第5話 初めての購買、のはずだったのにな
あの後、睡眠欲により地獄と化した授業を冬奈さんに起こされながらもなんとか乗り切り、昼休憩に入った。
「おつかれ翔梨! ご飯食べよ!」
「だ、大丈夫か、翔梨。目が死んでいるぞ?」
大丈夫な訳あるか馬鹿。全ての授業の半分くらいは記憶に無いわ。あるのは英語教師の美しいビブラートたっぷりのTokyo! です。どゆこと?
「たまに起こして居たんだけど駄目ね。全く、今日は早く寝るのよ?」
「は、はい、すいません」
冬奈さんからジト目を向けられた。その顔も可愛いですね、と思いながら今日は出来るだけ早く寝ようと決意する。
「なんか全部の授業終わったみたいな雰囲気を出しているが、午後もあるからな?」
「かはっ!」
突然飛んできた現実という名の剣に、俺のHPが減る。俺の心に大ダメージだわ。
「翔梨ー! 泰晴、なんでそんなこと言うの?! 酷い!」
水初が地面にしゃがみ込んだ俺の背中をさすりながら泰晴へ言う。
「い、いや、傷つけるつもりは無かったのだが……すまん」
泰晴が俺に対して謝る。まあ、謝ったのなら許してやらん事もないかな。
「まあ、そんな事より早く食べよ! 翔梨は……購買に行くのかな?」
「そうするかな。泰晴と水初は弁当か」
泰晴と水初の目の前の机の上には青と桃色の弁当箱が置かれていた。あれ、これってもしかして……。
「泰晴君、もしかして貴方のお弁当を作ったのは……」
俺の代わりに冬奈さんが疑問を口にしてくれる。まさか……。
「水初だが……それがどうした?」
「お前ふざけんなよ」
何そのいかにも愛妻弁当ですよみたいなのを前にして真顔なの? と言うかその「普通だろ?」みたいな顔を向けてくるなぶっ飛ばすぞ。
「まあ私と泰晴は幼馴染だからね〜。中学の頃から部活の大会の時とかは弁当作ってたし。と言うか私達の通って居た学校は給食とかじゃ無くて学食とかそう言う学校だったし」
弁当作ってもらえるとは羨ましい限りである。良いなぁめっちゃ美味そうやん。
「成程……どちらも小学生くらいから……。ねえ、質問して良いかしら。2人は付き合ってないの?」
最初に少しだけ何かをつぶやいた後、そんな質問を冬奈さんがする。それに対して泰晴が返答する。
「ああ、付き合ってないな。な、水初?」
「うんうん、付き合ってないよ〜」
「……そう」
『???』
2人に呆れたような目を向け、ため息をつく冬奈さん。
俺はそろそろ購買でなんか買おう、と思い立ち上がると。
「翔梨君。私もついていって良いかしら?」
「も、勿論良いですよ……」
冬奈さんがそう提案してきた。その言葉に了承し購買へ向かう。ちなみにめっちゃ緊張しています。冬奈さんはまだ慣れん。
この学校は3階まであり、その3階の1番東に購買がある。
購買へ行くために廊下を歩いていると俺たちへと視線が突き刺さる。
その視線は嫉妬、疑問が大多数。たまに悲しみって感じかな? まあ俺の感覚だから合ってるかはわからないが。
「視線が凄いな……。なんか居心地が悪い……」
「そう? 私はもう慣れたわ。この視線も、心の声も」
そうあっけらかんと言う冬奈さん。凄いな、俺はこんな量の視線浴びた事ないわ。それに心の声も聞こえるなんて……。
改めて冬奈さんを気づかれないように見てみる。アイドルと比べても負けない様な整った顔、絹のような毛先だけ少し赤いさらさらの黒髪。歩く姿勢も美しく、歩いているだけで育ちの良さが伺える。
やっぱり冬奈さんは令嬢なんだな、と思っていると——
「……翔梨君、こっちを見てどうしたの?」
冬奈さんが顔を赤くしながら問いかけてきた。
「ご、ごめん。俺にジロジロ見られるの嫌だったよね」
「い、いえ、そう言う訳じゃ無いの。ただ、こっちを見ているから……」
更に顔を赤くして冬奈さんが言う。やべ、バレた! どうしよう! 俺は焦りを表に出さない様に心の中で急いで言い訳を考える。
「あ、え〜と、その。冬奈さんは昼食は弁当って印象があったからさ。意外だなと」
即興で作ったにしては中々上出来じゃ無い? 俺結構凄く無い? 褒めて。
「ああ、そう言うことね。え〜と……」
冬奈さんが言いづらそうにしている。これはやばかったか? フォローしておかなきゃ。
「い、いや、言いたく無いなら言わなくても大丈夫だけど」
「いえ! そう言う訳では無くて!」
冬奈さんが勢いよく首を横に振る。じゃあどうしたんだろ? と思っていたら冬奈さんが少し言い淀んでから、俺に理由を教えてくれる。
「え〜とね……貴方は弁当じゃ無いと思って、弁当を作らなかったの……」
「え? ごめん、よくわからなかった」
どゆこと? 俺が原因って事? 俺が弁当じゃ無かったから冬奈さんも弁当にしなかった? やばい、本当にわからないぞ?
そう心の中で考えていると——
「あの、翔梨君が何か悪い事をした訳じゃ無くて! ただ貴方と購買へ行きたかったと言うか! ……あ!」
冬奈さんが間違えたと言わんばかりに口を手で覆う。そしてさっきよりも数倍顔が赤くなり、下を向き黙ってしまった。
そんな可愛い冬奈さんに俺は——
「…………え?」
脳が処理出来ずその一言しか言えなかった。
だが俺のその反応を見た後に冬奈さんが更に恥ずかしくなったのか体が震え出し。
「わ、私先に購買でなんか買ってくるから! ま、またね!」
と言って廊下を全力疾走して行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
その冬奈さんの台詞からの全力疾走がスムーズ過ぎて止める暇が無く、冬奈さんの背中が人混みに紛れて見えなくなる。
「え、え〜」
その場で俺は呆然と立ち尽くす。足は速いしあの言葉はやばいしで俺は固まってしまって居たが。
「おい! あの男、冬奈様に何をしたんだ?! 冬奈さんを辱めたのか?!」
「は?! そんなの許せない! あの男を処刑しなきゃ!」
「え、いやちょまって」
抗議しようとまだあまり回って居ない脳を動かそうとするがそんな暇も無く鬼の形相で廊下にいたかなりの生徒が俺に向かってくる。
「お、おい、は、話を聞け! 多分俺のせいじゃ無いから! そこの女子! 鉛筆を持つな! 何に使う気だ?!」
そんな小さい抵抗をしながら学校内を駆け回る。
流石冬奈さんだ。あの後マドンナから進化してこの高校、
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