第7話 陰キャのデートの誘い方
もうそろそろこの光雪学園(一部では光を煌に変えたりもするらしい)に入学して初めてのテストがあるらしい。
なので俺は泰晴とゲームをしていた。
矛盾しているって? でも勉強だるいやん? あとしなくて良いかな〜って思っちゃってさ。赤点取らなければ良いらしいし。
俺は多分大丈夫だが、泰晴が気になった為質問してみよう。
「なぁ、泰晴」
「ん? どうした、今拠点から餌持ってきてる途中だから急ぐなって」
泰晴が俺の方を見ずゲーム画面に視線を向けたまま反応する。
「いや、そうじゃなくてさ。もうそろそろテストだろ? 勉強しなくて良いのか?」
確か光雪学園は結構偏差値が高かったはずだ。俺は良いとして泰晴は大丈夫なのだろうか?
「ああ、俺は大丈夫だな。勉強は嫌いじゃ無い。だが問題は……」
泰晴が言い淀む。俺は少し考え、ある1人のクラスメートを思い付く。
「もしかして……水初か?」
「ご明察だ。あいつは勉強が苦手でな。テスト前になると2人で勉強会をしている」
仲良いな本当に。それにしても勉強会か。本の中でしか聞いた事の無い言葉だな。まあ俺には無縁な——
「お前も一緒にやるか? それともお前は勉強出来るタイプか?」
無縁じゃ無かった。嬉しすぎて泣きそう……。勉強はしたくないししなくても良いと思っているが勉強会はしてみたい。
「じゃあ、お願いするわ」
「わかった。翔梨が来ると水初に言おうか」
そう言い、画面に背中を向ける泰晴。そのまま泰晴は口を開け——
「水初〜! 勉強会に翔梨も来るぞ〜!」
と言った。誰に言っているんだ? 水初は泰晴の家にいないじゃない。家は近いとは言って居たからそう言うことか?
とか考察していたら急に泰晴の部屋のドアが開いて水初が入ってきた。
「え?! 本当に?! わーい!」
なんで居るんだよ! 泰晴は平然としてるし!
ハイテンションでぴょんぴょんジャンプしていた水初が次の瞬間、耳を疑うような事を言った。
「じゃ、冬奈も呼んだ方が良いよね! ちょっと連絡してくる!」
「は?! おいなんでだちょっと待て!」
制止を聞かずに出ていく水初。俺が呆然としていると泰晴は諦めた様な目を俺に向けてきた。
「翔梨、ああなったらもう止められん。それに冬奈さんが来たからと言って何も不都合は無いだろう?」
「い、いや、まあ……」
「なら良いじゃ無いか。ほら、ゲームの続きだ」
そう言い泰晴はまたゲームを始める。こいつ水初の暴走に慣れすぎじゃ無いか?
冬奈さんが了承してくれたと水初がまた泰晴の部屋に来るまで、7分。
それから1週間後の土曜日。泰晴の部屋にて。
「勉強会だよ、翔梨! 冬奈!」
「あまり大きな声を出すな、水初。母さんに怒られるだろ」
開口一番五月蝿い水初を泰晴が窘める。
「仲が良いわね、泰晴君、水初さん」
それを見て冬奈さんは笑顔を浮かべて居た。呼び捨てになっているのは勉強会の連絡をした時に許して貰ったらしい。水初がドヤ顔で言ってきた。控えめに言ってクソウザかった。
その間、俺は泰晴の部屋を見ていた。部屋の大きさは大体8畳と言う所か。前に冬奈さんから社長の息子と聞いていたが思ったよりも小さいか? そして多分青色が好きなのだろう、カーテンやカーペットが青色であり、勉強机の他にもう1つ机がある。そんなに机必要か?
「翔梨君は勉強苦手なの? だとしたら苦手な科目はなに?」
泰晴の部屋を観察していた俺に冬奈さんが俺に質問してくる。
「う〜ん、まあ平均くらいだな。上でも下でも無い。科目は苦手も得意も無いな……全部平均くらいだ」
それに対し、冬奈さんはにこっと笑みを浮かべて。
「そう、じゃあ貴方は私が担当するわ。水初さんは泰晴君が担当の方が良いわね。2人ずつに分けた方が捗るでしょう。2人も良いかしら?」
冬奈さんがそう聞き、2人は肯定を返す。
「全然大丈夫だよ!」
「ああ、異論は無い」
「じゃあ、早速始めましょうか」
そう言い、泰晴は水初がいる勉強机の近くへ、冬奈さんはもう1つの机、しかもその近くに居た俺の隣に座ってくる。毎度ながら距離が近すぎると思うな、俺は!
「あ、あの、冬奈さん。普通こう言う時は対面なんじゃ……?」
「え? そうなの? でもこっちの方が教えやすいし良いじゃ無い」
そう言われては俺は何も言えない。何故なら俺は教えられる側だからな!
「まずは基本の問題よ。このプリントを解いてみて」
そう言われ、俺は黙々と問題を解き出す。隣に冬奈さんが座り、解いている俺を見ている。時々冬奈さんが髪を耳にかけたりする姿にドキドキしながらそれを誤魔化すように集中する。頑張れ俺。負けるな俺。
と、俺が1人で戦っていると、冬奈さんが俺に顔を近づける。その同じ人間か疑うほどに整った顔をドアップにされ俺は思わず視線を外してしまう。
そのまま少し視線を外していたら俺の答案を見ていた冬奈さんがある問題に人差し指を置いた。
「貴方、ここ間違ってるわよ?」
「え? マジで?」
俺も答案に顔を近づける。その際に冬奈さんの顔とかなり近くなるがそれは今は良いのだ。俺がこんな問題を間違えるなんて……。
「ここ、2xじゃなくて3xよ」
「い、いや、まだ冬奈さんの見間違いの可能性が……!」
「そんなわけ無いでしょ、ちゃんと見なさい。って、顔が近い……」
隣で赤くなっている冬奈さんに気づかず俺は答案を凝視する。……うん、普通に間違ってるわ。答え全然ちゃうやん。
「ん? 翔梨君、なんで? ……いえ、もしかして今のは……だけど何故?」
冬奈さんがなんか言ってる。でもごめん、俺今そんな気分じゃないわ……。
基本の問題を間違えて死ぬほど落ち込んでいると、頭に優しい感触がした。冬奈さんの手だ。
「いくら基本の問題だからって落ち込みすぎよ」
そのまま俺の頭を撫でる冬奈さん。……なんか、結構気持ちいい……。
「髪、サラサラね……気持ちいい……」
そうして5分ほどわしゃわしゃされていたら、俺と冬奈さんは同時に現実に戻った。
『あ……!』
俺達は反射的に少し離れた後、沈黙する。
気まずすぎる……。それに、何故か変な感覚がした。上手く言い表せないのだが……。
俺が頭を悩ませていると、誰かの声が響いた。
『だい……ぶ、わたし……よ』
な、なんだ、今の声は? 俺の記憶……?
その後、俺は何故か勉強に集中出来ず、冬奈さんに窘められながら勉強会が終わるのだった。
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