第4話 隣の席のマドンナさん

 放課後に冬奈さんと話した後、俺は家に帰って部屋にあるパソコンで調べ物をしていた。


 「結構見つかるんだな……」


 想像していたよりも結構サクサク進んで俺は嬉しいよ。このままさっさと全員分終わらせよう。


 そう心の中で決意していたらコンコン、と扉がノックされた音がした。部屋への入室の了承をすると姉さんが部屋に入って来た。


 「あれ、姉さん。どうしたの?」


 「ちょっと翔梨に聞きたい事があってね。学校、どうだった?」


 姉さんが俺が座っている椅子の近くまで近づいてくる。この訪問は初めて学校へ行った弟への心配だろうか。やはり姉さんは優しい。


 「特に何も無かったよ。あと1人、2人友達、と俺は思ってるけど相手はどう思っているかわからないから一概には言えないや」


 「そこは断言して? 心配になるから」


 だってわからないんだもの。泰晴も水初も、冬奈さんも友達と呼んでいいかわからないし。失礼になるかもでしょ?

 

 「まあちゃんと学校に通えたみたいで良かったわ。それに翔梨の警戒は杞憂に終わったみたいだし」


 「ありゃ、気づかれてたんだ」


 結構見つからない様に人差し指を隠してるつもりだったんだけどなぁ。姉さんは人をよく見るのが得意だからな〜。


 「勿論気づいているわよ、弟の事だからね。それじゃ、私は夕食の用意をする為に下に降りるから。またね」


 「うん、また」


 姉さんが踵を返し、部屋から出たのを確認し調べ物の続きをしようとした時、ちょっとだけ扉が開けられた。


 「姉さん、どうしたの? なにか言い忘れ?」


 「まあね。翔梨、人差し指の傷に貼る絆創膏は要らないよね? あと1時間くらいで治ると思うし」


 ああ、そう言うことか。姉さんはこのカッターで付けた傷に気づいて居たんだもんな。一応聞いておこうって感じかな?


 「うん、大丈夫。姉さんの予想通り1時間くらいで治ると思うし」


 「そう、ならよかった。じゃあね」


 そう言って姉さんは扉を閉めた。気配が遠ざかって行ったのを感じたので、俺は調べ物を再開するのだった。


 ちなみに、泰晴とマルチでゲームをした結果寝るのが午前の3時になりました。


 ※※


 翌朝、また姉さんに相棒を取られ叩き起こされた俺は、朝食などを済ませて学校への道を歩いていた。


 「おはよう、翔梨!」


 「よう、翔梨」


 何事も無く学校に着き、上履きに履き替えた所で元気いっぱいな水初とめっちゃ眠そうな泰晴に声をかけられた。前と後でテンションの高低が違いすぎる。


 「ああ、水初と泰晴か。おはよう。2人は一緒に登校してくるんだな」


 「まあ幼馴染でお互いの家が近いからな」


 へぇ、幼馴染って本当にあったんだ。本の中だけの話だと思ってたわ。俺も幼馴染欲しい。


 そのまま2人と教室へ行き、泰晴と水初はそれぞれの席に鞄を置いた後、俺の席の近くに来て談笑を始める。


 「お前、あのゲーム初心者だったんだな。びっくりしたよ。あの恐竜にビビってる姿は滑稽だったな」


 「うるせ、しょうがないだろ。始めて1ヶ月くらいしか経ってないんだから」


 そうして3人で談笑していると——


 「ああ、今日も美し過ぎ……。」


 「お、おい! 大丈夫か! 誰か先生を呼んできてくれ! 胡桃が倒れた!」


 男性の助けを求める大きな声が聞こえて来た。大丈夫かな、様子を見に行った方が良いかもなんて思っていると。


 「泰晴、翔梨、もしかして……」


 「ああ、こんな現象を起こせるのはあの人しかいない」


 え、誰? わからないの俺だけ? なんて思っていると、教室の扉が開いた。


 瞬間、さっきまで教室に流れていた緩い雰囲気が消えた。全員が話すのをやめ、ある1人の美少女を見ていた。


 その美少女は教室の窓側の1番後ろの席に鞄を置いた。


 俺はようやく泰晴、水初の考えて居たことがわかった。


 玖凰冬奈さん。昨日の1日だけで一目惚れさせた男子は数知れず。女子にさえも惚れたと言う人が続出した1年生のマドンナである。


 まさか教室に入るだけで空気を一変させ、1人の女子生徒? を気絶させるとは。恐ろしい。


 「おはよう、3人とも」


 そんな事を考えていたらその件のマドンナさんに声をかけられた。


 『あ、ああ、おはよう』


 俺と泰晴の台詞が全て被る。ビビり方も同じだね! ……やかましいわ。


 「3人で何を話していたの?」


 冬奈さんが俺の席に椅子を近づけて来た。距離感間違ってるだろ。めっちゃ近いし良い匂いするので思わず視線を逸らしてしまう。


 「いや、ゲームの話を少々……」


 返答が料理番組みたいになってしまった。いや、こんな美少女に近づかれたら誰でもそうなるだろ。


 「へえ、そうなの。そのゲーム、面白いの? 私も少し気になって居て……」


 冬奈さんってゲームするんだ、意外だな〜。いや、そんな事より更に顔を近づけるのやめて。マジで今心臓がやばいの。それ以上そのご尊顔を近づけないで。


 「スゴクオモシロイデス」


 「なんでそんなカチカチになっているの?」


 貴方のせいですが? いや、貴方様のせいですが?


 そんな拷問? をされていたら——


 「煌驥がガチガチに緊張してて面白い」


 「水初から見て右に同じく」


 2人はそんな事を言って居た。はよ助けて。もうマジで限界なの。おい水初、吹き出しそうになっているんじゃない。


 その時、先生が入って来た。やっと終わる……。


 「じゃあまたね、翔梨! 冬奈さん!」


 「それじゃあな」


 そう言って2人は自分の席へ帰って行った。


 HR中、冬奈さんが申し訳なさそうに話しかけて来た。


 「ごめんなさい。折角泰晴君や水初さんと話して居たのに邪魔しちゃって……」


 冬奈さんがしゅんとなってしまった。可愛いな冬奈さん。だがこれは漢としてフォローをしなければ。そう、漢として!


 「かわい……ごほんごほん! いや、気にして無いから大丈夫です」


 あぶねぇ! 最初かける言葉間違えた! 誤魔化せたか……?


 「なら良かった。ごめんなさい、あなたの事を知りたくて少し周りが見えてなかったわ」


 可愛過ぎか? それに誤魔化せたみたいでお兄さん嬉しいよ。


 「じゃあ、また後でね」


 笑顔でそう言う冬奈さんに思わずドキリとしてしまったのは俺とお前達との秘密な。




 


 

 


 


 



 


 


 

 

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