やっておいてふざけるなよ。お前の他にも今回の件に関わっているやつが居るはずだろ。それを吐け」
泰晴は怒気をはらんだ声で言うと、佐奈田裕里は振り返り、威圧を含んだ笑みを泰晴に向け、言った。
「早くその手を離した方が良い。君と僕じゃ、全てが違う」
その異様な、重みがある圧に私達は何も言えなくなった。佐奈田裕里は泰晴の手を振り解くと、教室を出て行った。……と思ったら少し顔を出して——
「ああ、ちなみに。卯月水初、君に恨みを持った人間は本当に居た。今回は私が居たから何も無かったが……いや、翔梨兄さんが居たなら大丈夫か。どうせ今回は何か保険を作っていただろうし」
最後に小声で何かを言い、そいつは去って行った。結局最後まで謎が多い人だ。
「お、終わったの……?」
「俺も、よくわからん……」
そうして、この件は謎を残したまま解決? した。
あの圧……あいつは、何者なの? それに、目的は翔梨……?
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