第3話 放課後の学校って雰囲気あるよね
「少し良いかしら、翔梨君」
「え?」
放課後、泰晴とゲームの話をしていたら隣の席の有名人さん、冬奈さんに声をかけられた。
「は、はい? な、なんでしょう? あ、お金なら——」
「なんで私カツアゲしようとしていると思われてるの?」
いや、だって俺と話そうとする理由なんてそれくらいだと思うし……。じゃなかったならなんだ?
「少し2人で話したい事があるの。時間大丈夫?」
「あ、ありましゅ」
「……本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
やべぇ、死ぬほど緊張する。誰か助けて。あ、こう言う時は手のひらに人と3回書いて飲み込めば良いと聞いた事がある。
「……何をしているの?」
3回書き終わり、飲み込もうとしたら質問された。いや、見てわかるでしょう?
「手のひらに人と3回書いて飲み込もうとしているだけですが?」
「さっき書いてたの人じゃなくて入だけど?」
「…………」
俺は素早く手を元の位置に戻し、視線を逸らす。流石に緊張し過ぎた。恥ずかしい。落ち着くために泰晴と話そう。そうしよう。
「泰晴、ゲームは夜で大丈夫か?」
泰晴が首肯する。だが、その後悩んだ素振りを見せた。
「どうした? 何か問題でも?」
「いや、今日は19時から空手の稽古があってな。何時にしようかと」
成程、まだお互いに予定や寝る時間を把握しきれて居ないからな。どうしようか。
そうして2人で頭を悩ませていると。
「22時からにしたら?」
冬奈さんから提案が出て来た。え、なんでそんな俺達の予定とか知っているような感じなの? いや、俺は大丈夫だけどさ。
「俺は大丈夫だぞ」
大丈夫なんかい。偶然かな? まあ22時って言うのは結構あるし……うん。
「おーけーだ。また明日」
「おう」
別れの挨拶を交わし、泰晴は教室を出て行った。なんかめっちゃ気楽に話せる。これが友達と言う物か……初めて知った。いや、さっき話して居た人がやばいのか?
「あれ、もう人がいないのか?」
もう2、3人とかは教室に居ると思ったが誰も居なかった。みんな早いなぁ。
「そうね、早速本題に入らせて貰うわ」
なんてせっかちな。もう少し雑談しても良いじゃ無いのよ。私悲しんじゃうわよ? ……キャラぶれぶれだけど許して。俺はこう言う人なの。
真剣な顔をし、俺の顔を見る冬奈さん。その夕日に照らされた姿は綺麗で、思わず胸が高鳴ってしまった。
「単刀直入に言うけど、貴方、何者?」
「はい?」
意味がわからない。何者ってどう言う事だ? 俺は首を傾げ、疑問を口に出す。
「えーと、何者ってどう言う事?」
「この学校には会社の社長の息子とか上の位にいる権力者のご令嬢とか、そう言う人が少し入学しているのよ。一般生徒の方がかなり多いけどね」
「え? そうなんですか?」
衝撃の事実に俺は自分の耳を疑う。なにそれ初耳なんだけど。そうなの? え、じゃあこのクラスにもそう言う人が居るって事?
「あの泰晴君や水初さんも会社の社長の息子だったりご令嬢よ?」
「え……」
今日一びっくりしたんだけど。え、泰晴達ってそんなに凄い人なの?
「でもなんでそんな事を知っているんですか?」
「私がこの学校の人達の事を調べて居たからよ。それはさっきの話に繋がるわ」
「あのご令嬢とかの話ですか?」
冬奈さんが肯定し、更に補填してくる。
「そう。私がこの学校に入った理由の1つは人脈を作るため。私も将来父の会社を継ぐことになると思う。だから人脈を作っておいて損はないと思ったの」
成程。確かに会社を経営したりする者としては人脈を作っておきたいだろう。それが同じような立場の人ならなおさら。
「だけど、貴方のことは情報が書かれた紙に無かった。玖凰家がそんなミスをするとは思えない。それに——」
「それに?」
冬奈さんは少し躊躇い、覚悟を決めた様子で、告げる。
「私、他人の心が読めるのよ」
「え?」
突然のカミングアウトに情報の処理が追いつかない。心が読めるって……そう言う事?
「でも、貴方の声が聞こえなかったの。何か法則があるのかと思ったけどそれが何故かわからない。だから、気になった、貴方の事を知りたかったの」
あれ、なんかこの雰囲気……漫画であったような……まさか!
「いえ、惚れては無いわ」
ド直球な言葉に俺の心に雨が降った。思わず両手で顔を隠す。オブラートのかけらも無い言葉をありがとう。
でも、ここで俺にある疑問が出て来た。
「あれ、でも俺の心は読めなかったんじゃ……?」
「いえ、今のは心を読んだのでは無くなんかそう事を考えているかなと思っただけよ」
なんでわかるの? 能力使わなくても読むのやめて?
「そんなにわかりやすかったですか?」
「ええ、とても」
また両手で顔を隠す。なんか俺冬奈さんの前で恥ずかしいところしか見せてなく無い?
「じゃあもう1つ。さっき泰晴の予定を把握しているような口ぶりだったのもその能力の影響ですか?」
「ええ、そうよ」
冬奈さんが首を縦に振り、肯定する。成程、だからか。
「でも、俺の予定はわからないでしょう? 心が読めないのなら」
「それは貴方は夕方でも深夜でも予定なしにベッドでゴロゴロしているんだろうなと思ったからよ」
失礼過ぎるだろ。残念ながら大正解だが。
「まとめると、私が貴方に言いたい事は1つ。これから貴方の事を知っていく為に関わる事が多くなると思うけど、よろしくね?」
「え、いや……」
「駄目なの……?」
そんな潤んだ目と上目遣いのダブルパンチで攻撃してこないで? 断れる訳無いでしょ!
「わかりました……よろしくお願いします」
その言葉を言った後、冬奈さんはさっきの泣きそうな顔が嘘だったかのように笑い。
「うん、これからよろしくね」
と言った。だったかのようにとかじゃなくて今の潤んだ目は嘘だったな?! 騙された!
「それじゃ、また明日ね」
冬奈さんはまた俺に笑顔を向けて、教室から出て行った。
その綺麗な笑顔を向けられ、俺は。
「思ったよりも親しみやすい人なのか……?」
と、そんな他人事の様な事を言うのだった。
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