猛るMaple⑧S、それはセクシャルでありサスティナブル

――セレモニーが雨で中止になりハリセンでタツを叩く前のメイプル――


 私はもう、何も持たない、手に入れてはいけないと常々思うようにしています。


 でも…手に入れてしまった…悟さんへの連絡手段を…

 

 そして、そう思いながらも、手はいつも触れてはいけない所に伸びて、触り、掴もうとする。

 結局、手に入れようとする卑しい人…楓になる。


 駄目なのに…駄目なのに…


 サトルさんの携帯番号を表示、サトルさんの笑顔の待ち受けが合わせて表示されます。


「ゴクリッ」


 この電話ボタンを押すと電話がかかります…電話が、かかります…電話が…


「んふぅっ!ふうう♥んんンンッ!!♥ダメェッ!かけちゃだめーぇっ!♥でもこの手がァ♥」

 

 私は壊れてしまったのでしょうか?

 それとも元々壊れていたのでしょうか?


 失ってから気付く事が多過ぎて、失う事に慣れすぎて、何処からが私で私は…


 ブーッブーッ【着信 木山悟】


「おしちゃらめぇ!♥んひ!?しゃとるしゃん!?♥」


 自分の世界に酔う暇もなく、連続で訪れる愉悦の時間。

 

「もしもし!?さ、悟さんですか!?」


「おぉ!?マジでメイプルちゃんだ!?てっきり知らないおっさんに繋がるかと思ったよ(笑)」


 私は彼と話す為なら知らないおっさんになる覚悟がある…そんな謎の覚悟を固めているとは知らず、悟さんはササッと要件を話す。


「いや、今日は仕事の話なんだけどさ、タツをハリセンでリズミカルに引っぱたいて欲しいんだよね」


「はい!何でもやりますよ!なんでも!え?」


 悟さんのお願いを断れない私は…気付けば私の正体を知っている藤原さんの頭をハリセンで叩く事が決まった…


 当日…凄い怖い顔の藤原さん…悟さんに見せてもらった対魔忍ア○ギ?という人に似てますが…こんな顔は…


「お前…は…拳という…武器を収めているオレの頭を…戦鎚で…滅多打ち…お前ぇ…まただ…また魏延…反骨…は後頭部が出っ張る…ミエリィィ…」


 ギリギリギリギリギリギリギリィ【パンッ!】


 聞こえる様に意味不明な事を仰り、歯ぎしりをする藤原さんの頭を歌に合わせてリズミカルに叩く、歌は勿論別撮りだ…しかしあの藤原さんを…


 明らかにキレています…私と同じ高校の学生時代、教師と揉めに揉めて、屋上から落ちたりトラックに轢かれたりしても普通に生活していた元ヤンキーの藤原さんを…


 それに…この人はただのヤンキーじゃない、私はお父さんから聞いたんです。

 藤原龍虎、身近な皆さんはウンコケシとか呼んでいますが、本来はとても良い家の方で世の権力者がひたすら避けて通る化け物、別名・眠れる馬の様な鹿、三大柱、破壊の神とか言われているらしいです。


 その人の頭を、私は恐怖で半泣きになりながら叩きます。


 涙で視界が滲み、力か入らなくなってきた時に間違えて燕返しの様に前後、後頭部だけではなく顔面もリズミカルに叩いてしまいました。

 それがかなり気に入らなかったのか、凄い勢いで鼻血を出す藤原さん…こんな柔らかいハリセンで鼻血を出す訳はありません。

 間違いなくキレてます…怖いです…


 何か藤原さんと悟さんが話したと思ったら…急に藤原さんが鼻血を垂らした顔で私の方を向き、目をひん剥いて大声で言いました…


「アァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!?エミリエァァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッッッ!?!?!?」


 そして小声で『肛門楽園ウンチでオレと悪手…だったな…』と謎の嫌な言葉の言葉を呟いていました…何故こんな事に…いや、こんな事になるなら…こんな時だからこそ…悟さんの話を遮ってでも…


「は、はい!それより!あ!あの!?サトルさん!ちょっと良いですか!?」


「うん?どうしたの?」


「え…えぇっと…その…帰り…これから…ご飯…食べて行きませんか?」

 

 少しづつ…少しづつです…近付きたい…寄りたい…もっと…もっと…心も…からだ…

 

「じゃあ…いつも行ってる喫茶店行こうかな?ロールキャベツとナポリタンが美味しいんだよ」


 ロールキャベツ…ナポリタン…んあぁ


「あ!はい!サトルさんのおすすめの所なら何処でも!ちょっと着替えてきますね!」


 急いで衣装部屋に入りジャケットとバニースーツを脱ぎます……


「んぁはっ!?♥」……ヌチャァ………ポタタッ…


 違います、私の股間は何もなってません、聞こえません、私は純粋な気持ちで悟さんとお食事に行きます。

 勿論、今日の通勤のTシャツとジーパンなんて着ませんが。


 髪型は楓だった時はセミロングでしたが今はショートカットです。

 別に目は悪くありませんが、念の為黒縁メガネをかけます。

 そして…コレとコレとコレと…あ…


「ちょっと攻め過ぎ…ですかね…」


 誰も聞いてませんが一人でツッコミながら、肘までのサイズ小さめの白シャツにハイウエストの伸縮素材のミニスカートに着替えます。

 Dカップはある胸を無理やりしまい込みます。


 年齢的には悟さんと同じ私が、若者の様に身体を見せる様な格好をしています。

 これでは痴女ではないですか…でも…でも…


―ロールキャァベェイツ―ナアォポリタァン―


 私の脳内で悟さんの口が拡大され、ロールキャベツやナポリタンを、咀嚼する音が聞こえます…


「おあぁあ♥そんな音ぉ♥ダメぇ♥」


 A!M!S!R!うヒィ♥


「んあああああああああッッッ♥♥イッ!♥」


 駄目です…ショートブーツの中まで…一回拭いてカラータイツを履きます…こんな事で私はマトモな精神を保てるのでしょうか?

 

 しまった…不味い!?時間が!?急がなければ!


「ハァハァ…お待たせしました!…?どうしました?」


 私の身体を舐め回すように見る悟さん…まさかしていたのがバレてますか!?

 いや、うっすら香水付けましたしそんな筈は…


「いや、流石アイドルだな…と。とにかく、じゃあ行こうか?俺はスーツのままだけど良いかな?」


「??もちろんです!無理言ってすいません!」


 スーツは良いですね、スーツの悟さんがまた良いんですよ。


 少し歩くとお洒落なカフェについた…私の知ってる悟さんはこんな素敵な店知らない筈…


「はい、席そちらへどうぞ」


 さり気なく、最近子供の間では少しだけ有名になった私を目立たない席に座らせる…完全に私は今、悟さんワールドにいる…お・も・て・な・し♥


「?あ!?ありがとうございます!えへへっ…へぇ~…素敵なお店ですねぇ…普段から来るんですか?」


 マズイ…ちょっと鼻の下が伸びて下品な顔になった…


「いやぁ~最近、木村建設でよく企画書出すように言われるでしょ?だからその勉強とかでね、静かな場所を知り合いに聞いてさ、1人の時間を楽しんでるのよ」


 一人の時間…それじゃあまだお一人様なのでしょうか?申し訳無い気持ちと淡い期待が混ざる。


「なるほど〜!でも…ほら、彼女さんとか来てるんじゃないですか?さ、さと…サトルさん…モテそうだし…その…」


 し、知ってるんですよ?真田君のいもうとさんとデ、デートに行ってた事…いよ、ストーカーした訳じゃありません…たまたま、そう、たまたま…


「俺、彼女は居ないよ(笑)何か散華ちゃんってタツの娘が不憫でね、良く遊んであげてるんだけど、そのせいでタツと浮気してる疑惑があったけどね、言われた時に『するわけねぇだろ!お前ら全員殺○ぞ!今すぐ興信所使えや!』って叫んだけど、なかなか信じてもらえなかったな…」


 人妻とは流石にないでしょうけど…私が言えた事ではないですが…違うです!


「そ、そうなんですか?他にもほら…真田さんの…あの…妹さんの…」


 なぜ真田寧々子さんを隠そうとするですか!?やっぱり何かあるんですか!?


「あぁ…寧々子ちゃんの事?え?何でメイプルちゃんが寧々子ちゃん知ってんの?」


「え!?いや!あの!真田兄妹といえばかなり有名人なので!」


 ヤバい!ストーカーがバレてしまいます!いや、ストーキングはしてないですが!


「寧々子ちゃんとも何もないよ。何回な遊びに行ったけどね。なんて言うのかなぁ…俺はどうやら女々しい奴みたいでね、初恋…が未だに忘れられないんだな(笑)だけどその初恋の相手は俺と付き合う度に浮気しちゃうんだ…きっと俺と付き合うと駄目になっちゃうんだね…だから今は忘れる為に、気持ちを諦めていく作業って感じかな?我ながら情けないけどね(笑)」

 

「そう…ですか…諦め…て…いく…」


 ………私は過去になっていく…楓といると二人共駄目になる…そして楓が消えていく…それだけの事をした…楓が消える…それでも構わない…私は…メイプルなんですから…


「いや!そんなメイプルちゃんが凹まなくても…」


「私が…私…その…」「ん?」


 私は二重人格でも…何でもありません…だから…楓の悪い所は全部捨てていく…それで削れ残ったものがメイプル…だから悟…サトルさんを…助ける…幸せに…私が…


「わッ゙!私じゃ駄目ですかっ!?私が付き合っ゙!?…いえ…あの…ごめんなさい…」


 危ないっ!?また勢いでやってしまう所で…


「じゃあさ、お互い、まだ色々知らないじゃない?だから付き合う前に次の休み…俺がメイプルちゃんに都合合わせるからデートしない?」


 え?


「デート…ですか?」


 デート…あの狭い部屋で配信をし続けている時…もう人生でないと思ったあの…デート…サトルさんがいて…私がいて…


「うん、多分…メイプルちゃん、俺を何か勘違いしてる「かっ!かかっ!勘違いなんかしてませんっ!」


「まぁとりあえず俺、明日休みで今週は休みだから次のや「明日休みです!明日お願いします!」 


 【早くしないと死ぬけど、どうする?】って言われてパートしてる場合じゃない!

 

「それじゃあ明日だね?了解〜どんな所に行きたい?」


「はいっ!私は海が見てみたいです…それとですね…」


 帰り道…空を見上げた。星が出ていた。


「今日も…調子に乗ってしまいました…」


 離れる…そっと見守ると決めて…決めてから今日まで…自分の行動はまるで真逆…


「我慢出来ないから…こんな事になってしまったのに…私って本当に馬鹿ですね」

 

 たまーに、想う事があります。

 夜空…星の向こう側で、今でもあのアパートで…サトルさんと2人でいるカエデがいて…

 結婚して、子供がいて、それで…


 もし悪い部分だけ取り除けるなら…あのアパートて身体中ボロボロにしながら願っていました。

 私に悪い所は全部降り積れば良い、だからきっと、どこか違う世界にいる2人【サトルとカエデ】には幸せになって欲しいと。


「私が我慢しなければいけないです、私…が…」


 そう思いながら家が近くなってきた。速歩きになる。


「駄目…あれは駄目!何で…私!止まって!」


 自分の気持ちはどうにもならない…言葉に出して止めるが…身体は止まらない。

 

「ハァハァ♥ハァハァハァハァハァ♥」


 きっと今、鏡を見たら醜い顔をしているでしょう。

 家に入る、両親がが「ちょっと!?どうしたの?」と言ってますが「ご飯は食べてきましたので」と言うのが精一杯…そして…部屋に…

 

「開けちゃ駄目ッ!見たら…あぁ♥♥」


 



 ……私の部屋にはSサトルさんがいます。


 オリ◯ント急行みたいな会社から買いました、高品質のSサトルさんです。

 顔写真の特徴を伝えSサトルさんを用意してもらいました。


 私はモノホンのサトルさんの事は、知ってます。

 サトルさんは洋服を買いません、安くて少ない服を着回して、駄目になったらすぐ捨てます。

 サスティナブルとは真逆なサトルさん。

 私にとっては都合が良いです。

 私はサスティナブルですし、帰り道にサトルさんの家の前のゴミ捨て場の前を通ります。

 おや?良くないですね、夜中にゴミを出していますね、私はなので再利用します。

 Yシャツ、スラックス、肌着、トランクス…

 汚れは落とす、でも変な匂いが付いたら嫌なので水洗いのみです。

 それをに着せるとサトルさんになります。


「ただいま帰りました、今日は良い事あったんですよ」

『へぇ、どんな事があったの?』

「サトルさんにデートに誘われたんです」

『それは良かったね、どうせまた濡らしてたんだろ?』

「当たり前じゃないですか…だって私の…私だけの神様アイドルですよ?」

『へぇ…お前どうしょもねぇ女だな』

「叱って下さい、私を滅茶苦茶にして下さい、サトルさんの愛をぶつけて下さい」

『それじゃあお望み通り滅茶苦茶にしてやるよ』

「はひぃ♥」




 私はまるで人形師の様にマネキンの様なSサトルさんを繰りながら一人二役を行い逢瀬を繰り返しています。


 最初は布団に写真を貼り付けて…布団を人の形にして、安い空気人形を買って、今は貰った給料を数ヶ月分注ぎ込んで買ったSサトルさんです。


 Sとはセクシャルであります。


 スーパーが付くとしたら本物のサトルさんですね。

 



 コレを時雨さんに見つかった時に本気で揉み合いになりました。

 

『姉ちゃんこれは違う、これは駄目だ、色々と駄目だ、捨てろ、一刻も早く!』


『時雨さん!やめて下さい!Sサトルさんを捨てないで下さい!一生のお願いです!』


『Sサトルさん!?ヒ◯シ君じゃねぇんだから名前付けるな!元俺の部屋でこんな気色の悪い人形があるなんて嫌だから!悟君もこれ見たら発狂するって!?コレはキツいって!マジで!』


『絶対見られませんから!部屋の中だけですから!お願いだから捨てないで下さい!』


『うお!?母さん!姉ちゃん気持ち悪い人形の入れ物に鍵閉めてその鍵パンツの中に入れやがった!やっぱ狂ってるよ!一刻も早く病院入れた方が良いって!』


『楓!鍵を出しなさい!』


『鍵も渡しません!病院も行きません!サトルさんという神様の人形とイミテーションのメイプル!何が違うっていうんですか!?』


『世間の常識とちげぇっていってんだよ!この馬鹿姉!』


 私は時雨さんの腰にしがみついて、懇願しました。

 私の生きる意味を捨てないで下さいと、土下座して涙を流しながら懇願しました。


 私には…サトルさんしかいません。

 でも…サトルさんには近付けません。

 夢を見させて下さい、サトルさんに…迷惑は…かけませんから…


 Sサトルさんが私に目隠しをして…私の身体をこれでもか弄くり回し、何故かローリングするアレで攻め立てます。

(ここ何ヶ月かで人形を自由自在に動かせる様になりました)


「シャーッ!♥てょルシャン―ッ!♥シュギイィィォ♥」


 間違いがあるならそれば全部、私という存在がサトルさんを狂わした。

 近寄るなと言われれば近寄らないでしょう…ホントに?

 私はストーカーじゃないです…私は…





 気付けば2時間は経っていた。

 

「ふうううう♥ハァハァ♥ふうふう♥んふぅ♥」


 火照りが止まりません。

 明日デートだから?神様とデートですよ!!

 ね、寝ないと…早く寝ないと…


 

※話数が伸びるのは素人の証、何も望みませんが皆さん最後までお付き合い頂ければと存じます。

後、  

  



 

 

 

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