イロハにモミジ、カエデはメイプル⑪届く未来もあったその手

 気付くと自宅のベッドの上にいました。

 まるで夢のようで、ずっとサトルさんを追いかけた。

 起きて…思い出していく…あの時を…


「あぁ…そう…ですか…終わりましたか…」


 何となく…駄目だったと思った。

 気付いていた、カエデと分かればどうなるか。


 藤原さんにコケシを出されて…様々な考え方が頭の中に、入って来た。


 声の中にもう許されていると聞こえた。

 

 だから私は突き進んだ、行動で示した。


 しかし…


 同時にコケシ?の中の声にあった事

 

 近付くべきではない、彼にとって私は禁忌の存在だと。

 愛する人は私の素肌に触れた時に吐いていた。

 あの時に確信した。彼にとって私は…もしかしたらツカサの様な存在なのかも知れない。

 だとすれば…近付かないのが彼にとって一番良い事を知る。


 過去が…悪夢が迫ってくる事。私が一番恐れている事だ。

 

 知りたくない…いや、認めたくない答えだった。


 だけどその後…馬鹿な私は進んだ。


 手を伸ばした…払われて払われて。


 それでも敵意があれば…離れられた。


 誰かと幸せになって、忘れてくれれば良かった。

 

 悲しい顔…私が生んだ彼の悲しい想い出。

 悲しくても私を救ってくれる、優しい人。


 あの時、手は伸ばして無かったのに…

 降り注ぐサトル…でも確かに…聞こえたんだ…


―お互い様にしよう、そして、また偶然会った時は―


 その言葉と出来事、過去を繋ぎ合わせる、私に出来る事…それは…


―――――――――――――――――――――――


「うーん…思ったより人気出ちゃったなぁ…まぁとりあえずやれるだけやってみよう。たど、本業は木村建設の広報だから、人気無くなったら広報課に戻って来る感じで良い?」


「はい、分かりました!やってみます!やらして下さい!」


 弟ですが、会社では上司の時雨に報告書を出す。

 私のアイドル活動について…あれから半年…元々子供人気のあった私はそこから若い夫婦、そして子供番組が好きな大人、そうやって繋がって行き、気付けば時の人になっていました。

 昔では考えられなかった事、周りは望んでいて、私が望んでいなかった事が叶う…


「それと…分かってると思うけど…まさか会ってないよね?」


「………まだとは会ってません。会える訳無いですから」


「いやいや、メイプルやカエデって何だよ、姉ちゃんはカエデだろ?何だその言い回し…本当頼むよ?約束したんだから…」


 私と彼の残った接点…それは複雑怪奇で…

 だけどそのおかけで今があると言っても過言ではありません。


 それにしても弟は優しい…私はあの人の名前を聞くと狂ってしまいます。だから言わないんでしょう。

 魔法言葉…どんなに人気者になろうと、歳をとろうとあの人の名前を聞くとおかしくなる、会いに行ってしまう。


 あの日からこの1年近く、ひたすら考えないように努力しました…殆ど休み無しで活動し、空き時間はレッスン、隙間無く入れるイベント、その結果が時の人というのは皮肉なものだと思います。


 偶然という言葉を信じて…私は生き続けるしかないのですから。

 


 それの始まりは…あぁ…週刊誌のインタビューで聞かれました。

 あの日の事を。


『何やらある時のイベントでメイプルさんはとても大変な事になったと聞いていますのでその事をお聞きしたい。また、メイプルさんといえば昔、ある事件の被害者…という事になっていますが本当なのでしょうか?貴方の経歴を調べると必ず取材者が口を噤む、もしくは圧力かかかるんです。心当たりありませんか?』


 私は正直に話す、ただし自分の事だけを。

 迷惑をかけてしまう人がいる。だからそんな時だけは隠す。


「仰る通り、過去の羊毛司さんの件はそのままの事です。私だけ見れば被害者かもしれませんが周りを考えれば加害者でもあります。実家からはご家族や関係者に賠償させて頂いていて、借金を返済する意味でも木村建設所属という事になっています」


『それと羊毛さんとは別の事件とは何なのですか?』


「現場にいた方がお話するならそのまま載せて下さい。私の一存では迷惑のかかる人がいます」


『圧力がかかって口を噤んでいるのでは?』


「私は自分の事に関しては何も隠しません。羊毛さんの件は世間に全てを話した上での芸能活動です。そうですね…強いて言うなら…あるセレモニーでゲロとウンコまみれになった事ですか?」


『え?何ですかそれ?』


「そういう事があったんです。それに関わる事お話であれば一般人が関わっているので差し控えます。とにかくお好きな様に書いて下さい。私自身は幾らでも貶めて構いません。ただし関係ない人は貶めないで下さいね?」


 ニコっと営業スマイルを向けると少したじろいだ。

 そして少しズルをした。私の事は別に良い。

 でも彼に迷惑をかける事は…と言っても、例え知ったとしても記事には出来ないでしょう。

 圧力と言う意味で言えば彼に関わっていた女性…と言うか夫婦でしょうか?

 その夫婦に関する情報は国家機密レベルだと時雨さんに聞きました。

 大手ゼネコンやら自社ビルのあるとはいえ雑誌社レベルでどうにかなる話ではありませんし、余計な事をすれば会社が消えるそうです。

 

 存在が都市伝説化しているし、行われている事も漫画やアニメの様なお話だから誰も信じないでしょうけど。

 

 その夫婦はともかく…ネットや気付いている人は気付いていると思いますが!過去を知られてなお、応援してくれる人がいる。

 だから私は限界まで歌い動き、そして跳べます。






 ただ、どんなに詫びて反省しようと過去は追ってきます。

 私はそれに向き合わなければいけません。


【拝啓、木村 楓様】


【お元気ですか?】


【大変なご活躍をされているそうで嬉しく思います】


【私も収監され深く反省しております】


【一度会って謝罪をしたいです】


【ツカサより】


 封筒には第三者であろう方からの名前、しかし中身はツカサからの手紙だった。

 最初開けて中身を見た時、情けない事に私はその場…会社で気絶しました。

 全てがフラッシュバックしました。

 あの別荘での事、車内での事、その後の事。

 暴力、脅迫、恐怖…何も出来なくなるトラウマ。

 こちらの気持ちに関係無くやってくる。


 怖くて身体が強張り、思い出して失禁する…


「ヒッヒグッ怖いッこわいっ…」

「やめてぇっ!死んじゃうッ!」


 手紙が来てから何度も悪夢を見て、布団の中で泣きました。

 アイドル活動も少しお休みを頂きました。


 分かっていました、私がやっていた事。

 もしかしたらサトルさんにとって私は同じ様なものかも知れません。

 優しくしてくれたから調子に乗っていましたが、顔を変えて、名前を変えて、トラウマが近付いてくる…恐ろしかったでしょう。

 それでも向き合ってくれました。

 

 心の傷と言うのは何時までも消えません。

 私が、身体が見えない様にする衣装を着るのも、結局顔以外は体温が上がるとキズが出てきてしまうから。


 そして私がサトルさんにしたように、ツカサもまた私に執着している。


 それでも…またいつか偶然会えた時に…

 真っ直ぐサトルさんにさんを見れるように…


 私は羊毛司と面会する事にしました。

 自分の過去の罪と向き合う為に、笑ってサトルさんと話せる様に。

 





「スーッハァ~…ヨシ!ヨシっ!」


 深呼吸し、サトルさんがやってくれた安全確認ヨシの掛け声で勇気を出します。

 

 私を恐怖で利用して、きっと何かさせる気なんでしょうが…そうはさせません!


『あ、では先に入って下さい』

「はい…」


 面会の部屋で待つ…足が震える。

 プラスチックの様な板を挟んで反対側…羊毛司が来るであろう部屋を見る。

 プラスチックに自分が映る、今日はフードのついたパーカーに眼鏡で来てきたが…驚く程弱々しい自分がいる。


 こんなんじゃ…サトルさん…私に勇気を…


『おい!666番入れ!』

『なぁ…アイツの関係者じゃねぇよな?頼むよ本当に…』

『違うって言ってるだろうが!』


 何やら揉めてるようですが…憔悴しきっているツカサ…刑務所生活で何かあったのでしょうか?

 油断は出来ません…私は座っても目を逸らすツカサを睨み言う。


「お久しぶりですね…」


『ヒッヒィッ!ん?』


「私ですよ…木村楓です…あなたのてが『だずけでくでぇっっっっ!!!!』


 ビタアアアアアン!!


「ヒギィッ!?」ガターンッしょわ〜


『ガエデッ!たのむ!俺が悪かった!アイツに来ないように!木山って奴に言って…ヒロって奴を…ギャアアアアアアアア!?!?』

『騒ぐな666番!を呼ぶな!騒ぐな!』


 な、何が起きているのか分かりませんがツカサの顔が目の前に来た時に、全てがフラッシュバッグしました…

 と、同時にツカサ側の蛍光灯が『パンッ』と音を立てて割れました…


「ひっひいいいッ!イッイイイ!!」


 私は漏らしながら腕だけで後退りします…

 何故か私達の足元には血溜まりが出来ていました。

 何もかもが、見えるもの聞こえるものが、悍まし何かが…私は盛大に漏らしながらガタガタガタと震えて悲鳴だけをあげていました…

 何か声のような何かが…


―今、呼んだな…ツカサが呼んだ…なぁ?―

―ツカサ…また愛し合おう♥いいよなぁ―

―ヒロ、呼んでない。ツカサは呼んでない―

―なぁツカサ?呼んだ?俺を呼んだよな?―


「『ギャアアアアアアアア!!!』」

『666番!呼ぶな!アレを呼ぶな!馬鹿もの!』


 カサケサカサカサ グチョグチョグチョ グエギゲゲゲゲゲ


 それはツカサも看守も同じで…部屋の中が薄暗くなり多数の光の輪が回転し、ムカデや蜘蛛、大きな蜂の様なものが部屋全体に広がっていました…

 そして床は血まみれ、壁には血が滴っていて…


―ヒロ!にやめろって言われたろ?―

―それ浮気だから!ヒロ?絶対駄目だから―

―タツ、浮気じゃない、愛…それは…―

―いや、浮気だから!駄目だ―

―タツ、聞け…ツカサは男だから…大丈夫だから―

―とにかく駄目!サトルに言うからな!―

―ずるいぞタツ…すぐ横取り…チクる…ズルい―


 サトルさん!助けてサトルさん!


『うおおおおおおおおおおお!!!』

『ギャアアアアアアアア!!!』


 突然、看守が怒声をあげると、ツカサを掴んで部屋の外に投げ出しました。

 すると部屋に起きていた気持ち悪い視覚とラップ現象の様なものが急に止みました。


「ハァっハァっハァっ…な、なに?なんだったのですたたた?」


『ハァハァ…ふぅ~…木村さん、ちょっと良いですか?あの、お話が…』


「あぁ、ああ…はい…ちょっとお手洗、良いですか?」


 私は抜かした腰をさすりながら、ズボンをトイレで着替えた。

 そして看守の方から、ツカサについて少し前の話を聞いた…




 刑務所を出てよろけながら家路につく…


「私…どうすれば…もう…これ以上増えると…」

 

 何にも返せない…サトルさんに借り…サトルさんへの気持ちばかりが増えていく…



 聞いた話は…余りに衝撃的でした…

 私が見たものより更に前に一通、手紙が送られていたが、職場ではなく家に送られていました。

 多分…時雨さん経由でサトルさんに渡ったんでしょう…そして…サトルさんが根田さん夫婦を連れてツカサに会いに行ったと。


 そして面会室は地獄絵図となったそうです。

 結果だけ見れば…ツカサは二度と、間接的にでも私に近付けない…近付く事は出来ないとの事。


『もう666《ツカサ》番は怯えきってしまって…しかしですねぇ…私も色んな悪党を見たけどアレが噂の伝説、根田博之かぁと思いましたよ。悪を超える悪とは聞いてたけど…当時の警察は大変だったでしょうねぇ…』


 何やらツカサが一瞬でも怯えると声が聞こえるそうです…


『それに666番の仲間も全部消えてる筈ですよ?そんな様な事言ってましたから…きっとあの人達なら本当にやってると思います…だから安心して下さいね?さん?』


 看守の方は気付いていたみたいです。

 私が顔面蒼白で現れて、きっと脅されているなと思ったらしいです。

 ただ、それなら今のツカサを見れば安心するだろうと。

 恐怖に怯えるツカサを見れば…まぁ結果はあんな感じでしたが…



「サトルさん…何でそこまでしてくれるんですか?」


 独りで…なにもない空に向かって呟く…


「サトルさん…溢れてしまいますよ…我慢が出来なくなりますよ…」



 気付けば…私はサトルさんのストーカー…いや、ファンの1人になっていました。

 仕事がない時は工事現場に言ってサトルさんを見ています。

 なに、私だってドラマにも多少出ましたし、変装はお手のもの…絶対バレない様にして推し活します。

 ブロマイドを作りました。

 Sサトル人形は破壊されたので刺繍で小さい手のひらサイズの人形を作りました。

 それを持って双眼鏡や少しだけ近付いて声を聞きます。

 

 推し活をしていると…自然とファンの気持ちが分かります。

 きっとこうされたら嬉しいとか、こんな事を思っているんだろうなぁとか考えるとパフォーマンスの勉強になります。


 私の推しは凄い人です。

 複数の現場を取り仕切っているようですが都内の現場では知らない人はいません。

 小さな会社の作業員の出産祝いを用意したり、大きい会社同士の揉め事を仲裁したり、皆が頼りにしています。


 【理解し合う事に関しては一歩も引かない男】

 

 サトルさんを表す言葉だそうです。

 同時に自分が無いのか?と誰かが言ったそうですが、サトルさんが言ったそうです。


『俺はそれで後悔してきてるんで。それにもう、自分のエゴをぶつける相手はもういないんですよ』


 心が苦しくなりました。

 そして結婚の話が出ると…


『唯一家族を持ちたいと思い愛した女性は、別人の様な立派なアイドルになりましたから、逆に誇らしいですよ。それに今の俺は昔の様な感情は持てません…もう家族は良いかなって…これが大人ってやつですかね(笑)』


 過去の過ち、勘違いにすれ違い、時間をかけ理解していく。

 思い出せば…2人で暮らした時に言ってましたね…


『この小さなアパートで金が無くてもカエデと子供がいれば幸せなんじゃないかな。俺は親父が家に殆どいなかったから、余計そんな事を考えるんだよ』


 さとるさんは今は違うと言うかも知れませんが、それもまた、一つの正解だと今更ながら思います。

 そんな時に私にも大人の階段を登る時がきました。


『経過観察の結果ですが…貴方は子宮、及びその関連器官の損傷が激しすぎる。再生はしているが子供を妊娠するのは難しい』


 何となく知ってました、だって自分の身体ですから。

 ツカサに連れられた別荘で私の身体は一度死んでいるのですから…

 

 子供が産めない…それは過去にサトルさんが話した理想を叶える事は出来ないと言う事。

 だから、誰か、サトルさんを幸せにして欲しい。



 人の為に努力する。人を理解する。自分を理解する。

 その様な毎日の中で、パフォーマーとしての評価だけが上がっていく。

 医師の方に言われました。


『ただ、治療の経過だけ見れば再生が早すぎる。多分だけど、貴女の治療に使った遺伝子が異常な再生能力やら免疫力がある方の遺伝子なのですが、その影響かも知れません。動いたら動いた分だけ、身体が精強になっていくと思います』


 少し自分でもおかしいと思っていました。

 私の評価もそこから来ています。


【メイプルはメビウス、永遠に歌い、踊る事が出来る無限のアイドル】


 身体から常に沸き起こる力、特にサトルさんを見つめ、サトルさんの声を聞き、推し活後の私は何時間でも、何時迄も動ける気がします。

 私はサトルさんを追いかけ、サトルさんに見てもらいたい一身で、目の前に開く道を、階段を駆け上がります。






 そして、あのセレモニーから1年とちょっとくらいでしょうか?

 サトルさんは本社の本部長に推されているそうです。やる気は無いそうですが…


 私もアイドルとしてのピークを迎えます。

 昔のメンバーにも会いました、若くして天才と言われた女優にも会いました。

 厳しい批判、過去への糾弾、どんな事を言われても構いません。

 ただ、伝えるのです。

 一回きりで短い時間、選択は間違えないで、と。

 大事なものを見失わないで、と。

 運や才能じゃない、自分の力の源を…見失わないで、と伝えます。


 サトルさんもきっと、私がいるから木村家に出入りを躊躇しているからではないかと思い、私は家を出ました。


 結局、昔のアパートに戻りました。

 良くも悪くも曰く付きの場所…でもカエデになるには家以外ではここしかありませんでした。

 自分でも折り合いと言うか、やっと理解できました。

 サトルさんを推しているのはメイプルではありません、カエデなのですから。

 掃除をして、昔の様に綺麗にして、キチンとご飯を炊いて味噌汁を作り、自炊をして自分を保ちます。

 アイドルとは違う、自分は特別ではないと心を落ち着けます。


 マネージャーからはセキュリティの問題が…と言っていましたが、護身術もやってます。

 たまに昔の悪夢を見てパニックになりますが、その時はそっと大事な人から貰ったペンダントを握ると落ち着くのです。

 護身術と言えば…吉田さんと仲直りしました。

 仲直りと言っても私の事を許してくれただけですけどね。

 吉田さんはスポーツトレーナーや護身術のトレーナーを幅広くやっていて、身体の事をお任せしています。


『カエデよぉ…何でもっと早くさ…いや、何でもねぇ』


 分かってますよ、悔しい思いをさせてごめんなさい。

 でも、謝るのは必要な時だけにしています。

 必要なのは行動だけですからね、どんな時でも。




 いよいよ27回目のクリスマスが来ました。

 この時期になると思い出します。

 思い出の日であり、後悔の始まりの日。

 だけど私はもう止まりません。


 【ChristmasEXPO】と言うイベント


 既にプロから若く新進気鋭のアーティストまで…響く歌声と美しすぎる歌姫、Virtualから生まれた若者カリスマ、過去に伝説と言われたバンド、そんな人達の中から私は一般投票で総合トップになりました。


 クリスマスイブに東京の大きな公園で5時間のワンマンライブです。


 有り難い限りですね…自分でもここが到達点だという自覚があります。

 そして実際には報告出来ませんが…サトルさんにライブ当日の夕方…ご挨拶に行きました。


 藤原さんの娘、散華ちゃんと完成した建物を見回っているサトルさん。

 こんな日でも仕事をしている…本当にいつ休んでいるのかというぐらい…


 胸を押さえながら思います。

 曲にまでしてしまいました。

 貴方の心臓音、私の心臓へ。

 きっとずっと繋がっていて。

 貴方の心臓、ハートビート。

 脈打つ限り私は止まらない。

 無限に動き続けるアイドル。

 全ては貴方に捧げる愛人形。


 こんな事になってしまったけど…私はずっと、愛し続けます。

 こんな私を…どうか許して欲しい。


 度を超えた願いをしてしまったと思った刹那…


 私の位置から見えてしまった。


 足場の鉄骨の…留め具が外れ


 まるで雪のようにサトルさんに落ちていく


 声を出す間もなく…一つ目がサトルさんの右目辺りに当たる


『だめええええええええええええっっっ!!!!』


 私は叫んだ、走り出した、でも遠い、遠くから見ていたから、沢山の鉄骨がサトルを埋めるまで、何も出来なかった


『イヤアアアアアアアアッ!?』


 鉄骨の山から血の川が流れる…


 昔の私なら…直ぐ側にいた私なら…助けられた?


 それに…


 ねぇサトル…当たる瞬間、何で笑っていたの?


 でも、その笑顔は、昔見た、私の好きだったサトルの笑顔だった…


 私が失わせた、大好きなサトルの笑顔だった

 

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