第8話 デートのお誘い

あの後、テストが終わり、テストの答案が返された日の放課後。


 「全て41点。ふつくしい……」


 自分の答案を見て、俺は思わず呟いていた。


 高得点なんて目指さなくて良いのだ。俺の両親は今出張で居ないからな。まあ居ても関係ないけど。


 「赤点は回避出来たのね。でも貴方ならもっと上を目指せたと思うけど?」


 「ッ!!」


 左から聞こえた声に思わず過剰に反応してしまう。


 あの勉強会で謎の声が聞こえてから、俺は何故か冬奈さんに近づかないようにしている。これは故意的では無く無意識にだ。


 何故そうなっているのかはわからない。だが俺の第六感がそう言っている。


 「ま、まあ赤点回避できたから良いじゃないか……」


 動揺を隠しきれずにイントネーションなどがおかしくなってしまう。


 「……貴方、今日何か変じゃない?」


 核心を突かれたような言葉に、俺の焦りが増す。


 「い、いや? そんな事ないと思うが?」


 「今日だけじゃ無いわね。私の記憶が正しければ……勉強会の日くらいからかしら?」


 おいこの人鋭過ぎるだろ! マジでやばいな! なんでわかるんだよ!


 「何かあったかしら……」


 人知れずピンチに陥る俺を横目に冬奈さんは原因を考えているようだ。


 「もしかして……」


 「?!」


 気づかれたか? いや、でも冬奈さんは俺の心の声は聞こえないはず。大丈夫だ、落ち着け。


 「よう、冬奈さん、翔梨。テストどうだった?」


 「うおっ!」


 心の中で暗示をかけて落ち着こうとしていると泰晴と水初が俺達の近くへ来た。


 「俺、そんなに気配消してたか?」


 「いえ、何故か最近の翔梨君がおかしいだけ」


 「ほう……?」


 泰晴が含みがあるような瞳で俺を見てくる。なんだよ。どう言う感情なんだよその目は。


 そう言えば水初がいつもより静かなような……?


 そう思い、水初の方を見てみる。なんかいつもと変わった所は無さそうだけどな……。


 1人で水初の考察をしていたら冬奈さんが俺の耳に顔を近づけて来た。


 「ッ!!」


 「翔梨君、今は水初さんに何も言わない方が良いわ……」


 「え? それはどう言う……あ」


 もしかしてだけど……。今日はテストが全て帰ってきた。平均点以上でも水初の性格なら喜ぶはず。って事は……?


 「水初……?」


 「なに……?」


 「あ、いや、なんでもない」


 いつもと違い、覇気がない言葉に、俺は何も言えなくなった。


 「じゃあ、水初は勉強をしなければならないから俺達はもう帰るとしよう。じゃあ、またな」


 「またね〜、翔梨、冬奈〜……」


 そのまま俺達に背を向け、教室の扉の近くまでいったが、何故か水初が泰晴を止め、こちらに手招きをした。なんだ?


 「冬奈ちゃん、ちょっと来て……」


 本当に水初か疑いたくなるほどのテンションで冬奈さんを呼ぶ水初。


 冬奈さんは水初達の近くへ行き、少し会話をした後、何かを押し付けられて焦っていた。


 「え、あの、これどうすれば……!」


 「ただ誘うだけ……頑張って……」


 そのまま泰晴と水初は帰ってしまった。何をしているんだ? 冬奈さんは何を渡されたんだ?


 「何を渡されたんだ?」


 「……」


 冬奈さんが戻って来たので問いかけてみる。だが冬奈さんから返事は無い。本当に何かあったのか?


 「……」


 「……」


 2人して黙ってしまった。話題を探さないと……。


 「え、えーと、そう言えば冬奈さんのテストの結果はどうだったんだ?」


 「ま、まあわルくはナいと思うわ……」


 なんか挙動不審だな。本当に何があったんだ?


 「水初は多分赤点だな……泰晴はわからないが」


 「泰晴君はかなり好成績ね。全教科90点以上よ」


 なんとかいつもの感じに戻って来た。あいつ凄いやつだったんだ。まあ勉強は嫌いじゃないって言ってたし。


 「?!」


 その時、冬奈さんが驚いたように首を激しく右に振り、教室に残っていたクラスメートを見た。


 「どうした?」


 「……水初さん……?」


 「冬奈さん? どうした?」


 「い、いえ、なんでもないわ」


 「そ、そうか?」


 少し浮かない顔をしていたが、冬奈さんがなんでもないと言うならまあ気にしないことにしよう。


 「……」


 「……」


 また沈黙してしまう俺達。2回目なんだけど?

 

 「さ、さて、じゃあ帰るか! ゲームしなきゃ! テストから解放されたわけだし!」


 少し重くなってしまった雰囲気を変えるために大袈裟に言い、帰ろうとする。だが——


 「ちょっと……待って……」


 「え?」


 冬奈さんが俺の制服の裾を掴んで来た。なんだ?


 「どうした? 何かあったか?」


 「え〜と、あのね……その〜」


 何故か顔が赤くなっている。熱か? ならやばいな、少し確かめて見るか。


 「えッ?! なになに?!」


 「あまり動かないでくれ。熱があるかわからないだろ?」


 うーん、額の熱さ的に熱ではないか? じゃあ何故顔が赤いのだ?


 「落ち着いて、冬奈。これに他意は無い。そう、これはただ遊びに行くだけ……」


 冬奈さんがぶつぶつ呟いている。どうしたんだ?


 「翔梨君!!!」


 「は、はい?!」


 まさかの声の大きさに俺は姿勢がピン、となり、反射的に返事をする。な、なんだ……?


 「こ、これ……」


 冬奈さんが何かのチケットのような物を見せて来た。これは……映画のペアチケットか?


 「これがどうした?」


 「よ、良ければ一緒に行かない……?」


 「え?!」


 これはまさか……デートのお誘い?!


 「い、いえ! 別に他意は無いの! ただ水初さん達は勉強でいけないでしょ?! だから貰ったんだけど……誘える人が貴方しかいないから! 仕方なくなの!」


 そう赤くなった顔で早口で捲し立てる冬奈さん。めっちゃ可愛いな。なんかツンデレみたい。そしてこれは、チャンスかもな。


 「ああ、冬奈さんが良いなら行こう。明日は俺に予定があるから……明後日で大丈夫?」


 「え?」


 冬奈さんがポカン、と口を開けて呆然としている。


 「あれ? もしかして明後日は無理? だったら他の日でも——」


 「あ、明後日で良いわ! 明後日にしましょう!」


 「うお!」


 興奮した様な表情で顔を近づけてくる冬奈さん。


 そんなこんなで、明後日俺達は映画を観に行くことになったのだった。


 

 


 


 


 

 

 

 


 

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