第12話 チョコレートより甘い物
あの後、先生が来るまで冬奈さんとチビが雑談をし、俺はそれを見守ると言う形になった。
最初の頃のチビは「わ、ワタ、私の名前はくりゅみでしゅ!」なんて言ってて思わず吹き出しそうになった。
その少し後、何故か暗い顔をした水初が帰ってきて、話を聞こうとしたのだが先生が来てしまった。
そして時刻は16時。一般的に放課後と言われている時間だ。校庭や体育館では部活に勤しむ光雪学園の生徒達が見えるのだろう。まあ、今は教室にいるから校庭しか見えないけど。
え? 何故帰宅部がまだ学校に残っているのって? 少し考え事をしていたのだ。いつもなら帰ってゲームの電源つけて発狂してる。
「ふむ……」
やはり、俺の違和感は間違いでは無いだろう。
今日、水初がおかしかった。だが前のテスト赤点の時のような感じでは無い。
あの時はいつもよりテンションが低かった。それだけだった。だが、今日は違う。テンションはいつも通り、笑顔だって見せている。一見すれば違和感は無い。
でも、何故か無理をしているように見えた。まるで笑顔と言う虚像を見せ、その内側にある何かを隠すような。
俺が水初と関わり始めてあまり時間が経っていない。なので断言は出来ない。ここは様子見か……?
「あら、翔梨君。なんでまだ教室に?」
俺が1人で考え事をしていると冬奈さんが話しかけて来た。
「いや、少しだけ考え事だ。冬奈さんは?」
「私は先生に呼ばれて職員室に行っていたわ。帰らないの?」
「いや、帰るよ」
俺は自分の鞄を持ち、教室の扉に近づこうと歩みを進めようとすると——
「ねえ、翔梨君」
「ん? どうした?」
冬奈さんに呼び止められた。俺は立ち止まり、話を聞く事にする。
「あのね」
少し顔が赤くなっている冬奈さん。これは夕日か、それとも別の何かなのか。
「最近、近くにクレープ屋さんが出来たのは知ってる……?」
「ああ、有名だよな。なんでも映えて、美味しいだとか。って、まさか」
冬奈さんは意を決したような顔で、俺に告げた。
「私と、一緒に行かない?」
※※
学校を出て、15分ほど歩いた後、俺達は件のクレープ屋に来ていた。
あの後冬奈さんは「いえ! 他意は無くてね?! ただクラスメートの人達から凄く美味しいと聞いて1人で行くのもなって! 水初さんは泰晴君と行くだろうし!」とかなんとか言っていたので穏やかな、慈愛の目をプレゼントしてあげました。焦っている姿、可愛かったです。
俺と冬奈さんはそれぞれチョコレート、ストロベリーのクレープを買う。ちなみに奢ると言ったら「付き合わせているのはこっちだから」と言われたので粘っても駄目だった。強情な。
「あ、美味い」
「ええ、こっちも美味しいわ」
近くにあったベンチに座り、クレープを食べる。これは有名になるな。見た目も華やかで綺麗だしちゃんと美味しい。
「ねえ、それ、ちょっとくれない?」
冬奈さんは俺の右手に持っているクレープをロックオンしながら言ってきた。目がキラキラとしている。
「あ、ああ、良いけど」
「やった! ありがとう!」
はしゃいでいる姿も様になっている。どうすれば良いんだろう。手で少しちぎった方が良いのか? ナイフとかは持ってないしな……。
なんて考えていると俺の右手に冬奈さんの顔が近づいてきて——
「はむっ」
「あ、ちょ」
冬奈さんが俺のチョコレートクレープを食べた。それ、間接キスなんじゃ……。
「うん! 美味しいわね! こっちも食べたいと思っていたのだけど夕食が食べられなくなるから頼めなかったのよ!」
テンション高めに冬奈さんが言ってくる。俺は少し思考が停止していた。すると……。
「? ああ、そう言うことね! はい、どうぞ!」
と、冬奈さんがストロベリークレープを近づけながら言ってきた。え、どう言う事?
「さっきから見ていたじゃ無い! 気になったんでしょう?! わかるわ、その気持ち!」
一旦落ち着いて? 今、やばい事してるから。
そんな俺の気持ちは届かず、冬奈さんはクレープを近づけて「まだなの〜? 感想を言い合いましょうよ〜」と言ってくる。ああ、くそ。こうなりゃヤケだ!
「あむっ!」
「どう?! どう?! 美味しいでしょう?!」
「あ、ああ、そうだな」
やべえ、超恥ずい。思わず冬奈さんから視線を逸らしてしまう。すると……。
「? どうしたの? なんで赤くなっているの?」
冬奈さんから純粋な目が飛んでくる。なんでって、そりゃあ——
「これ、間接キスだぞ……?」
「え? ……あ!」
ようやく気付いたのか、冬奈さんの顔が一気に赤くなる。
そのまま少しの間静寂が訪れ、15分ほどたった後、解散した。
※※
上手く、誤魔化せただろうか。
朝にあまり話した事のない黒色のポニーテールのクラスメートから呼び出され、言われた事。
「今から3日後に宮雛泰晴君は苦しみ、絶望する事になるわ。全て貴女のせいよ。貴女が悪いの」
意味がわからなかった。何故泰晴なのか、目の前のクラスメートが全て仕組んでいるのか、他にも色々な思考が頭を巡る。
3日以内に全ての謎を解き、解決しなければ。これは私がやらなければならない。誰の力も借りられない。冬奈にも、翔梨にも、勿論泰晴にも。
誰かに伝えたら、その人に心配をかけてしまう。私の好きな人達に。それだけは嫌だ。
だから、いつも通り笑っていよう。誰にも気づかれないように。大丈夫、私なら出来る。だって——
「もう……慣れてるでしょ? 水初?」
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