楓の謳③〜認めてくれるのは、神じゃなくて人
※今回も胸糞、その次は(暴力、レ○プ、タツ、等)が出できます。念の為。
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カメラの前で、必ず言う事。
大切なモノは大事にしないといけない。
当たり前の事。無くなってからでは遅いんだ。
そして当たり前のモノは、当たり前じゃない。
目を離してはいけない、見続けなければ失う。
だから、優しく、力強く、溢さないように包み
大切に…全力で守らなくてはいけない。
全てがあの時の自分に当てはまる。
偉そうに言うつもりは無い、ただ…
同じ過ちを、繰り返して欲しくない
だけ、それだけ。それだけなんです
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「行ってらっしゃい!仕事頑張ってな〜!」
「行ってきまーす!頑張ってくるね♥」
サトルが見送りの挨拶をしてくれる。
友達の関係から…同棲、そしてあっという間に恋人の関係になった。
過去の事高校時代とそれから、全部話したつもり。
サトルと話している時に気付く。
私は息を吐くように嘘をつくようになっていた。
だから何度も今のは違うと訂正をしながら…思い出せない部分は覚えていないと正直に言って正しい事を言った。
「今ならまだ全部受け入れられる、だから全部、正直に教えてくれ。許せない部分を許す努力をしたい、直して欲しい部分を言える様になりたいんだ」
サトルの事も聞いた。
自分は一家の大黒柱の様な稼ぎも、将来を考えるメンタルも今は無いが、その踏ん切りがつくまでもう少し待ってほしいと言っていた。
それまでに私は借金を返して、サトルに何かあっても養える様にしたいと思っていた。
ただの輝かしい思い出になんかじゃない。
2人の未来を輝く未来にする為に努力するんだ。
まず、会社でサトシを呼んだ。
何かこの間蹴り飛ばした事があるから気不味かったけど…
真面目に身を固めるから、もうこの関係はやめにしたいと言った。
「そっか…まぁ本気で好きになってたけど…付き合わないでセフレの時点で駄目かなとは思った。会社内の人か外の人かは知らんけど、浮気とかはすんなよ!まぁでも、これからは同期として仲良くしてくれや」
「うん、何かごめんね?色々好き勝手やって…」
「まぁ別に良いよ、俺は良い思いしたし…でも一つ言うとな?この後、もし俺が最後にもう一回だけって言ったら…」
「え?最後に一回?何で?言ったら?」
「ゼッタイ断れよ?お前、今即答しなかったろ?それ違うから。そういう所は直せよ。俺も浮気されてキツかった口だから…カエデ…いや、木村みたいなタイプが彼女だと彼氏は不安がつきまとうんだよ」
「あ!うん…そうだよね、分かった…ごめんね、色々とありがとう」
「いや、偉そうに言ってすまんね。お幸せに〜結婚式には呼ぶなよ?気不味いから(笑)」
サトシは思ったよりさっぱりとしていて…私の携帯からも自分の携帯からも電話番号以外は消すように言われた。
こういうルーズな所は直さないといけないな。
それともう一人、ツカサにも…上司だし、色々と仕事上、一緒な事が多い。
新設する広報事業部の立ち上げでも一緒だし、仕事もちゃんとしようと思った矢先だから言い辛いな…
「サトシ君から聞いたよ、これから本気で仕事に取り組むんだって?」
ん?どこまでサトシは言ったのかな?
「はい、だからですね…えっと…」
「良しっ!じゃあ飯食いに行くぞ!バリバリやって会社をデカくしてやろうぜ」
え?何だか勢いが途端に強くなった。
全部分かった上で話しているのかな?
「あの…それでですね…私は…」
「あぁ分かってるよ、だが親しい人に自慢できるような立派な社会人になるんだろ?まずは仕事で成功して!周りを見返してやる、楓はこんなにデキる奴だと分からせた方が良いと思うぞ!?俺はお前に協力するから!」
何か微妙に違うし、何だか私に喋る隙を与えない。
しかし、言わんとしてる事は分かる。
サトルは私の親に話をつけたみたいだけど、まだ勘当は終わってない。
家族、サトルの親、吉田さん、事務所…色んな所に見限られている。
現実、こんな私ではサトルを養うどころではない。
私がちゃんと、お父さんも認めるような仕事を出来るようになれば…今までの事も取り返す事が出来るだろうか?
今までのようにボンヤリと…ではなく、ビジョンを持ってやらないといけない。
「分かりました!2人で新しい事業部、成功させましょう!」
ツカサは自分から公私混同はしない人だ。
実際、2人で会ってる時の私は呼び捨てで、敬語を使わない。
しかし、仕事では敬語を使いツカサさんと呼んでいる。
私は…この人を、ツカサさんとこの会社を踏み台にしてでもサトルとの未来を掴むつもりでいる…だから…待っててね、サトル。
後から思い出すと…言い訳じゃないけど…この時まで…悪意のある男の人がいる事を知らなかった。
そして自分がこんなにも悪意に染まりやすく、性根が腐っているとは思わなかった。
それもこれも、そんな人には、運が良くも悪くも出会った事がなかったから。
そして家に帰れば…サトルが待っていた。
家に帰る…そこにはサトルがいる、毎日は幸せだった。
高校に戻ったようだけれど、仕事とは違い何も考えずに済む、温かい安心感、まるで子供の時にあった家族の温もりのようだった。
2人とも下手ながら、どちらかが作ったご飯を食べて、たまにちょっとした外食に行ってはしゃいだ。
最初は余りアウトドアでない2人だから、デートなんて数える程しかしなかった。
暑い夏はクーラーつけて、家でダラダラしてゲームしたりマンガやアニメを一緒に見たり…夜、涼しくなったらバイクで海やダムを観に行ったり…元から趣味なんて無いに等しいけど、だけど2人でいるだけで楽しかった。
同時に夏が終わる頃に、サトルに…そしてツカサにも言われて芸能事務所は辞めた。
借金だけが残ったが、辞める時に事務所の社長が説明してくれた。
「あぁ…勿体ねぇなぁ…お前から見れば、ウチは悪徳な感じがするし親にバレたのはこちらの不手際だ、それは謝る。だが、アイドルを売り込む、育てるのには金がかかるのはわかってほしい。そしてお前はそれを目茶苦茶にした、枕するにしたって相手を考えろって事!…すまん、ちょっと強く言ったが、借金は自業自得だよ。まあ色々あったけど、お前がほうぼうから借りた金は事務所で立て替えてやる。利子は今までの十分の一で良いから、ゆっくり返してくれて良いから。仕事、頑張れよ」
私が会社の広報としてタレント活動するのを事務所を通して行うというのは、事務所からすれば最高のチャンスだったようだ。
中小とはいえそれなりの会社、それで出た利益を出演料としてペイすれば今までの私の損は取り戻せると思ったらしいが…その話を無しになった。
サトルはしっかり働いて日々の生活を詰めれば良い言い、ツカサからはその分働いて返せば良いと言っていたからだ。
同時期に、サトルの趣味のキャンプや廃墟、変わった場所巡りにデート気分でついていった。
秋近くなるとバイクは寒いし、コスプレしてエッチするのがなんだかんだ言って好きだから、そういう事したいのかなと思って上着の下にコスを着て行った
「いや、何でコスプレしてきてんのよ!?まぁ良いか(笑)」
結局、2人でノリで動画を撮って、思い出として残し…ちょうどアイマスクのあるコスだったから音声変えて、それをネットに流してみるかと言う事になった。
有名動画サイトに上げるのは私が言った事だが、今は動画配信が当たり前の時代だ。自分たちも試しに程度でサトルも乗った。
私は余計な事をしちゃいそうだから、サトルに色々と任せていた。
サトルに言わせると私はこういうのが向いてるらしい。
私としてはサトルと話している感覚でやっているので全く向き不向きは分からなかったけど…それは数字でハッキリした。
「うわ、すげぇな…広告収入ってエグい、こんないくのか…」
「でも、サトルが色々編集したからじゃない?動画制作とか向いてるのかもね。きっとセンスがあるんだよ」
その時、サトルの親の事には触れなかった。
私の父親は建設業の取りまとめみたいな感じだけど、お父さんが昔、話してくれた。
「サトル君のお父さんは業界で知る人ぞ知るデザイナーでな、あの有名なテーマパークがマサル・キヤマじゃないと仕事を任せない言わせる程だぞ」
サトルは親の事があってモノ作りは授業であれ仕事であれ嫌がっていた。
今も客と直接話す方が楽しいらしいし、音楽やっていたのは客の顔が見えるからだそうだ。
でも、それは方便で…父親と比較されるのが嫌で、何をしても「父親は〜」となるのが嫌で関わらないようにしている。
だから…詳しくは分からないけどこれを機にのびのびと制作出来る環境が出来ればと思う。
私の目標はサトルの幸せな未来。
色々と考えた結果、私が叶えなければならない。
私が高校時代にした事は、幼馴染としてそれぐらい酷い事だと今なら思うから。
そうして私の目標はサトルが好きなように出来る環境を作る事になった。
夏も落ち着いた頃、ツカサさんの誘いが増えた。
正確には研修も一段落して、配属先が決まっていたが、出来る事が増えれば仕事が忙しくなり、ツカサさんと一緒にいる時間が増えた。
その事で知る社会のルール、私の立場、やるべき事。
サラリーマンとして、社会人として、それは会社にもよるかも知れないが、知れば知る程逆だった。
逆だと思ったのは向き合い方…この日本で働く事において、サトルの生き方や、それを助ける私の生き方は余りに夢見がちで刹那的だった。
同意する気はないが、前のサトルの彼女のアカネ先輩の言わんとしている事はこういう事なんだろう。
ランクの高い服を着て、ランクの高い人達と出会い、ランクの高い場所で食事をし、ランクの高い人達と付き合う。
ツカサさんといると、その生活を見ていると思う。
余裕のある生活…いや、高い水準の人達は皆、この生活をしているのだ。
一度行くと戻れない…それに近い何かがある。
一流である事の意味、必要性、それを知った。
サトルは言った。
――アカネさんには言われてしまったけど、でもまぁ、今更就職が上手くいったからとて金持ちにはなれんわな、就職して安い給料でも質素に暮らしていけば楽しみがあればどうとでもなる――
一緒にいて、その意味が分かった。
今を生きるという意味であれば、私は今幸せなんだと思う。
同時に木村建設という大企業の役員を父親に持つ立場として、目の前にいるツカサさんの目指す生活が…私の幼少時代の生活、父が私に提供していた生活だった。
子供が苦労しない様に勉強や習い事をさせて、用意するものはなるべく良いものを用意して、将来に不安の無い大学に入れ、自分は老後を楽しむ。
そんな話を以前、父はしていた。
ツカサさんに、サトルと付き合う前か…なんの為に仕事をするのかと聞いた事がある。
彼の話では今までの私の生活…要はサトルや私の生活は、将来的にはお金が無いと言ってごちる毎日、国の補助を受け白い目で見られる生活。
まともな精神であれば決して幸せとは言えない、不満や愚痴が常に付きまとう。
だから未来の為にお金を、立場を手に入れると。
私が…もしサトルに好きな事させるなら…私が高い水準の仕事に就かなければならない。
もう失うものは無い、飛び込んで努力した。
だから私は溶け込んでいく…高い水準の、その生活に。
賢くある人、権力のある人、いわゆる上流階級の人間と食事をし、夜はバーで取引先の重役のグラスにワインを注ぐ。
一ヶ月もすれば常識が変わる。
更に上に行けるきっかけ、出会いが無限に増える。
だから、細やかな幸せや、時間を犠牲にする。
お弁当…サトルのお弁当は質素だけど美味しかった…だけどスタイルを維持するのに、そして接待や一流のものを知るのに昼を2回食べる訳にはいかない。
だから…捨てた…
安いセールで買ったスーツや親に成人祝いで買って貰った着続けた結果よれたスーツでは駄目だと、デートをした時にツカサさんからプレゼントされる。
何かを提供された日の晩は、ツカサさんとは以前と同じ事をした。
サトルが少し前から深夜の仕事をするようになった。孤独を埋めるため…寂しかったから…そういう気持ちもあるが、その時間をツカサさんに使った。
信頼を得る為に。演技する事が今となっては上手く出来ている気がする。
サッカー部の先輩やサトシとは自分の欲望のままにやった、サトルとの行為は幸せを感じ、心から温かくなる事を実感した。
ツカサさんとは完全な演技、ギリギリまで嘘がバレないように、彼が喜ぶように振る舞った。
一流の私になる為には投資が必要だから。
アイドルの時とは違う、見えない何かの為に、自分が寂しいからと自分の為と言い聞かせしていた意味の無い行為とは違う。
そして自分で期限を決めた、それは半年。
その期限は決算後の新事業稼働の時、ツカサさんは消える時だ、いや、消えなくとも私が密告して消す。
各部署との付き合いや外部の人間から聞いた。
――彼、会社の金使ってるでしょ?多分、次の決算で監査入るよ――
これは上を蹴落とし駆け上がる為の投資、努力、これはチャンスだと思った。
私がツカサさんのポジションに変わる。
サトルのお弁当だって、本当は嬉しい…捨てるなんて勿体無い…申し訳無いと思う…最初は少し涙が出た…だけど仕方ない…じゃあ要らないと言えばどこかで崩れるから…食べた事にする…
セ○クスだって外から見れば浮気だ、だけど…半年だけだから…愛なんか無い、快楽すらない。
証拠も極力残さない、ピルを飲みゴムをして避妊する。
写真や映像は残させない、ラブホや、近所ではツカサさんとデートしない。
全ては仕事の中で納める、ホテルでするとしても商業施設の入った高級ホテルだ。
小さい嘘を丁寧に積み重ねて…だけど…
ずっと嘘で塗り固めて約3か月、12月頃になると状況も、心も変化してきた。
特に大手総合商社のパーティーの時だった。
ツカサさんに誘われて、仕立ててもらったドレスで行ったパーティー。
そこには企業の役員から芸能の世界まで、各界の有名な人達が沢山いた。
コネクションを作る、その為のパーティー。
特に今回は小さな企業や若者にツテを作る為の会らしい。参加条件が少し変わっていた。
「楓、顔を覚えておけ。可能なら話しかけろ。芸能系なら得意だろう?伝手を作るんだ」
私は芸能と言っても端の端…例えば今回の主催、壇上で挨拶していた獅子川さん、あの人は誰しもが知る元トップアイドルで、今は複数の上場企業を束ねる立場だ。
そして…絶対会ってはいけない人がいた。
真田君と吉田さんだ。
確か2人とも学生だけど、親が医者とは聞いている…
2人が獅子川さんと一緒にいる男の人に話しかけられる。
「あぁ!ネト君、久しぶり!元気にしてた?まぁ楽しんでいってよ。僕は美音さんの連れ添いだけどさ」
「マシロ君か?やっぱ凄いね、君は。こういう場所で見ると名家白座家の次期・不知火当主って感じがするね」
「はは、ハリボテの当主だけどね(笑)未来の日本を動かす人達に顔売っとかないと(笑)」
すると獅子川さんが真田君に話しかけた。
「快楽サナダムシ!?君!?タッちゃんの幼馴染だろ!?何で!?タッちゃんきてるの?」
「真田です、その呼び方するのはタツだけなのでやめて下さい。親父が医学界でそれなりなのでまぁ…しかし、いつぞやはお世話になりました…それと、タツがこんな場所に来てる訳ないじゃないですか…」
「そう?結婚前は来てたけどね、阿修羅家と藤原家の血縁だしまぁアレたし……そっか…まぁタッちゃんは良いんだ…アレ……ヒロ君は来てないよな?なぁ?来てないよな?来るわけないよな?」
「それ、傷付いてましたよ、昔の憧れのアイドルに嫌われるってキツいって…」
「イヤ、だって…ヒロ君とイクエ…あの2人…いや、3人か…ここに突っ込んで来て皆殺しとか平気で出来るんだよ?この前もたった3人で日本を動かすVIPとSPがいる会合に来て、全員に今すぐ死ぬか人間やめろだよ?頭、おかしいでしょ?しかも実行出来るから恐ろしいんだよ…」
「いや、流石にヒロはそんな事しない…と思いますよ?」
「え!?真田、根多ってそんな事すんの!?」
何の話か分からないが楽しそうにガヤガヤ話している。
ツカサさんは別の人と話しているが、獅子川さんと知り合いなら話しかけろと目で合図を出している。
無理だよ…獅子川さんなんか恐れ多くて話なんか出来ないし、もし吉田さんに会ったら…サトルと付き合っているの知ってるし…それに少しショックだった。
真田君はサトルと友達だ。その付添で吉田さんも来ているのだろう。
現実を見た気がした。
2人とも雰囲気が違う、この場に相応しい空気が出ている。
同じ高校時代を過ごした同級生が…こうして成功し登っている。
私はサトルに内緒で、不倫している会社の上司に連れられ、やっとこれた場所。
それをあの二人は当たり前のように自分の力で来ている。
それにサトルに至っては絶対に来ないし、来れないだろうな。
同じ友達でもこうも違う。比較したりとかこんな事、考えるのは間違えているのも分かっている…サトルに失礼だ…
だけど…ちょっと惨めな気持ちになったのは否定しようのない事実だった。
「おい…楓か?お前、何でここに?芸能関係か?ああ、絶縁したとはいえ今日は仕事だ。話しかけても良いだろう?」
聞いた事ある声…だけど今、聞きたく無い声…
「うん、お父さん…久しぶり…アイドルは…事務所はやめたよ。今日は会社員、広報として…」
木村建設の重役…私のお父さん…ここにいてもおかしく無いと思っていたけど…真田君達から隠れるように動いていたから気付かなかった。
「そうか…家出てからの事…何となく母さんから聞いていたが…この場にいるって事は仕事を頑張ってるんだな。サトル君とも話したけど…楽しくやってるって聞いて安心したよ。でも、サトル君はこういう嫌いだろ?知ってるのか?」
サトルの名前を出されて余計思った。
木村家で親族経営しているお父さんには分からないだろうな…この惨めな気持ちが。
生まれ持ったモノ、環境、お父さんの娘でありながら疎外された…しかもその親に梯子を外された私の気持ち。
サトルが嫌いなコネと伝手の世界。
形の無いモノ、利益の繋がりを嫌い、情や実感出来る繋がりを求める生き方、それとは真逆の世界。
「知ってるよ、仕事だもん」
さり気なく嘘をついた時、横にツカサさんがいた。
「木村建設の…楓さんのお父さん?始めまして、押尾人材派遣の羊毛司と申します。楓さんとは良い付き合いをさせて頂いております。今後ともよろしくお願いします」
「え?うん?楓さん?…羊毛さんですね、あぁ始めまして、娘をよろしくお願いします。じゃあ…楓、しっかりやるんだぞ?」
言われなくても分かってるよ………
お父さんが私達2人を訝しげな目をしながら別の参加者に挨拶に行った。
お父さんは勘の鋭い人だから…いや、私を信用していないんだろう…
「絶縁しているお父さんだろ?良かったじゃないか、関係は修復出来そうかい?」
「はい…多分…仕事の話をしたら喜んでいたので…」
そんな訳無い、あの人に私や、ましてや貴方は視界にすら入っていないと思う。
この業界では私達にさは蟻みたいなものだから。
あの人がサトルを認めているのは、自分の世界、自分の理の外の人だからだ。
それにしても…ツカサさんは最近、心も身体も距離を近付けてくる。
先日もサトルがいる日にウチに来て危うく全部台無しになる所だった。
そして今もお父さんの前で、私の事を名前で言った。
まるで恋人の親への挨拶の様に。
でも、もし、この人が…こんな人が元から恋人だったら…こんな惨めな思い、しなくて済むのかな。
帰り道…今日は本当は、帰る予定の日だった。
だけど気持ちがいつまでも晴れない。
私の…本当の私は…何がしたいのか?
「今日は収穫があったかな?これからはあの世界の住人になるんだ、楓も慣れておかないとな!」
「そうですね、私もあの人達と同じ所に行ければと思います」
「ウチの新設する広報事業部では楓が外渉メインで動くからな、謂わばエースだ!頼んだぞ!」
今まで…色んな女の人達に見下されて来た
話ができない、計算して男に媚を売り、裏切る、どうしょうもないプライドだけが高い女と思われていた
それは…貴女達が元から持っていただけでしょ?男に媚を売ると私に言っていたが、貴女達が媚びを売っていたのは同姓でしょ?
手に溢れる程の余裕や力があれば…同じ事をしても誰も言わないくせに…
そんなすれた思考が覆う、少し前から兆候があった。
そんな揺れている心をツカサさんにどんどん引きずり込まれる。
今の私は、外に、仕事に出るとそれこそ二重人格者の様な錯覚に陥る。
家に帰ると頭がおかしくなりそうになる…だからサトルが家にいない時、サトルを感じるものを見えなくして、ツカサさん呼んで身体を交わった。
そうしないと、サトルの前で折れてしまうから。
ツカサさんを切れば大人の女として終わり、サトルを切れば木村楓として死ぬと思う。
結局私が平常心を保つ為にした事は、サトルを、そしてツカサを交互に見下し、挙句の果てには二人とも見下していく事だった。
ツカサという、常に領収書を切り、借り物のお金で贅を尽くす男。
どうせ横領で捕まる見栄だけの上司、奥さんと小さい子供がいるにも関わらず、家には帰らず、金を湯水のように色んな女にバラまき、外見や趣味に使いあらゆる欲に生きる大人顔の獣。
サトルという、スーパーで買ったもので切り詰めながら食事をし、おにぎりを持ってツーリングに行き動画を撮る。高級レストランはおろか、テーマパークすら行かない人。
社交界にいる人達に比べれば、いや、世間一般で見てもみすぼらしい恰好、気を使っていない外見、趣味、趣向、考え方。
この時、自分は何か特別な人になっていて、上から皆を見下ろすような、そんな錯覚に陥いっていたと思う。
自分がどこに向かっているのか分からないまま、生きているような、フワフワとした感覚で…
そんな現実感の無い精神状態のままクリスマスの日を迎えた。
※一人語りが長くなりギフトのケーキを貰って楓に怒り心頭のタツはまた今度!本日2話更新。
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