初出勤と転移者の悪巧み
「あー散々だ」
着替えながらさっきの事を思い出した、毎度の事だがウンザリする。
掛け湯を終えて湯船に入ると見た事のある顔を見つけた。
「おはよう、新しい服買ったみたいだね」
アルノー局長がいた。
「おはようございます、今日は休みで?」
隣まで移動した。
「午後から出勤だよ、君は?」
「奴隷に留守番をさせて買い物でもしようかと」
「ほう、ところで君は魔術は使えるかね?」
「いえ、一切使えませんね」
「いいかい?我々は市の防衛を担ってるんだ、一応指揮をするだけだが窮地に追い込まれたり、命令を受けたら前線で戦う必要があるんだ」
真面目な顔でそう言った。
「どんな魔術を使えるようになったらいいですか?」
湯で顔を洗い改めて聞いた。
「指揮でも魔術は使うんだ、例えばテレパシーは魔伝機も使うが破壊されたら、短距離テレパシーで伝言で伝える」
「魔物が居るんですかここには」
恐ろしげに聞いた
「いや、魔物は大陸からは消えた、今居るのは共和国だけだ」
初めて聞く単語だ。
「共和国とは?なんです?」
「気にするな、明日役所で研修をするからな、じゃあ先上がるな、また明日」
熱で真っ赤な顔をして脱衣所に出て行った。
自分も真っ赤だったのでさっさと石鹸で身体を洗って風呂から上がる事にした。
「いやーさっぱりしたなぁ」
こちらの世界に来てから実に1週間振りの風呂に服を着ながら歓喜していた。
「こっちの世界にもコーヒー牛乳はあるのかな、あると嬉しいな」
脱衣所を出たとこに売店があったのを思い出して早々と脱衣所から出た。
「流石にないか」
目当ての物の代わりにサイダーで喉の乾きを潤していた時だった。
「上がったか!」
先程のアルノー局長である、どうやら一杯飲んだらしく赤みが増してふらついている。
「局長、このあと仕事じゃないんですか?」
「大丈夫!すぐに酔いが覚めるから!あとはい、これな良いもの見れるよ!」
手にメモ書きを渡すと、心配になるくらいの千鳥足をしながら風呂屋から出て行った。
「なんだろ?…おすすめ本?」
そこには仕事で使うスキルを会得するため、魔術関連の本がずらりと書いてある。
「全部タダなのか」
一番下には局の経費で買うので心配無用とだけ書かれている、早速書店へ向かった。
風呂屋から出て十字路を曲がると市場に出る。
幸いにも見える範囲に書店があった。
「いらっしゃい、何を買いたいのかな」
出るところがしっかりと出たエプロン姿の店主のエルフのお姉さんだ、聞いて期待した通りであった。
「防衛局の局長から指示を受けまして…この紙の通り」
巨大な2つの丘に思わず目を背けて渡した。
「あーあの坊主の、良いわよ用意してあげる」
ニコッと素敵に笑うと店の奥へ消えた。
しばらくすると大量の本を持って戻ってきた。
「こんなにたくさんの本が売れるなんて久しぶりね、流石に運べないだろうし郵送するわ」
「それは助かります」
「私の名前はアンナよ、今後もよろしくね」
「僕は佐藤です、どうぞよろしく」
この日は食材を買って早々に帰った。
「ご主人!どうですかこれ!」
玄関を開けると船乗り時代のボロ作業着を改造したであろうハート付きエプロンを着て誇らしげに立っていた。
「いいんじゃないかな、メラニーが作ったのかい?」
「いえいえ!違いますよ!この前の古着屋のおばちゃんが区域の中まで販売に来てたので10燕で作ってもらいました!」
ふとキッチンを見ると良い匂いがする。
「早速何か作ったのかい?」
「はい!ご主人の料理はマズイので!」
そう言うと机に料理を配膳しだした。
「これ食べて下さい!ご主人のよりマシです、私は区域内のお風呂に行ってきます!」
そう言うと出て行ってしまった。
ふと机に目をやると塩漬け肉等の保存食が材料の中心だがかなり工夫を凝らした料理が並んでいた。
「うん、美味い、あいつすごいな」
そんな事を考えながら食べていると大量の本を持って検問所の兵士とメラニーが帰ってきた
「ご主人、流石に買い過ぎですよ」
「本当ですよ、衛兵業務もあるのに、この子が居なかったら大変ですよ!」
そんな文句を言って検問へ戻って行った。
「どうでした?味の方は?」
ニコニコしながら聞いてきた。
「良かったよ、手間掛かったでしょ?」
「結構下ごしらえ頑張りましたからね、明日からは焼くか煮るだけです」
そんな事を言って寝た。
「しかしこの量を覚えるのか、大変だな」
書物の種類は多岐に渡る、事務から戦闘に関するところまで優に30冊は超えている。ただし出世を見据えた量であり、1つにまとめてあった研修者向け資料Cと書かれた本だけを当面は覚えたらいいらしく、その日は寝る事にした。
「ご主人!おはようございます!初出勤ですよ!」
朝食のパンの良い香りとメラニーの声で起こされた。
「おはよう」
支給品の青色のチェック柄のシャツに着替えて出勤の準備をする。
「遅れちゃいますよ!」
メラニーはハイテンションである、どうやらもう朝食は食べたらしい。口にパンを突っ込んで役所に走り出した。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい!ご主人!」
慌てん坊のメラニーが急かす事で、どうにか始業時間前には間に合った。
「やあ、気分はどうかね?」
役所の玄関で昨日とは打って変わってシラフのアルノー局長と会った。
「今日は飲んでないんですね」
「流石に朝から飲むのはやめたよ」
奥さんにでも殴られたのだろうか、紫色に変色した頬をさすりながら言った。
「さて君は今日は研修だね、防衛局隣の会議室に来たまえ」
そう言うとふらつきながら役所の奥へ行った。
防衛局隣の農畜局との間にある会議室へ入った、中には3人の男が居た、ドワーフやエルフそして人間だ、いずれもかなり高額そうな派手な服を着ている。
「すみません、ここで研修があると聞いたのですが間違いでしたか?」
怯えてそう言うと。
「いや、合っているよ」
「我々は君と話がしたいんだ」
3人は長机に座っており、さながら面接のようだ。
「まぁそこに座りたまえ」
勧められるままに1つあった木の椅子に座った。
「まず、シンプルに聞くが君は転生者だな?」
色白のエルフが腕を組みながら聞く。
「何故それを知っているんですか?」
もしかしたら信仰の関係で死刑になるのではと動揺して汗ばみながら答えた。
「緊張し過ぎだよ、安心したまえ危害は加えない」
ドワーフがにこやかに言った。
「この世界の宗教は転移は特に教義で禁じてはいないからね、私も最初は焦ったよ」
ザ・金持ちといった身なりの人間の老人が言う。
「あなたも転移者なのですか?」
安心して聞いた。
「そうだ、私は元の世界では日本海軍の軍学校の生徒だったんだよ」
「は?、学校では日本は負けて半世紀以上前に軍隊はなくなったと教えられましたよ?」
「何だそれは?君とは生きた時代が違うのかもしれんな?何年に死んだんだ?」
「僕は西暦2024年です」
「私は1886年12月だ」
「かなり差があるようですね」
頭を捻りながら考える。
「ああ、100年以上もだ」
老人は頭を掻きながら。
「考えても無駄だな、単刀直入に言おう私は今この街の市長をしている、ただそれは今はどうでもいいんだ。問題は君のスキルだ、転移者のスキルはこの世界では獲得出来ないものが多数あるが君のフリマスキルだったか?あれを是非とも使わせて欲しいのだ」
「何に使うのですか?そもそもどうやって知ったんですか?」
「ゴミ箱漁りと君の奴隷への聞き取りだよ」
どうでも良さそうにドワーフが言う。
「現在我が帝国は内戦一歩手前だ、もうすでに帝国軍脱走兵による各地の集落への襲撃が行われている、もしかすると体制が崩壊したりフランス革命のような騒ぎに発展する可能性がある」
深刻そうにエルフが言う、実際深刻な問題だが。
「この都市の市長としてどうかお願いしたい、この世界にまだ火薬兵器は存在していないのだ。だから銃器の技術が欲しい」
老人は禿げ頭を下げて言った。
「残念ながらそれは出来ません、私のスキルではレプリカしか手に入りませんので」
残念そうに、しかし面倒事を避けるべく言った。
「良いんです、レプリカでも幸いにも私は留学中に兵器工廠の見学などもしましたし、この街には優れた技術を持つドワーフが居ます。出世は保証しますからどうか火縄銃のレプリカでもいいので、お願いします」
にこやかに裏がありそうな笑顔で言う。
「分かりました」
仕方なく先日売りに出したアクセサリー分の1万円で購入した
あとがき
作者がネタ切れのためしばらくは短編を小説家になろうさんの方で投稿します
神の不手際で詫び転移したからフリマ能力で乱世の世を生き抜いていくわ @komikomimomo
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