Mapleというアゲ・サゲ⑨もうナンバリングが限界です

 

 その日の夜、夢を見ました。

 私とサトルさんと…間に二人と手を繋ぐ小さい人…家族で散歩をしているのでしょうか?

 笑いながら歩く三人…外から見ている私にも幸せが伝わってきます。


――お父さんはゲーム強いんだよ、お母さんは全然勝てなかったんだよ、ねぇサトル――


――そんな事は無いよ、格ゲとかはカエデの方が強かったんじゃない?アクションゲームの出来ない所は俺にさせてたけどな…ん?どうした?■○✖…そこに何かいるのか?――


 なんて事ない会話、だけどアレは私であって私じゃありません。

 二度と叶わない夢なんですから……きっと。


 真ん中の子供が振り返り、私に手を振ったから私は振り返しました。




――バイバイ、ワタシ――


――さようなら、カエデ――




 私は二重人格とか精神的な何かはありません。

 カエデとメープル、それはただの、過去と現在という事だけです。


 この夢は、過去に、分かれ道を選べるのは一度だけなのに、蜘蛛の糸は一度だけなのに、そうやって幾つものチャンスを無駄にしてきた私の…叶う筈の無い私の夢でした。


 そんな私の…夢…です。



 朝、起きたらすぐ準備をします。

 少し寝不足気味だけど、夢のせいかやたら頭が冴えていました。


 私がサトルさんとデート…気付けばこんな高みに来てしまいまして…

 鏡を見る…鏡を見ると思います。

 私はカエデでは無い…髪も、顔も、スタイルも…すべて違います。


「私は木村…メイプルッド…紅葉…です…」


 時間になるとサトルさんが迎えに来てくれました。

 確かに車でデートとは聞きましたが、見たこと無い車で来ました。


「おはよう!んじゃ出かけようか?」

 

「はい!今日はよろしくお願いします!」


 今日も勝負服で出掛けます。勿論、昼から夜のトラブルにも対応可能です!


「こんな所に動物園あるんですねぇ」

「ね、最近出来たらしいよ?」

「このパスタ、半分交換しませんか?いや、嫌なら良いんですが…」

「え?良いの?そっちも美味しそうだったから是非是非」「はい!」


 都会の中の動物園、素敵なイタリアンの出るカフェに寄り、少し車で走り海の見える公園でお話しました。


 サトルさんとのデートはとても楽しかったです。


 昔のサトルさんとは違いました。


 とても…贅沢な経験で…こんな幸せあるのかと思う程でした。

 きっと、この人と、今この人と付き合う人は、皆幸せな気持ちになると思います。

 やりたい事、楽しい事、願いを全て叶えてくれるからです。


 そして、それは私も同じです…でも…


 でも、このデートの間も考えるのです。

 思い出してしまうのです。

 

 あのバイクで山の中でキャンプしてワクワクした事。

 近所のファミレスで一番高いモノを頼んで驚いた事。

 子供も来るような近所のプールで遊んで楽しかった事。

 夜中にバイクで行った、穴場の海岸。

 そこから見た夜明けの朝日…横顔…


 カエデはもう居ない、居てはいけない。

 それでも消えた訳じゃない。

 未練…未練?

 サトルさん…貴方は本当に楽しいですか?

 私は…幼馴染だから知っています。

 貴方は…貴方があの時願っていた生き方を…

 裏切った私が…まだ…願っても良いのでしょうか?

 

 顔を見れば分かります…今何を考えているのか…

 

 「?サトルさん?どうしました?」


 それでも…誰にも…もう見せないんでしょうね…


「いや、ちょっとね…何となく…んー」


 そうさせたのは私です…


「夕焼けが眩しくて…海だと日差しが強いね」


 もう一度、もう一度だけ…神様はチャンスを頂けないでしょうか?


「そうですか…ねぇサトルさん?今日は楽しかったです…勘違いじゃありませんでした…私…私は…やっぱり失くしたモノを取り戻したいです…」


 浮気…じゃないんです…気持ちは…ずっとあって…サトルさんに向かって…ずっと…


「好きです…どうしても…好きなんです…理由なんて…好きになるのに理由なんて無いんです…返事は…いつでも良いので…いつか…私、頑張るので…だから…」


 もう一度…もう一度だけ…サトルさんの望む未来を…メイプルのままでも良い…彼の願った幸せを…


「分かった…ちゃんと考えて返事するよ…これからも…よろしくね?」


「は…はい!よろしくお願いしますっ!」


 絶対に叶えなければならない…もしも誰かが彼を幸せにしてくれるならと思ったけれど…誰かでは失ったモノを取り返せないから…


「いや、そんな気合入れんでも(笑)」

 

 過去であれば…別人であり過去を知る私の全てをかけて…


 車で送って貰う…本当は帰りたくない…気持ちが交錯する。

 カエデとメイプル…2人で家に帰るあの時へ…

 絶対に帰る…あの時の私達へ…


「さ、サトルさん…あの…これは付き合うとは別で…良ければ…その…ん♥…」


 コレは私の宣戦布告です。

 受け取って下さい…お願いします…

 

 優しく触れる唇に、私の中で火が灯りました。


「ん♥えへへっ♥今日はありがとうございましたっ!♥連絡しますね!」 

 

 同時に胸と下腹部が燃え上がり痙攣しました…


「うん、またね〜!」「は!はひぃ~♥」


 ぶ〜ん…


 車が見えなくなっていきます…早くっ…早くイッてくれないと…私♥


「あぁっ!♥んあぁッ!!サトッ!サトルしやあん!♥」


 タッタッタッ…バタンっ!


 お母さんの「ちょっと!どうしたの!?」 みたいな声が聞こえますが今は無理です…


 今はまだ時間が…サトルさんが濃すぎる…Sサトルさんを見てしまうと気付く…私の本能が偽物だと…だから私は、サトルさんの捨てたネクタイで目隠しをして、今日サトルさんが口を拭いたナプキンを鼻に詰めました。

 涎がとめどなく流れます。


「ふごぉ♥ふごごぉ♥ざどぶざんのにおび♥」


 母親の『ヒィ!化け物!?』と言う声が聞こえましたが、いつもの様にSサトルさんを繰りながら夜が始まります。


 いつもより激しい妄想、更に本日のリアルデートによるリアリティ、激しいプレイ、それでも足りない!物足りない!!

 

「ハァ♥ハァ♥ハァ♥コレをやっららぁ…一線を越えてぇ…れもぉ…コりぇをぉ…あぁ♥んあぁっ!!♥ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!♥♥」


 本当に、本当に良くないんです。


 駄目だと分かっていても…サトルさんが捨てたモノを拾ってハンドバッグに入れてしまうんです…


 それでも排泄物は駄目だと…そう自分に言い聞かせてきましたが…


 ゴソゴソゴソ…


「こ、ここ、これ、これは…しゃとるしゃんぎゃ…はなをきゃんだ…てぃっす…んはああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッ♥♥♥」


 私は何度か果て、気付けば失神していました。

 たまに恐ろしく思う事があります。

 もし、本物であれば…この間のハプニングの時…私は失神してはすぐ意識を戻され何度も繰り返し果てました。

 あの短い時間で何もかんがえられなくなりました…まさに馬鹿になるとはあの事ですね…

 

 その日の夜、私はメスとして一線を越え続けました。

 メス…いや人として一線を越え続け、思う事があります。

 今は二十五歳、年を重ねる程、この想いは強くなります。

 もし、後五年もしたら私はどうなってしまうのでしょうか…

 もしかしたら…もしかしたら一線を2人で越えて…なんちゃって♥

 

 …………調子に乗るといつも…………

 …………本当に現実はそう、甘くはありませんでした。




 企業向けとはいえアイドルの仕事はやたら入ってきます。

 世の中、何が流行るか分かりませんね…

 昔から…もしかしたら程度でやっていた事。

 男子の前で物怖じしませんでしたからね、まぁ今は極力人に見えないようにしていますが…


 それよりも…

 


「サトルさんのメールが、冷たい気がする…」


 あのデート以降、サトルさんのメールが必要最低限になりました。

 私としては…これからサトルさんと親しくなるきっかけになったと思いましたが…

 ちょうど藤原さんに脅され連絡を取る必要があるので連絡しますが反応が薄く、電話にも出ませんし、電話もありません。


「まさか…わた…何をやった?私は…何を…いや、きっと忙しいだけ…の…筈…」


 この感じは……覚えています。

 愛する人の雰囲気が恐ろしく様変わりした日、本当に、サトルさんは180度変わるのです。


 あの人の良い所…昔を思い出すとでてくるその極端な所。

 中高生と私は女子の中で浮いていて、男子にも私の悪い噂が回った時も絶対に自分を曲げませんでした。


――いや、そんなん関係無いし。俺、知らんし――


 あのサトルさんが方向転換したという事は…


「ハァハァ…なんでですか?…また…私が何か…?」


 私が何かやらかしたか、それとも好きな人が出来たのでしょうか?

 どちらにせよ、不安が心を塗りつぶし、その不安を上から塗りつぶす様にSサトルさんにすがる。

 

「た、助けて…!サトルさん!何でもします!何でもしますから!お願いですっ!私を!私をサトルさんから消さないで下さいっ!おねがいじまずぅ!!」


 償うとか、支えるとか、幸せにするとか…どの口が言うのでしょう。

 ちょっと冷たくされただけで、ご覧の有り様です。

 Sサトルさんを蟹挟みして自分に引き寄せ、足を使い腰を激しく打ち付けます。

 その腕で私の首を締めさせます。

 いっその事と思いながら…


「はいぃ!何でもしますぅっ!♥にゃんでもしゅるからころしゅてぇ!♥ひゃとるしゃんころしゅてぇ♥♥ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙♥♥♥」


 息絶え絶えになりながらも繰り返し腰を打ち付けます。

 サトルさんを感じていないと私は私という存在を感じる事が出来ません。

 間違っているのかも知れません、狂っているのかも知れません…過剰な愛情はただの迷惑…しかし止まらないんです!何もかも!何もかもが!






『うーん、これは健全では無いな…対魔忍ですら健全になり娼館に潜入するのを辞めたのに…老若男女に愛されるアイドルじゃないんか?』


「ひっ!?だ!誰ぇっ!?」


「コンバン…メイプルーン…貴様に復讐しようと思ったら勝手に死んでた場合…どうする?」


 大きな窓のサッシにウンコ座りで佇むのは…


 何故か股周りが切り抜かれたニッカポッカにスクール水着、その上から釣り人のチョッキの様なものを着た藤原さんだった。


「結局、対魔忍は力技で突っ込むだけになった、そうなるとオレは『対魔忍とは違う』と言えなくなった…困ったな」


「み、見ないで下さい!これは違うんです!」


「ザドル・ザビの人形…これはキモい…」


「とにかく…事情聴取しながらコレでお前の頭を叩く…そしてやっと…ざまぁの時間だ…とにかく今すぐ疑似エロやめろ」



 片手には大きなハリセンを掲げ、もう片手にはコケシを持ち、藤原さんはニヤリと笑った。

 私のこれから…どうなるのでしょうか…


 後ほど知りましたが、この股を切り抜いたニッカポッカ姿で現場を出入りしているらしいです…暑いし、アニメキャラみたいだから良いだろとの事です。

 


 

 

 

 

 

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