楓の遺言の先⑤〜楓という人の行き着く先、そこにはメイプ

神様が現れた、姿は見えない、声だけで

 だから私は、懺悔する


 記憶は?―喪われて、すり替わって、覚えてなくて

 行動は?―間違えて、届かなくて、傷つけて


 痛みは?―感情的な怒り、個人的な憎しみ、裏切りの制裁


 積み重ね過ぎて、だけど、死にたくても…死ねない、死ぬのは凄く怖いから。


「あ…時間だ…配信しなきゃ…」


 私のやるべき事。

 謝らなきゃいけない、感謝しないといけない…届けなければいけない


 天国に行った彼に ここにいる私が…


 最後の日 最後の時間 何も出来なかった日

 思い出して貴方に届ける 彼は叶えろと言った きっと叶えてはいないけれど

 

「教えてくれたから…サトルが…だから…届くよね…きっと…」


 都合良く使える女だなと思ってた?

  だから、私も使ってやると思った

   酷い目にあえと匙を投げられた

    だから、見返してやると思った


 私の反発は、全て潰された、駄目な女だった


 彼は 離れる前に 教えてくれた

  彼は 歩き方を 示してくれた

   だから だから だから…


「私に出来るごどは…体を張るこどだげだから…配信…」


 結局、誰も信用出来なかった、したくなかった 

 彼と私の苦しみは同じもの…では無かった

 同類ではなく彼をただ傷付けた それが、私の罪 

 だから彼にだけは 今更だけど ごめんなさいと繰り返す 


 身体は傷だらけ 未だに筋肉は言うことが効かない 何度も自傷したこの身体は 醜く言う事を聞かない


 もう遅いけど でも彼の為に ぁあ また頭がまどろんでいく その彼がいないなら 居ないなら次は…私が…私こそが…

 楓じゃない私が 貴方を今度は しあ…わ…



―ん~、どうだろうなぁ…回復は…後は本人の意志だからなぁ…身体も、心も―


―身体機能は大分戻ったが…何だろうね、本人が元に戻りたくないのかな?―


―そうなると厄介だなぁ…何かキッカケがあれば良いけどねえ―


 戻りたい?そもそも戻れるわけ無い。

 私が全部壊したんだから。


 永遠のように続く、配信の毎日。

 宙にいる何かに見てもらえるように…私の唯一がこんな感じ行為だから…叱られるかも知れない、呆れられるかも知れない、それでも会いたい…

 神様…お願いします、どうか…



 しかし 突然、神様がやってきて、私を実家に投げ込んだ。

 ちゃんとやれって。

 でも私は貴方の言っていたツ▲サと幸せになれなかったよ?


 私が…余計な事したから何もかも滅茶苦茶になっちゃった。


 でも、関係ないって、知った事じゃないって、神様が。


――今更…というか聞かなかったのも悪いけど、色々と何か言われてもさ…――


――結局、俺から見たら寝取られてるだけじゃん?――


――だからもう、それはどうでも良いって――




 神様はどうか知らないけど…サトルが…そう思ってるなら…何とかしないと…また間違えちゃう…天国のサトルの為に…サトルの…


『楓…聞こえてるか?今、サトル君がお前を連れてきて…親なら責任取れって言われたぞ。あんな事言えるようなるとはなぁ、流石アイツの息子だよ』


『えぇ、本当に立派になったわね。楓…貴女は失ったと思ってるかも知れないけど…まだ見ていてくれたわよ。幼馴染って素敵ね…って、私が言っちゃいけないわね』


――サトル…サトル…生きてるの?――


「あぁ、生きてるよ。今はウチの出向だけど、元ヤクザやらクセの強い外人やらワラワラいる所で一歩も引かず現場を動かしてるよ…正直、助かってるよ」


「はぁ…ねぇちゃんさ…サトル君から仲良くしろ言われたからもう一回歩み寄ろうと思うけど…何であんな馬鹿と浮気したんだよ…サトル君で良かったじゃん…姉ちゃん本当に馬鹿だよ」


『時雨…私…私は…サトルに、会いた…」


「いや、もう無理だって。今の…いや、姉ちゃんとは多分、会いたくないよ…俺、サトル君とまだ仲良いからわかるよ、それはやめてあげなよ、流石に。」


「いや、一つだけ方法があるぞ。あんまりしたくないが…木村家の楓という犯罪者の扱いと対外的な決断、そして皆が幸せになれる方法が…正直アドバイスしてくれた人は信用できないが…コレしかないと思う…後はお前次第だ…嘘をつき続けたお前の…」


「え?父さん、マジでやるの?」


 私は嘘をつきました…今まで沢山の嘘をつきました。


 だから、お父さんはコレを最後で最大の嘘にしろと言った。

 

 これで最後…最大の嘘…今度こそ…嘘を…つかない…


―――――――――――――――――――――――


 ある日、マスコミを騒がせた女がいた


 ただの中小企業の会社員と暴力団が組んで行った横領事件や薬事法違反…なら2、3日で風化する。

 しかし、そこに大企業の重役の娘が入れば、長く響く大きなニュースになる。


 横領事件と薬事法違反で世間を騒がせた羊毛司と暴力団関係者が神○川県で逮捕された事件、羊毛司と愛人関係であったとされる木村建設の重役の長女・楓は、捜査の結果、複数の証言から被害者と判断、ただし心神喪失により本人の聞き込みは困難、木村建設の重役である被害者の父親は、娘を人里離れた施設に入れたとの事。


 しかし、記者個人としては同情の余地があるかと言えば…その娘、木村楓氏は元事務所所属のアイドルで、複数のファンが彼女から誘われ性行為に及び、金銭や貢物を要求、結果…グループは解散。メンバーは当時の事を恨んでいる。


 見方によっては羊毛の家族を壊した、羊毛の家族もまた、離縁したとは言え犯罪者の家族を持つ事で困難な未来が待っている。


 他にも複数人がパトロンとなり騙され、人を騙し続けて来た女の最後は羊毛の別荘にてドラッグをしながらの性行為により精神が崩壊だった。

 欲に忠実なふしだらな獣の最後は、檻の様な場所で奇声を上げながら死んでいくだけの生き物になったそうだ。

 それでも同情の声もあったが、大まかな世論は自業自得であり自分の蒔いた種であったと叩く。

 そして、私の記事もあくまで他者の取材結果に過ぎず、真実は闇の中。

 時間が過ぎれば誰にも記憶に残らず、知られず、見られず、消えていく…。


 私は思った、成功者の子供、無能無知で、その傲慢故の不幸。

 真実がどうであれ、これほど誰にでも甘く共感出来る蜜の味は無い。


 そしていつか、誰か彼女を見つけたらその姿を見て笑ってあげてほしい。


 最後は報いを受けたとはいえ、罪とは決して軽いものでは無いのだから。


          文責・月間売春記者UNK


―――――――――――――――――――――――


「お父様、それでは会社に行ってきますね!」


「あぁ、無理するんじゃないよ…」


 先日、19になった私…会社の皆からはメイプルと呼ばれています。


 私は生まれた時から両親がいませんでしたので、父も母は名前が分かりません。

 名前は木山…メイプルット…紅葉もみじ申します。

 フィリピンで生まれ、日本で育ちましたが、数年前に母が亡くなり、親戚は木村建設で働いていると聞いてたので頼りにしました。


 遠い血縁関係という事が分かると木村の父様は一緒に住むように言いました。

 この家には私の兄姉がおり、既に社会人の時雨さんは快く迎えてくれました。

 本当は姉の楓さんという方がいるそうですが、今はもう会えないそうです。

 私は家にお世話になると同時に、時雨さんが専務をしている、木村ホールディングスで事務職の仕事を頂きました。

 これからは恩を返していきたいと思っています。


「と、言うことですね。それでは今日も、皆さんの為に頑張ります!」


「あぁ、頑張っておいで。楓…じゃないな、メイプル」


「はい、行ってきます!」


「………まずは態度から、そして言葉から…か」


 お父さんの独り言が聞こえた気がしました。


 その通りだと思いながら、今は木村紅葉の…木村・メイプルッド・紅葉の1日が始まります。


 から助けて貰ったあの日、それまでの事を思い出しながら、自分と向き合う毎日です。

 

 私が社会復帰する為に…お父さんとかかりつけの医師の方が提案した方法は木村楓から『別人になる』でした。


 人を傷付け世間を騒がした木村楓を雇う会社はありません。

 それが例え親の会社であっても。


 それに…身体に関して、私が最後に打たれた薬が肉体を損傷するものだったらしく、その薬の出元…美容にも強い再生医療で有名な病院が責任を取るとの事で、リハビリと手術を繰り返した結果、少し外見が若返り…顔のパーツや形、体型も変わってしまいました。


 また、皮膚はまだ馴染まないせいかすぐに日に焼けてしまい、ずっと浅黒いままになりました。

 更に、数年は体温が上がる度に首から下のキズが浮かび上がるそうです。


 当時の私の心も、精神が安定しない状況で事件を起こした人間への世間の悪意に耐えきれないと言われ…

 

 だったらいっそ…と、東南アジア系のハーフで…別人に…と、色々考えた結果的が今の自分です。


 また、入院している間に木村建設について学びました。

 経歴上、再就職は難しいので仕方ありません。


 元弟である、時雨さんの所属する部署の下にハラスメントや時間外労働等を取り扱う働き方改革を推進する部署があるので、そこでパートタイムとして働く事になりました。


 半年の入院と半年のリハビリ、そして入社。


 同じ会社といえど全く違う場所にサトルさんがいる。

 それだけで良いんです。逆に…それだけ…我儘を、お許し下さい。


 私の失敗は省みなかった事、それに至った捻くれたプライドも傲慢な心。

 誤った価値観、価値観の違いを受け入れる心。


 サトルさんが何処かで見ている…だから…謙虚であれ…


 ただそれだけを胸に、今日も仕事に向かいます。


 私の主な仕事は一般的な社員のお悩み相談や仕事の相談を受ける事です。

 また、スマホアプリでは私が沢山の回答を作り今では『メイプルちゃんに相談!』と言うコーナーがあります。

 そこで相談を受けて、それを各部署に問合せ、回答をメールで送ったりします。

 たまにメイプルちゃんと言うウサギを模したキャラクターのコスプレをして仕事の紹介やオンライン相談を受けたりします。


 他にも私が好きなのは現場に行って、イベントを行い子供達に風船配ったり遊んだり…要は建設現場に対してのイメージ向上ですね。

 皆、特にお子様がいる家は近所で工事されるのは不安ですから。


 それに私は、あの日…楓を捨てた日から、大人の男性が怖くなりました。元から女の人は苦手なのですが…マネキンの様なやり取りは出来ますが、話していると何処となく不安に襲われ怯えてしまうのです。

 それに触られると蕁麻疹が出てしまいます。


 結果、子供とお年寄り…特に子供としか仲良くなれません。家族連れであれば子どもの方を見ながらなら笑えますが、それでも保護者と一対一はまず無理です。

 でも良いんです。逆に…もう2度と同じ過ちを起こせませんから。


 さて、今日も、木村建設の元からいたキャラクターのウサギさん、キャロット君の相方、私の名前の付いたメイプルちゃんの仕事です。


 このウサギを模した燕尾ジャケットを着たバニースーツのコスプレ、白タイツにブーツ…なるべく身体を隠した衣装で頭に安全ヘルメットを被ったウサギの被り物をして、風船を配ります。


『は~い!お歌終わり〜ビンゴ大会始めるよ〜♪』


 もう遥か昔の話のようですが、アイドル時代の経験、周りに比べて下手だった歌やダンスが少し活かせます。

 それにステージと目の前でするパフォーマンスは違いました。私はこちらの方が向いている様です。


 今日も動物の様な可愛らしい動きと子守唄の様な歌を歌い、盛り上がった子供達とビンゴ大会をしていると…



『男便、テメェちゃん脳みそ使って考えろや、誰が海老田?天ぷら屋の話してんだよ、エビデンスだよ、散華ちゃんが安全だっていうエビデンス!出せよエビデンス!』


『馬鹿程横文字を使うよなぁ?ドリルチ○コサトル馬鹿ホモサピエンス、だからその一般人とやらの前で、散華を床に置いて軽トラ乗せるか、重機で轢け。硬さが分かるから。イベントボスチ○コとは言わんが前半とラスボス前と2回出てくる四天王ぐらいは硬い』


『その映像を見た一般人の思考を考えろって言ってんだ『ドンッ』あ!すいませんっ!』


『あっ!?』


 身体がぶつかって倒れそうな所を、抱きとめられました。

 しまった。男の人だ、被り物で、見えないけどぼんやりと分かる…あぁ…多分、蕁麻疹出ちゃいますね…でも助けてくれたんだから感謝しな…あ!?…あぁ!?…ああ!!…


 蕁麻疹は出なかった…出る訳もない…

 空気が温かい、優しくて包まれて…視界に映るのは熱い、羨望と憧れ…触れる部分は溶ける、初恋の様にとろける…


『あっ…わぁ…ああぁ…うああ…』


 被り物の目の穴越しに見えた…見えてしまった。


 私が裏切って傷付けた幼馴染…私と違って誰にでも分かる様に大人になっていた…

 髪は短くなって…幼さがあった顔が凛々しくなって…白いYシャツが似合う男性になっていた…

 そして…私を支える腕と胸板…昔より力強くて…私が…おかしく…


 心では拒否する。時雨さんにも言われている。

 彼は私とは関わりたくないだろう。

 それでも、気付けば最初に倒れる私を抱きとめたのは彼だが、その遥か何倍もの力でサトルを抱きしめていた…だって…こんなに早く出会えるなんて思ってなかったから…サト…ル…サトルぅっ!♥


『ん?おーい?大丈夫ですか?怖かったの?』


『下痢便マン、お前、節操ないな…しかし…』


『うるせぇな寝取りレ◯プ女、黙ってろ』


 気づけば楓になっていて…駄目です!


 藤原さんとサトルさんの会話で目を覚ましました。

 それでも一瞬で過去…楓に戻ってしまいました。

 

――大丈夫です!ありがとうございます!こちらこそ、すいませんでした――


 それだけなのに言葉出ません…


『あ…その…え…』


『まぁ、元気ですかね?根多組のせいで、ご足労すいませんね』


『は?人のせいにすんなや?散華が強そうじゃないのが悪い』


 何の話かと思ったが、私の子供向けイベントは藤原さんが自分の娘をトラックで轢いたとかで問題になり、イメージアップのために始めたイベントだった。


『いえ…あの…あ…だ、だだだ…』


『良いんですよ、申し訳ないっすね。ホントに。それではよろしくお願いします』


 サトルさんはお姫様抱っこをしてそっと私を椅子に座らせ、去っていきました。

 私はその背中をずっと見ていました。


『下痢便ジャー、お前、そんなに女に手を出して正気かよ?ネコどうすんだよ。アイツお前にフラレたって言って、イラついて同僚の鼻にウンコ管挿したらしいぞ。ウンコ耐えろよ(笑)』


『まぁそういう所だよな、常に俺の恋の敗因は…つまり無理なものは無理、無理無理』


『ムリムリって脱糞か、お前。まぁオレも無理だけどな。ヒロの縦笛も吹く前にオレがケツの入れて黙ってたらヒロが真顔で吹いてて興奮したけど、自分がやられたら嫌だからな』


『自分がやられたら嫌な事をするなよ…それくらい小学校で学べや』


『嫌な理由無いだろう?ヒロとオレの絆、なめんなよ!テーレッテー』


『ヒデェ…お前、それ言いたかっただけな…』


 少し離れた所で仲良さそうに、話していました。

 何となく分かりました。現場監督のサトルさん、建設会社の社長の藤原さん。

 昔見た…パーティーでの真田君と吉田さんがダブって見える。

 私も…昔はサトルさんとあれ以上の仲でした。

 そう、恋人だったんですよ?2回も…


 いつも、色んな所で愛を語らいながら…あの人から…愛してもらって…また…

 いや、私に資格はありません、それでも湧き出て来るのです。いくらでも…

 嫉妬…羨ましい…サトルさんと話したい…サトルさんに抱きしめられた身体…うぅ…



 帰ってから…何年ぶりでしょうか…私は出ていった時雨さんの部屋を借りていますが、そこでサトルさんを想い…自分を慰めました。


 サトルさんへの妄想をしていた学生時代、まだ身体の関係を知る前の夢の様な都合の良い妄想…

 それは加速していきますが…気付けば私はサトルさんの姿形が分かる物、思い出の品、その関連するあの人に関わる全ての物を失っていました。

 改めて思います…

 

『私…なんて事を…したんだろう…』


 その後も夜、1人になるとサトルさんへの想いが波のように襲いかかります。


『うぅ!んん!♥サトルさん!♥サトルさんっ!♥』


 知ってしまった…いや、木村建設に入った時点で知ろうとしてしまった。

 かけがいの無い、自ら失ったモノを。


 そして…終わった後、失ったその現実が私を絶望し、涙を流します。


『ううぅ…うあぁ…サト…ルさんんん…ああ…ぐす…うああ…』


 


 気付けば近付かないという自らの約束を…気付けば反故していました。


【木村建設の関連団体職員でLimeを使っている方は、困った事をメイプルちゃんに相談出来ますよ!】


 登記している木山デザインにメールを送りました。

 こんな事はおかしい…だけど…だけど…


【メイプルちゃーん!相談して良いっすか?てか愚痴何すけど…】


 動画配信様の元面談室…四畳半程の配信部屋で、いつもの相談や配信を行っていると…

 キターッ!来ましたよ!?サトルさんの相談!


【何でもドーンと相談して下さいね♥】

 

【お、botじゃないんだ?いやいや、メイプルちゃん聞いてくれよ、ウチの現場にキ◯ガイがいてね…この間自分の娘でバスケしてたんだよ…コンプライアンスが…】


【ちょっと言ってる事が分かりませんが…サトルさんが居るから、そのキチ◯イは働いてご飯が食べれてるんですよ!私は木山さんを応援してますから!相談してくださいね♥】


【わぁい!ありがとう!大好きだメイプルちゃん!応援してるよ!】


『好きっ!♥好きぃっ!♥ハァハァ♥ンッ♥ハァハァ♥私も♥私もサトルさんを♥ンンッ!?♥イッ♥アッ♥アッ♥アッ!?』


 ダンっ!


 配信の際にチェック用の鏡に映った自分で我にかえりました。

 飛んだ目、伸び切った顔、半開きの口から出る舌と唾液…

 動画配信用の簡素な防音機能のある壁を叩いて正気を戻しました。

 返事をしないと、文章で…


【私もが大好きですよ♥】


『なんとも…私ったら…滑稽…ですね…ハァ…』


 動画配信やオンライン相談が先に終わっていて良かった…。

 壁に当てている、手に張り付くような手袋の中指と薬指が粘つく液で濡れていた。

 よく見ると上着の胸の部分が、着崩れていて、それに…


 ポタッポタッポタッ…


 椅子から滴り落ちる…こんな姿で、メンタルで出来るわけ無い。


 それから…日常生活では支障はありませんが、サトルさんが絡むとタガが、外れてしまう。

 でも、サトルさんと関わらないなんて選択肢は無いんです。

 この人の力になりたいというのは本当ですから。


 文章だけで恋い焦がれ気が狂いそうです…

 とうとうサトルさん人形を掛け布団で作り淫らな人形遊びをする毎日…




 そんなメイプルという存在が陽のめを浴びてしまった。

 きっかけはサトルさんが作った広告、藤原さんと赤ちゃんが映っているポスター。授乳中なのに、がに股で、椅子に座って顔ぐらいのおにぎり食べている写真ですが…吹き出しに『オラは馬鹿だしウンコ漏らすけど楽しく光合成してるだ、おにぎりウメェ』みたいなものが書かれていました。

 これが何だがネットで話題になり、木村建設ヤバいみたいになりました。


 会社はこのビッグウェーブに乗るべく白羽の矢が立ったのが私でした。


 なんだかんだで工事現場で子供人気を得ていたのが良かったみたいで、主に子供イベントに出ていましたが…それでも…私一人で地下アイドル時代の数倍の規模のイベントです…正直、不安しかありません。

 本当の私は子供とは逆の立場にいる卑しいウサギなのに…


 満席の小さいホールで子供相手にアニメソングや童謡を歌ったりパフォーマンスをしたり、今までの人生とは間逆な方向に向かっている事に危機感を感じます。

 私の本当の自分もバレるのも時間の問題かも知れません。

 

 いつものメイプル燕尾バニーの衣装に、ウサ耳の付いたヘッドギアにインカムとアイマスク、赤のカラコン、あらゆる隠す作業をして…上を望まず、自らを語らず、ただひたすら謙虚に、謙虚に…


 謙虚と言えば別の方向で止まることを知らない私…断れば良いのに、サトルさんが予約するとビデオ通話で相談を受ける事を知ってしまい…その時は自分でもどうかしてると思いました。

 

『うお!?リアルだ!?メイプルちゃんだ!CGじゃねぇ!?どーもー!応援してまーす!』

 

 さ、サトルさん…昔より声が大きくなった気がする、少し声も低く…渋くなってる…憧れと緊張で震えと汗が止まらない…


『そ、そ~ですよ〜!私がメイプルでーす(汗だく)さ、サトールさぁん!元気ですかぁ!』


 動くサトルさん…私は録画ボタンを押した。


『職場に問題しか起こさない馬鹿の愚痴があるんだよ…』


『ウッ♥サト…しゃん♥嬉しぃ♥』


 そして次の予約もしてくれましてた。

 …私は何を思ったのでしょうか…


 2回目の時に考えられ無い事に…その…防音の個室で…その…我慢出来ず…してしまいました…

 これでは変態と変わりません…。


 以前のリハビリの経過観察があるので通院していますが、その時に恥ずかしながら相談しました。

 今の私の現状は、まるで痴女、ストーカーではないか…と。

 心がおかしくなってしまったのではないかと。


『ルドラの影響ね、アレ作った奴は嫉妬心の塊でね。凄いキズの治りの早い女だったから良かったけど他の男に触られた所を全部削ぐような女だから。そんな奴が作った薬だから…強く心に思った人以外とは触られただけで蕁麻疹やら嘔吐、性行為なんてしようもんなら…それは知ってるでしょ?』


『分かります…狂う程の苦痛で…身体がグチャグチャに混ぜられる感じで…死ぬのが怖いのに死にたくなる様な…嫌な…オエッ』


『いや、ごめんね。詳しく思い出さなくて良いから…とにかくその逆よ?惚れた相手ならそれこそ思春期の恋する乙女…どころじゃないわね。例えばキス…するでしょ?』


『キス…?』


 サトルさんとキスするなんてそんな…


『キスの数秒で絶頂よ。本番なんてやったら別の意味で壊れるわ(笑)まぁ1、2回だったら凄かったで済むけどね…ドラッグやってヤル様なもんだから…メンタルがねぇ…』


『その人、彼女いるの?付き合えそう?』『えっ!?それは…う…』


 私は顔に出てしまっていたと思います。楓とはもう絶対付き合う事はないと言っていました。

 真田君の妹ともデートしたり…正直今のサトルさんがモテない方がおかしいです。


『あ…そう…そうかぁ…いや、ストーカーとかになったりしないようにね…としか言えないわ…』


『はい…』


 そして聞いてしまいました…聞いちゃいけない…だけど…ビデオ通話の相談という名の愚痴を聞く時間…


『そ~言えばですね…サ、ささ、サトルさんは…彼女とかいるんですか?』


『ん〜居ないよ〜。もう恋愛は良いかな?これからは推し活だね、アイドルの推し!知らない時はキモいなと思ったけど自分がなると楽しいね』


『へ、へぇ〜!アイドル好きなんですね!でも付き合えそうですか?サトルさんってモテそうですもんね?』


 私は馬鹿なのか…あからさま過ぎます…正直、推されているそのアイドルに嫉妬します…でもアイドルなら付き合えませんから…それならまだ…


『付き合わないよ(笑)アイドルなんて恐れ多い(笑)それに俺の推しはメイプルちゃん一筋だから!』

 

 




 ズブッ!クヂュッ!


『ん、メイプルちゃん?一瞬変な顔になったし、何かカメラ近くなったね?大丈かい?』



『大丈夫れすよ♥もう一度♥おねぎゃいしまぁしゅ!♥』


 いけない!歯を食いしばり!顔を作ります…目を見開き飛ばないようにします…だから!もうちょっと耐えて!もって!私のから


『俺は推しはメイプルちゃん!大好きです!』


 ブチ、グワシグワシ!グチャ!クチュグチュ!


『ア゙♥ガッ♥ワダジノ゙♥オジッハ♥ザド…ルざ♥』


『やった!ありがとう!俺も好きだよ!チュ!なんちて!アハハ!』


 小学校から推していました。私の世界で一番愛している人。アイドルの地位とか、給料とかもいりません。死ねと言われれば死ねます、いえ、死にたくありません。

 キスなんてしてませんが、絶頂ってなんでしょうね?顔以外の、全てで表現しています。

 貴方への愛を、感情を、快感を…


『あ、なに?クソタツが本社に?クソがッ!また給料ポイントにしてスマホゲーやろうとしてんのか!?ごめんねメイプルちゃん!また今度!…プツン』


『ま、まだあいまじょ!♥ふっ♥ふっ♥ふっ♥ハァッ♥サトルさぁん♥サトルさぁん♥レロ!ムチュ゙っ、クチュ』


 燕尾服の2つボタンのジャケットははだけ、中のフリルの付いたボタンシャツを開き丸見えの胸を手首まで手袋に染み込んだ液体まみれの指で掴み、揉みしだく。

 もう片方の手で盗み撮りしたサトルさんの写真を出しスマホ画面ごと舐め回す。

 


 もし、恋い焦がれ、それ以上の感情を持ってしまった相手、それに推し?押し倒し?押し倒されたらそれだけで脳が焼ききれる自信がありまぁす!推しで言えば、私はサトルさんのいちばんの推しである自信があるであります!

 昔は間違えていたとはいえ、将来を養おうとする意思があるでありますた!

 買えと言われれば…いや、言われなくてもブロマイドを買い占める自信があるであります!風呂の残り湯だって飲みます!食べ残しをオークションで競り落として食います!何を言っているのか分からないけど逝ッ!!♥♥♥


 涙、汗、鼻水、よだれ…シャツの首元のリボンが、液体を吸いすぎて動くたびに水を飛ばす。

 身体に至ってはまるで娼婦、男を誘う様に大事な部分ははだけ…タイツを包むバニースーツのハイレグ部分はバケツの水をぶっかけられたようになっています。

 今、人に見られたら生きていけないでしょうね。


『好きぃ♥チュ♥ジュル、レロレロ♥シャトルしゃん♥しゅきぃこんにゃにもしゅうきぃにゃのぉ♥んひいいいいい♥もっど♥もっどおおお♥シャトルしゃん♥シャトルしやぁぁぁぁッ♥♥アッヒッ!?!?』


 鏡が目に入った。

 お一人様で無様に不様で哀れでゴミクズの私が現れた時…しかし…私の真後ろ、ちょうど資格に人が立っているのが見えた…


 そして…その人に力強く肩を掴まれた!?


 何処まで知っている!?さっきまで絶頂を繰り替えていたせいでよじることも出来ない❗

逃げられない!怖い!イヤ!イヤだ!


 その鷹のような目がワタシを捉える。

 ふ、藤原…さ…ん…そして一言…




『ふおおおおおお!?らあの淫乱な楓が帰ってきた!?』

 

 私はその時に全てを悟ります。

   知られてはいけない人に知られてしまった。



※何か終わろうとしてましたが、まだ伸ばして良いでしょうか?

 ギフト貰っといて無理矢理なオチを突っ込むのはどうかなと思いましてプロット通りにやってやるぜ…と。

…コメント欄はまだ募集中ですが、短めの文章の話が数話終わりましたコメント欄が光ります!

使わないコメントは返事します!あしからず!

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