就職活動

「そういや、金払ったっけ?」

船長が去った後に気づく。

「大丈夫ですよ私が払いましたから」

そう言うと空っぽの布袋を自慢げに見せた。

「いくら払ったんだ?」

「1500燕ですね、話はもう私からしておきました」

ニコニコしながら答える。

「大金じゃないか…どうやって稼いだんだ?」

「貿易で行った先々でスリとか窃盗してました」

「犯罪じゃないか!」

「はい」

「はいじゃないが」

「それよりもお腹が空きました、酒場探しましょうよ」

船着場から離れて人の多い通りに向けて歩き出した。


しばらく歩くと通りに着いた、一様に2階建てが多く木造に石の基礎を使っている、昔のヨーロッパ風である。

「あそこにしましょうよ!」

メラニーが指す方にはお椀が書かれた看板がある。

「これからの事もあるし高いものは食べられないよ」

釘を刺すと、残念そうな顔をした。


「はーい、いらっしゃい!」

店内に入ると某忍者学園で働いてそうなおばさんが元気よく声を掛けてくれた。

「ここって何があります?」

近くの2人用丸テーブルに腰を下ろして聞く。

「昼の今なら定食があるわよ」

「じゃあそれにします、いくらです?」

「定食には酒はつける?無しなら若そうだし肉を付けて10燕でオマケしてあげる」

「じゃあ酒は無しで2人前おねがいします」

「はーい、こちらのカップルに定食2人前酒無し!」

あいよーという旦那と思われる声が厨房から聞こえた。

少し気まずくなった

「なぁ気になったんだがなんでこの国の金は燕って言うんだ?」

顔を赤くしたメラニーに聞く。

「え?確か塩の読み方のエンから取ったとかツバメから転じたとか聞いたよ、鳥が書いてあるし」

気まずさは変わらず食事が来るまで無言であった。

ただ周りの席は少しずつ埋まっていった。

「おっ美味そうだな」

中世風の街並みだったのでそこまで期待はしていなかったが、魔術が発達しているようで新鮮な肉を使ったステーキが乗っていた。

「ここだけの話本来なら20燕はするのよ」

おばさんはウインクをして注文を取りに行った。

「かなりオマケしてもらったな」

「そうですね、奴隷って普通はこんな良いもの食べられないんですよ」

メラニーが尻尾をブンブン振りながら言った。

「君の目は確かだな」

ニコニコしながら食べた。

「ところでご主人、役人になるんですか?」

「今はそのつもりだな」

「戸籍あります?無いと多分なれませんよ」

ステーキを丸かじりしながら言う。

「え?無いと思う、戸籍はどうしたら取れるの?」

「知りませんよ、そんなの」

あっという間に食い終えた。

「どうしようか」

「今日中にしないと浮浪者として市民兵に捕まりかねないですよ」

頭を悩ませていると。

「どうされましたか?」

隣のテーブルで一人で食事をしていた丸メガネのインテリ男が声を掛けた。

「私はブルーノ市職員のアルノー・ペリエと申します、もし良ければお力になりますよ」

「戸籍が欲しいのですがどうすればいいのですか?」

「ほう戸籍が無いのですか、それは大変です無ければ自分のステータスを見ることすら出来ませんからな」

うんうんと男は首を振った

「良かったじゃないですかご主人!」

「通りを進んだところに大きな十字路がありますそこに市の大きな庁舎が立っています」

「ありがたいです、ところで職員になりたいのですが試験等ありますか?」

「おっ職員になるんですか、読み書きが十分に出来たら空いている部署に配置されますよ、頑張ってくださいね」

早速行かんと会計を終えて店を出た。

「結構色んな店があるんだな」

腹が減っていて気づかなかったが様々な店が並んでいる、ドワーフ族の鍛冶屋にエルフの果物屋、刀剣売りに食料品店と人間だけではない、そして当然のように獣人の奴隷が働いている。

店を横目で見ながら歩いているとバカデカい建物が目に入った。

「5階建てかな」

一番上には鐘がぶら下がっている市庁舎だ。

中に入ると前の世界と同じようにカウンターと待機スペースがあった。

「総合相談窓口…ここかな」

「すみません、戸籍が欲しいのですが」

奥で作業中だった女性職員が来た…エルフである。

「無戸籍者の方ですか?」

「いえ他国から来たんですがこの国の戸籍を持っていないので」

「少々お待ち下さい案内します」

しばらく待っていると。

「こちらですどうぞ」

隣の小部屋に案内された、中にはボーリング玉程の水晶玉があった。

「手をかざして下さい、過去の経歴と犯罪歴を調べます」

手をかざすと白いまばゆい光が出た。

「特に問題はないですね、試しにステータスオープンと念じて下さい」

念じる…すると。


名前 佐藤和也

年齢 15歳

スキル フリーマーケット 

奴隷 メラニー・ガルシア 13歳 

注意事項 奴隷のスキル 窃盗


「出ました、奴隷の扱いには気をつけて下さいね」

「気をつけておきます、あの…市の職員になりたいのですが」

「そう言う事でしたら今応募手続きしましょう、書類持ってきますね」

廊下に出て行った。

「良かったらですねご主人!」

「お前のスキルで少し焦ったよ」

すぐに職員は帰ってきた。

「こちらに住所、氏名、親族の名前と住所を書いて下さい」

「すみません僕は家も親戚もいません」

「うーんどうしましょう、このままでは応募出来ませんね」

悩んでいると。

「おっ!君!来たんだね!」

小部屋に丸メガネ男が入って来た。

「局長!どうしたんですか?」

エルフの職員は驚いた。

「いやさっき食堂で道案内したんだよ、職員になりたいらしいからさ、住所なら僕の家を親族欄には僕の名前でいこう」

「ありがとうございます!2度も助けていただいて」

「いえいえ気にしないで下さい、さあこちらへ試験を開始します」

廊下へ出て2階へ上がると、部署名の書いた扉の並んだ廊下へ出た、片側は窓である。

「ではこちらの部屋に試験は筆記です、奴隷は廊下で待機させてください」

「分かりました」

手前から3つ目の部屋…市民防衛局と書かれた部屋に入った、中には引き出し付きの事務テーブルに本棚が10人分前後並んでいる、仕事中のようだ。

「防衛局へようこそ」

中で待っていた男性ドワーフに案内され空いているテーブルに座った。

「こちらです、制限時間は30分です」

一枚の紙とペンを渡される、内容は四則演算と簡単な漢字のようだ。

「よーい…始め!」

問題を解いていく、どれもこれも難しくはない。

「できました」

制限時間を20分以上残して解き終えた。

「廊下で待機しておくように」

少々驚いた顔をドワーフはしていた。


「ご主人!落ちますかね?」

笑いながら聞いてきた。

「失礼な!」

「合格ですよ」

ドアから出てきた先程のドワーフが言った。

「君は今日からブルーノ市市民防衛局の職員だ、よろしく頼むよ」

「本当ですか!やった!」

嬉しさのあまりメラニーと抱きつきながら喜んだ。

「我が市では職員に市営住宅を提供しています、そちらに寝泊まりするといいでしょう」

「あなたの名前は何ですか?お世話になりますから知りたいです、私は佐藤和也と言います」

「私はエリンコ・サントロです、どうぞよろしく」

エリンコと握手をしたのち住宅までの地図と鍵をもらい市庁舎を後にした。

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