第2話 隣が駄目なら前に期待
隣人と友達になろう作戦は失敗してしまった。正直結構期待していたのに……。
おっと、そう言えば自己紹介を忘れていた。俺の名前は
……こう言うのちょっとかっこよくない? 最近漫画で見たんだよね。一度やってみたかったんだよ。
「何ブツブツ言ってんだ?」
「うおっ!」
意味のわからない自己紹介と妄想をしていたら急にいつのまにか前の席に座って居た人に声をかけられた。びっくりするからやめて? しかも声に出てたのかよ。
「い、いや、お気になさらず」
「そうか? まあ良いや。俺の名前は
「俺は桜井翔梨。よろしく、泰晴」
その男を見る。顔はイケメンと言って良いだろう。整えられた薄い茶色の短髪にかなり鍛えられている体。こいつ、野球部だろ。めっちゃ偏見だけど。
「ん? 俺の顔を見てどうした?」
泰晴が俺に怪訝そうな顔を向ける。
「いきなりで悪いけど、何部?」
「本当にいきなりだな。部活は帰宅部だな」
「違うんかい」
「何がだよ」
やべ、また心の声が出てしまった。直さなければ。
「いや、お気になさらず」
「なんだよ、気になるだろ」
本題から話が逸れてしまった。本題に戻すか。
「まあそんな事は置いておいて。本当に野球部に入ってないのか?」
「なんで野球部限定なんだよ。偏見過ぎるだろ。まあ気持ちはわからなくもないがな。実は俺は——」
「泰晴は空手習ってるもんね!」
泰晴の言葉を遮り、右から声がした。聞いたことのない声だな。まあこの学校の人達誰も聞いたことないと思うけど。
声がした右に視線を向ける。そこには美人の女性がいた。右も左も美少女で陰キャの俺の心臓はバクバクだぜ! ……さっきから俺情緒不安定過ぎないか? ……いつもか。
泰晴と似たような薄い茶色の短髪。ぱっと見かなり鍛えられているな。こう言うのを細マッチョと言うのか? 泰晴と知り合いみたいだからこの子も空手を習っているのかな?
ちなみに胸は無い。左の美人さんは中々大きかったな。違いはなんだろうか。食べている物とかか——
「ぶん殴るよ?」
「俺の周りには心を読めるやつしかいないのか?」
真顔で怖いことを言われたので光の速さで頭を下げ、謝る。流石にこの人も姉さんも偶然だろうが怖い。
「おい、まずは挨拶をしろよ、水初」
「あ、そうだった! じゃあ改めて」
こほん、と咳払いをし、水初と呼ばれた女性は俺に向き直る。
「おはよう、泰晴の友達さん! 私の名前は
「あ、ああ。よろしくお願いします」
「なんで敬語なの? クラスメートなんだしタメ口で良いよ! 私も翔梨って呼ぶから!」
「あ、ああ。なら……よろしく?」
「なんで疑問系なの?」
テンションが高すぎる……。苦手なんだよ、こう言うの。やった事ないからな! ……悲しすぎん?
「すまないな。水初はテンションが高いんだ。多分だが翔梨、こう言うの苦手だろ?」
泰晴が小さく耳打ちして来る。そうだよこんちくしょう。陰キャで何が悪い。
「隣は……もしかして
俺の隣の席の人を見て、水初が大きな声を上げる。え、なに、有名な人?
「なあ、泰晴。有名な人?」
「世間知らずかお前は。有名も有名だよ。玖凰と言ったらこの町、いや、世界でもめちゃくちゃ有名な財閥だ。普通に生きているだけでもその名前は絶対に聞くだろう」
マジかよ。そんなに有名なの? 俺さっきの失礼だと思われてないかな? 目をつけられてたらやばいんだけど。
「しかも有名なのは玖凰と言う名前だけじゃない。その現当主の娘、冬奈さんもやばいらしい。勉学、運動共に優秀で音楽、武道などなどなんでも出来るらしい」
おい俺の隣の人ガチでやばいじゃん! え、これから席替えまで隣の席なんでしょ? ガチでやばいじゃん(2回目)!
左を向いてみると、玖凰さんが無言で水初をじっと見ていた。
「裏表がない……良い子そうね……」
今度は聞こえた。なんかまたよく分からないことを言っているな。流石に短時間で判断しすぎじゃない? いや、俺もそう思ったから人のこと言えないけどさ。
「ん? なんて言ったの玖凰さん? ごめんね、聞き取れなかった」
「いえ、なんでもない。おはよう、泰晴さん、水初さん」
「え! 名前知られてる! 嬉しい!」
水初が目をキラキラさせて冬奈……であっているのか? を見る。
「まさか俺の名前まで知っていたとは。話した事無かったんだけどな……」
え、何それ怖い。もしかして調べられてる? あれ、でも。
「ねえ、冬奈さん! 翔梨は知らないの?!」
「え、ええ。ごめんなさい、わからないわ」
なんか悲しいんだけど。なんで俺だけ? まあ理由は知ってるけど。
「俺の名前は桜井翔梨。よろしく、冬奈さん」
「ええ、よろしく翔梨君」
冬奈さんに挨拶をしておく。挨拶大事!
「やっぱり……なんで」
「ん? ごめん、また聞こえなかった」
また声が小さくて聞き取れなかった。いや、言い訳じゃなくてね?
「いえ、なんでもないわ。それより、先生が来たわよ。席に戻った方が良いんじゃない?」
「あ、確かに。じゃあまたね、翔梨! 冬奈さん!」
「じゃあな」
「ええ、また」
「またな」
そう言い、2人は自分の席に戻って行った。良かった、友達出来たよ。
「おかしいわね、全員覚えたはず……。それになんで聞こえないの……?」
また聞こえなかった。いや、マジでわざとじゃなくてさ! 絶妙に聞こえないくらいの声量やめて欲しい。気になるから。
その後、SHRが始まり、学校初日と言う事で午前中で終わった。
「よし、帰るか」
「お、翔梨。帰るのか?」
入学式などが終わり、帰宅しようとすると泰晴が話しかけて来た。
「ああ。ゲームしたいからな。恐竜達のいる無人島などの様々なマップでサバイバルするゲームだ」
「お前もやっているのか。面白いよな」
「え、泰晴もやってるのか?」
このゲーム始めたばっかりだからやっている知り合いなんていなかった。まず知り合いが少ないしな。……泣きそう。
「翔梨、今日の夜一緒に——」
そう、泰晴が言った瞬間。
「少し良いかしら、桜井翔梨君」
「え?」
何故か、隣の席の有名人さんに声をかけられるのだった。
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