第10話 犬餌胡桃参上!
「私の事を知っているのですか。冬奈様をたぶらかしたゴミが」
「は?」
どうして、こんな事になっているんだろう。
俺はただストーカーを捕まえただけなのに。悪いのはあっちなのに。
「私達の女神、冬奈様……絶対にお前にはやらないです!」
栗色のショートヘア。愛嬌のある整った顔立ち。身長は150cmくらいか? 小柄な印象を受ける。まるで小動物みたいだ。
俺は少しだけ不機嫌そうな声を出し、威圧する。
「なんでお前にそんな事を言われなくちゃならないんだよ」
「五月蝿いです! 冬奈様はみんなのもの! あなたに独占させる訳には行かないのですよ、桜井翔梨!」
威圧の効果は無さそうだな。それにしても名前知ってるんだ。絶対に知らないと思っていた。
「まあそんな事は良いさ。いや良くは無いが。本題に入ろう。何故ストーカーをしていた?」
一応見当は付いているが答え合わせの為に聞いておこう。
胡桃は腰に両手を当て、何故かドヤ顔になり、俺の質問に答える。
「ふふん! それは勿論監視のためです! 冬奈様に男なんぞ不要!」
こ、こいつやばいやつだ……。なんでドヤ顔なの? なんでそんなに威張り散らせるんだよ。
「てか、お前は冬奈さんのなんなの? 一緒に居る所見た事無いけど?」
「うっ……」
胡桃は痛い所を突かれたと言うような表情で悔しがっている。だがすぐ無い胸を張り、偉そうな態度になる。
「自己紹介をしてやるです! 私の名前は
「だっさいクラブ名だな」
「なんですとぉ!!!」
いや、そのまんま過ぎるだろ。なんだよスノーライトって。冬奈の冬に学校名の光を英語にしただけやん。
もっとなんかあっただろ。ほら、校章にある……クラ……クラス……名前は忘れたけど黄色い花とかさ。
「で? わざわざ冬奈さんじゃなくて俺を追いかけて来たのには理由があるんだろ? 早く言え」
「す、鋭いですねこいつ……」
誰でもわかるわ。それに早く帰りたいんだよ、俺。真子姉さんが待ってるし。
胡桃は真剣な顔になり、自分の右手でピースを作り、理由を話す。
「理由は2つ。1つ目、お前は冬奈様に近づかないようにと警告するため。2つ目、これがかなり大切です」
あまりに真剣な顔な為、どんな大切な理由なんだ、と俺がドキドキしていると。
「私も冬奈様と仲良くなりたいのです! 紹介してください!」
「はよ家に帰れチビが」
「なんですとぉ!!!」
マジでしょうもない。そんな事自分でなんとかしろ。はあ、帰ろ。
俺がその要求は突っぱね、家に帰ろうと歩き出す。
「まあ待てです。話は終わってません」
今日の夕飯何かな〜。肉? 魚? サラダあるのかな? 楽しみだわ〜。
「待てと言っているのです、桜井翔梨!」
「なんだよ、もうお前に用は無いから帰れ」
「等価交換です、桜井翔梨。私の要求を飲むのなら、私とそれ相応の対価を支払います」
「なんだと?」
はぁ、俺も舐められた物だ。この俺と等価交換なんてお前の命でも足らな——
「お前のやっているゲーム。アOクでしたっけ? あれのDLC全部、私が買ってやるです」
「おーけー、交渉成立だ。今日から俺とお前は
「こいつ手のひらくるくるです」
そんな条件出されたら流石に頷くしかない。俺はあまりお金を使いたく無いからな。
「まあ良いです。それじゃあ、明日からよろしくです」
「ああ、了解だ。じゃあな」
「待てです。あと1つだけ」
そのまま立ち去ろうとするとまた止められた。なんだよ、他に何があるんだよ。
「連絡先を交換しておくです。作戦会議とかに必要になるかもです」
「ああ、そう言うことか。わかった」
そのまま連絡先を交換し、互いに帰路に着いた。
時刻は19時過ぎくらい。あの野郎のせいで時間を食ってしまった。だが、収穫もあったので良しとしよう。
「ただいま〜」
家に着き、靴を脱ぐ。姉さんは……買い物か?
リビングに行ってみると、机に1枚の紙があった。「少し出かけます。今日は帰れないかもなので冷蔵庫にある青椒肉絲温めて食べてね」とのこと。
やはり真子姉さんは優しいな。俺の為に夕食を作ってくれるなんて……。それにしても、今日はこの家で1人か。
いつもは2人な為、少し物寂しさを感じていると、スマホが鳴った。胡桃からのメールだった。
『桜井翔梨、早速明日から頼むです! 約束を違えたら承知しないです!』
面倒だな……だけどこちらも貰っているからしょうがない。
俺は胡桃に「お前こそ、約束違えるんじゃないぞ」とメールを送り、夕飯の青椒肉絲をレンジで温めるのだった。
※※
「ふふふ」
私は手元の資料を見て、思わずニヤけてしまった。
資料にあるのは宮雛泰晴と卯月水初の素性。私が権力、お金、その他諸々を使い、得た情報。
宮雛泰晴の父の会社は私の父の会社と頻繁に取引をしている。宮雛泰晴の父は会社の社長と言えば社長だが、その規模はあまり大きく無い。
宮雛泰晴には悪いがこの情報を使ってあいつ、卯月水初を貶めてやる。
「ああ、楽しみね」
その時、コンコン、と扉がノックされる音がした。私が入室の許可を出すとかなり歳を食った白髪の執事が入って来た。
「お嬢様、紅茶が入りました」
「ああ、ありがとう」
執事が紅茶を渡してくる。少し私の肩に手が触れた。その執事を見て、私の頭に1つの疑問が浮かんだ。
「貴方、この家にいましたっ——」
急に、視界が歪んだ。私は座っていた椅子から崩れ落ちる。
「な、なにが……」
「貴女の計画は私には必要ありません。ですが、この紙は貰っていきますね、
「くっ……貴方は……誰なの……」
そこで、私の記憶は途切れた。
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