第14話 迫る明日
泰晴と通話した次の日も、勿論学校がある。正直、眠いので行きたくない。けど行く意味もちゃんとあるのでモフ(相棒の布団の名前)から離れ、学校へ行く。
「え〜と、水初を呼んだやつの名前なんだっけな……」
人の名前が書かれた紙を見ながら登校し、教室へ行く。
「え〜と、あの女子か」
いつも通り席に座り、クラスメートの1人である
「ふむ……」
俺は首を傾げてしまう。あいつが水初に何か恨みを持っているのか? 調べた限りそんな事は出てこなかった。
俺から見ればあいつが水初にあんな事言うとは思えないんだよな〜。……ん? なんで佐奈田裕里が水初に言った言葉を知ってるのって? 学校の監視カメラをハッキングしただけ。監視カメラに音を拾われないように小声で言っていたけど口の動きでわかるさ。
俺が佐奈田裕里の事を横目で見ていると、彼女は背を向けていた俺の方を向き、俺をちらりとみた。だが、すぐにまた背を向けてしまう。
「……ん?」
その一瞬で、あの裕里と言う女子に違和感を持つ。だが、ぱっと見不自然な所は無かったと思う。なんだ、今のは?
「おはよう、翔梨」
登校して来た泰晴に挨拶を返し、泰晴は自分の席(俺の前の席)に座る。そして、俺にそのダンディーな顔を近づけて小声で話しかけて来た。
「まさか俺が狙われているとはな。まあ、水初は自分より他人を優先するタイプだから効果的ではあるが……」
一応泰晴とは出来るだけ情報共有をしている。……それにしてもあいつ、マジでお人好し過ぎないか?
「そして翔梨。言われた通り佐奈田裕里を調べてみたが特に何も出なかったぞ? 誰かを調べているみたいな話も無かった」
「……やっぱりか〜」
やはり裏に誰か居ると考えた方が良いな。その方が辻褄が合う。だがその裏にいる人物をどう探るか……本人に直接聞くのは論外だし……。
「なあ、泰晴。今更なんだけどさ、俺達も動いてるって水初に伝えれば良くない?」
「それはあまり得策では無いと思う。水初は俺達の事を気遣い、1人で解決しようとしている。俺達が手伝うと言ってもあいつは絶対に断り、なんならお前にまで被害が及ばないようにと阻止までしてくるかもしれない。なら、言わない方が良いと思う」
「あいつ、お人よし過ぎるだろ」
俺が驚愕で呆気に取られていると、泰晴が席を立った。
「すまない。腹痛で死にそうだから少しお手洗いへ行ってくる」
「りょうか〜い。……どうしようかな……あ!」
冬奈さんなら佐奈田裕里の心読んで暴けるんじゃね?
「冬奈さん、おはよ〜」
「ええ、おはよう」
次の瞬間、そんな会話が聞こえてくる。なんて都合が良い。最高のタイミングだ。俺は思わず期待の眼差しを向ける。冬奈さんはそのまま俺の隣の席に鞄を置き、俺を怪訝そうな目で見る。
「……どうしたの?」
「ああ……いや、ちょっとお願いがあってさ」
やべ、期待の眼差し送り過ぎた。めっちゃ怪しまれている。
「お願い? 何かしら?」
俺は冬奈さんにしか聞こえないくらいの声でお願いを口にする。
「少しで良いんだ。少しで良いからあの佐奈田裕里の心を読んでくれないか?」
「? なんでよ?」
「お願いだ。とりあえず読んでみて欲しい」
「ま、まあ……良いけど」
冬奈さんは佐奈田裕里の方を見て、少し経った後少し首を傾げた。
「な、何かあったか? なんて言ってた?」
「……2人目ね……」
「え? どう言う事?」
冬奈さんは裕里の方へ向けていた体と視線を俺の方に変え、小声で言ってきた。
「聞こえないの。他の子は聞こえるのに」
「え?」
それはつまり、俺と同じ感じって事か?なんで佐奈田裕里が……。
「いえ、貴方と同じと言う感覚では無いわね」
「その心は?」
「なんで謎かけみたいな返しなのかは置いておいて。貴方はなんと言うか……聞こうとしても隠されているような、聞こえそうなのに聞こえない見たいな感覚よ。でも裕里さんは——無よ。何も聞こえない。まるでそこに居ないみたいに」
「……マジか」
どう言う事だ? 何も聞こえないって事は何も考えて無いって事だ。でもクラスメートとは話してる。ここから導き出される答えは——!
「もしかしてあの人、脊髄反射で喋ってるんじゃね?」
「貴方は頭がおかしいの?」
いや、それしか無いだろ。それ以外に何があるんだよ。
「……ん?」
冬奈さんが俺の顔を覗き込んでくる。知ってる? 美少女に顔を近づけられたらドキドキするんですよ?
「ま、まだ何か不思議な事が?」
「ええ。今からそれを確かめるわ。貴方に質問よ。果物の林檎と桃。どちらが好きかしら?」
「そりゃあ勿論——」
「解答はしなくて良いわ」
林檎、と言おうとしたら遮られた。理不尽だと思う。質問して来たのはそっちなのに。
「貴方が好きなのは林檎ね?」
「え……正解だ」
心臓が跳ねる。なんでわかったんだ? 俺の心は読めなかったはず……。
「読めるようになっている、と考えるのが自然ね……何が原因なのかしら……」
なんか最近頭を悩ませる事が多い気がする。俺の脳が過労死しちゃうよ。
すると、視界の端に水初の姿を捉える。クラスメートと談笑している姿はいつも通り笑顔で、悩んでいる事を少しも連想させない。
「冬奈さん、少しだけ良いか? 1つだけ手伝って欲しい事がある」
「水初さんの事かしら?」
「……俺の心を読んだな?」
「正確には貴方と水初さんの心をね」
冬奈さんは少し揶揄うような、それでいて優しい笑みを浮かべる。
「水初さんには色々助けられているからね。なんでも言って」
「ああ、すまない。冬奈さんにやって欲しい事は——」
俺は冬奈さんに言い、冬奈さんはそれに頷いてくれた。
「わかったわ。なんとかやってみる」
「ああ、頼む」
これで俺達が失敗した時の保険も作った。
あとは明日、何もかもを終わらせるだけ。
そして、時間は明日の放課後まで進む。
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