新たな出会い
目が覚める
若干の吐き気としつこい頭痛に嫌気が差しながら目を開けた、板張りの天井であった。
周りを見るとこれまた板張りの部屋にシミの付いた汚れた灰色のベッドに横たわっている事に気づいた。
毛布はどうやら無いようだ。
「大丈夫か?」
そう言ったのは年の近そうな若い見るからに船乗り風の女性である。
「船医を呼ぶから大人しくしとけよな」
そう言うと部屋の外に見るからに古そうなドアを開けて出て行った。
「あー痛い、腹が痛い」
上半身を上げようと動かすと酷く痛んだ、忠告通りにしておくべきか。
しばらくベッドに寝ていると白髪の老夫と先程の女性が入って来た。
「運が良かったな俺が船医のキタミだ、よろしくもしかして君は変な物食べたのか?」
そう言って老人が寝ているベッドに腰かけた。
「私がこの船の船長のイワサキだ、お前の名前は何だ?」
「僕は佐藤和也です、助けていただきありがとうございます、実は倒れる前にヤシの木に実っていたりんごを食べたのです」
キタミと言う老人は笑いながら言った。
「それはアカヤシだな、有毒だが寝ていれば収まる」
「良かったなウチの船医は優秀なんだが、対処出来なかったらどうしようかと思ったぞ」
ガハハ!と揃って笑って言った。
「もしかしてお前は遭難者か?どこの生まれだ?」
「遭難しました、生まれは日本です」
イワサキは不思議そうに言った
「そんな国は聞いた事が無いぞ、身寄りはないのか?」
「ありません、僕1人です」
「ならこの先の大陸一の港町で下ろしてやるからそれまで船で働きな、良く働けばいくらか金の工面してやるよ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ体調が良くなったら作業に参加させてやる」
そう言うと2人は部屋から出て行き
しばらく寝ることにした
「良くなりました?」
良い匂いに釣られて目を覚ますと見覚えのある少年船員が居た
「君は確か助けてくれた方?」
少年は少し笑って答えた
「そうですよ無事で良かったですね」
野菜とソーセージの入ったスープを持って来ていた
「このスープうまいんですよ、食べて下さい」
「ありがとう、ところでこの船は何の船なんだ?」
聞きそびれていたのだ。
「この船は商船の北洋丸ですよ、とても大きいでしょ?」
「かなり大きな船ですね、積荷は何ですか?」
スープを食べながら話した。
「米と麦です、帰りは様々な機械を載せて帰るんです」
「港には工場があるんですか?」
「そうなんですよ最近は妙な武器を作ってるらしいですよ」
「どれほど後で着くんですか?」
「2.3日後ですかね、最近は治安が悪化しているので…魔伝ってわかります?」
「初めて聞きます、何ですか?」
「魔法伝信機って正式には言うんですが10キロくらいの範囲で言葉が飛ばせるんですよ、伝書鳩みたいにね、でそれを使って他の船に治安状況を聞きながら船を動かしてるんです」
「ならなぜ停泊しているんですか?」
「治安の状況が悪化したと聞いて、しばらく様子見で休息中なんです」
スープをいつの間にか飲み干した。
「とても遠い国の出身なんですか?」
少年にボウルを渡すとそう聞かれた。
「ええ、まあ僕の国では鉄の船で荷物を運びますから」
少年は笑いながら言った。
「そんなの浮かぶんですか?」
「もちろんさ、しかもこの船よりデカいんだよ」
更に笑い出した
その後様々な話をしたあとしばらくすると。
「おーい仕事だ!」
船長が飛び込んできた。
「出航ですか?」
「ああ、そうだな経験の無い君には見張りを奴隷と一緒にやってもらうよ」
「分かりました」
「奴隷を使役した事はあるか?」
「いえ、やった事はないですね」
「なら教えてやるよ、まずはお前に使役者の証を付ける」
手首をイワサキが掴むと紫色の魔法陣の様なものが現れた
「それから奴隷と結ぶ、やってみろ私との所有権は解除した、手を奴隷の首に当てるんだ、そこのお前来い!」
二足歩行の犬みたいな獣人が走って入って来た。
「そこに立て」
赤毛の少女は自分の前で止まった
「こう手を当てるんですね」
魔法陣から光の線が出て首に巻きついた。
「おう、できたじゃないか、そいつは一応財産だから傷物にはするなよ、まぁ女同士の趣味があればだかな」
船長が軽く笑ってそう言った。
「よろしくお願いします」
獣人の少女は顔を赤くしている。
「僕は男です」
前世と合わせて何度目か分からない訂正をこの世界で初めて言った。
「碇を上げろ!帆を張れ!」
船長の指示が飛び、パン!と音を立てる。
徐々に動き出した、徐々に砂浜から離れてゆく。
入り江から出るまではあっと言う間であった。
「魔法使ってんのかなコレ」
帆船にしてはやけに早い出港に質問したい事が山ほどあるが、船の船首で見張りに就いているので聞く事は出来ない。
ふと赤毛の獣人の方を見た。
「僕はあまりものを知らないんだ、色々聞いて良いか?」
「はい、なんでも答えます」
別方向を監視していた獣人の少女が少し怯えたように答える。
「自己紹介から始めよう、僕の名前は佐藤だ、君の名前は何だ?」
「私はメラニーです、メラニー・ガルシア」
「そうか良い名前だね、年はいくつ?」
「今年で14歳になります」
「そうかなの?僕は15歳だよ」
「年が近いのですね」
少しリラックスしたのだろうピン!と立てた耳を少し下ろした。
「この船で働いて長いのかい?」
「私はこの先の港で買われて2年目です」
どこか遠くを眺めながら話し出した
「買われたって事は奴隷が売ってるの?」
「はい、帝国の法律により帝国成立の時から獣人は奴隷となる事が決まりました」
少し涙ぐんで答えた。
「この国の通貨ってどんな感じ?」
慌てて話題を変えた。
「塩と主に使われてるのは"
「今持ってるの?見せて欲しいな」
「これです」
ズボンのポケットから銀色の円盤を一つ取り出した。
「かなり小さいね、持っていい?」
「もちろんですよ」
五円玉くらいの大きさで非常に軽い、ワッシャーのような形に飛んでいる鳥を正面から見た模様が3羽描かれている
「船内を掃除中に見つけたんです、奴隷が持っていても使えませんけどね」
自嘲するように頭を下げて笑ったが何かを思いついたのかハッとあげた。
「船からこの先の港で降りるんですよね?」
「そうだがそれが?」
「お金もらって降りるんですよね?買って下さい!」
少女はまくし立てるように言った。
「え?いくらくれるか知らないよ?」
「大丈夫です、私貯金してるので」
小声で奴隷はそう答えた。
数日が経った、港に到着したのだ。
航海中は料理に船内の修理と様々な手伝いをした。
その結果
「おつかれさん!未経験にしてはよくやったな」
イワサキはガハハ!と笑顔である、商品がいい値段になったからだ。
「いくらほどもらえます?」
「現金な奴だな!ほれこれだ」
袋に入ったコイン…燕をどさっとそのまま渡された。
「2,000燕だ!荷下ろしも手伝ってくれたからな!」
「どれほどの価値だ?」
隣でメラニーはニコニコしながら答えた
「下級役人の一月分の給与くらいですかね?」
「そうか、ところで船長コイツを買いたいのだがよろしいですか?」
「お前に世話出来んのか?燕を稼げるのか?一月でどれほど飛ぶかわかるのか?」
睨みつけながら言う。
「大丈夫です、僕は読み書きが出来ます」
納得したようで。
「なら良い、役人にならなれるんじゃないか?」
そう言って去って行った。
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