透華の光

kino8630

第1話 陰キャに友達はきびしそうだ

「ほら起きなさ〜い! 朝だよ〜!」


 季節は春。俺の事を起こしに姉、桜井真子さくらいまこが部屋に来たようだ。


 「あと1光年……」


 「その単位は距離ね。時間じゃ無いから」


 「じゃああと3光年……」


 「単位変わってない上に延びるんかい」


 だって眠いんだもん。午前5時くらいまでゲームしてて眠いんだもん。起きたく無いです。


 「いいからさっさと起きなさい! 遅刻するよ!」


 姉さんが俺から相棒(掛け布団)を奪い取る。返して、俺の相棒。それないと寒いから。


 「寒い……死んじゃう……早く返して」


 「もうそろそろシバくよ?」


 おっと、実の姉から殺気が。シバかれる前にさっさと起きよ。姉さんが怒ったらそれはもう鬼のような顔に——


 「殺されたいのかな〜?」


 「起きます。起きますので許してください」


 ベットから飛び起き、その勢いのまま床に土下座する。我ながら綺麗な土下座だ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね(?)。


 姉さんはもう少し朝食の用意があると言い先に下に降りて行った。俺も少し後に下に降り、洗面所に向かう。


 洗面所で顔を洗い、歯磨きをし、洗面所を出る。


 リビングへ続く扉に手をかけ、開ける。すると、空腹を加速させるような良い匂いがした。


 「丁度朝ごはん出来たよ。さ、食べちゃお」


 2人とも席に着き、胸の前で手を合わせ、お決まりの挨拶をする。


 『頂きます』


 見事にハモった。運命を感じちゃうね。実の姉だから駄目だけど。


 焼き鮭を一口食べる。咀嚼する度に鮭の旨みが口いっぱいに広がり、俺は思わず顔を綻ばせる。


 「やっぱり姉さんの料理は美味しいな。超美味い」


 「そう言って貰えると嬉しいな」


 姉さんは照れ臭そうな笑みを浮かべる。我が姉ながらなんて破壊力。いや、惚れたりしている訳じゃ無いよ? 本当に。


 朝食を食べ終わり、食器を水に浸し、学校へ行く準備をする。ちなみに姉さんは大学生なので俺と一緒に登校はしない。


 制服に着替え、カッターで少し左の人差し指を切り、下に降りて玄関へ向かう。


 靴を履き、玄関の扉を開け、外に出る。そして、姉さんに一言告げる。


 「姉さん、行って来ます」


 「うん、いってらっしゃい」


 姉さんに見送られ、俺は学校への通学路を歩く。


 交差点に着き、赤信号だったので止まる。少しスマホを弄っていると、青信号になったので渡ろうとしたが——


 「おい! 危ないぞ!」


 「え? おわっ!」


 信号無視をした車が目前まで迫って来ていた。俺まであと1mほどの距離だ。俺は紙一重で後ろへ飛び、車を避ける。


 車はそのまま止まる事なく、走り去って行った。


 いや、マジで俺じゃなきゃ轢かれてたぞ? 信号無視するんじゃないよ、危ないでしょ!


 「だ、大丈夫か?!」


 俺に血相を変えながら近づいて来る男性。さっき危ないと言ってくれた人だった。


 「はい、おかげで助かりました。本当にありがとうございます」


 「いや、君が無事なら良かった。あんなに近かったのによく避けられたね」


 「まあ身体能力には自信がありますので。それではまた」


 男性に挨拶をし、また学校へ向かう。この分だと遅刻はしなさそうだな。


 だが、俺の足取りは重かった。え、何故かって? 睡眠不足では無いぞ? ……まあそれも少しあるかもしれない。


 新学期、そして初日。道は前日に下調べしていたので大丈夫だ。問題はそこじゃない。その問題とは——


 「友達、出来るかな……」


 そう、陰キャなら誰しもがぶつかる難問。『新学期で友達出来るかな』問題である。流石に高校3年間を友達無しで過ごすのは悲しすぎる。俺も青春と言うものをしてみたいのだ。


 ちなみに俺は自信ない。今の内にお祈りしておこう。友達が出来るように。


 「友達が出来ますように友達が出来ますように友達が出来ますように」


 ブツブツと呪詛のように呟いていたらいつの間にか学校の近くまで来ていたらしい。2、3人に見られてた。恥ずすぎる。


 張り出されているクラス分けを確認する。クラスは全部で3組。俺は2組のようだ。


 早速買っておいた上履きに履き替え、クラスへと向かう。迷うかなと思っていたが校内案内を見たら案外行けた。


 教室に着き、席を確認する。俺は窓側から2列目の1番後ろか。ちなみに前の人の名前は宮雛泰晴(みやひなたいせい)と言うらしい。誰だよ。


 自分の席に着き、お待ちかねの隣人確認。出来れば話しかけやすい人が良い! さあ誰だ!


 左を向くと、そこには美少女が居た。髪は後ろの毛先だけ少し赤い黒髪のロング。整った目鼻立ち。他の人達とは一線を画す雰囲気。


 凄いな、こんなに綺麗な人が俺の隣か。隣人と友達になろう作戦は失敗だな。俺は声をかけられん。


 すると、彼女がこっちを見て来た。見惚れていて顔を逸らせなかったので目が合ってしまう。


 「あ、えと……こんにちは?」


 なんで疑問形なんだよ。しかも気まず過ぎる。目が合うとは思っていなかった。


 彼女は返答もせず、目を見開き、俺を見ていた。なんだ、俺の顔に何か付いているのか? だとしたらトイレに逃げ込もう。


 「なん……えないの」


 俺の耳は彼女の声を拾えなかった。気になるので聞き返そう。


 「え? ごめん、聞き取れなかった。もう一回言ってくれる?」


 「いえ、なんでも無いわ。こんにちは」


 そう言って彼女はまた窓の外を眺めてしまった。冷たい反応に俺のHPは7割方削られた。


 隣人と友達になろう作戦は失敗か……どうしようかな……。



 


 

 


 


 


 


 


 

 



 


 

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