NTR無心衝突②理由を聞いても悲しいだけだから聞かない〜そして

「すいませーん!今日から現場管理する木山でーす!よろしくお願いしまーす!はーい!じゃあ職人さんは担当場所に行ってくださアアアアアアアアアアアアアア!!」


 現場の人らには大きな声で、なるべくにこやかに、なおかつ雑に挨拶や指示をする。


 最後にこの街を離れて2年ちょっと…紆余曲折あり、また戻ってきた。


 2年前のあの日、一晩中、楓が何か意味わからない事を言うのを頭がバグっていた俺は『分からない、聞きたくない』と繰り返し、朝になったら楓の家を出て、親父に明日から仕事やるって言ったらいきなりパスポート取らされて数日後にはタイにいた。


 やってた事はデザイン書を受取、現地の工場の人に作ってもらうのだが、海外の奴らはマジで働かねぇ…それを働かせる仕事だった。


 何も考えず仕事をした。


 タイ、フィリピン、インド、台湾、中国あたりの、何か良くわからん海外の現場みたいなのをたらい回しにされ、海外で発注した方が高くなったとか言い出し半年前から日本の青森にいた。

 その後、九州に飛んで、一昨日から地元に帰ってきた。


 親父曰く『日本はヤバいな、日本はもうヤバい』との事。

 つまり不景気の煽りを受け、俺の宿代すら勿体ないレベルに会社はなり、親父は未だに有名なネズミのランドを仕事をしているが、俺は地元の下請けの工事現場の仕事を受け、現場監督をしている。

 現場監督というの名の職人コントロールだ。

 そーいや…楓は派遣会社の正社員だったな…こんな感じだったんだろうか?


 しかも今日の仕事は…楓の親父さんが重役をやっている会社…木村建設の仕事だ。ちなみに木村建設は大手ゼネコンで10位以内に入る化物会社だ、つまりコ★ネ★


 俺は芸術能力も営業力も無かった。

 やっぱり根っからのフリーターであり、定職に付けない男だなと思った。使えないからだ。


 そんなこんなで風の噂で俺の仕事状態を聞いた楓の親父さんが仕事を発注してくれた。

 仲良くしていて良かった、元カノの親父。


 そんな俺は恥知らずの誹りを受ける覚悟が出来ている。

 それが働くって事だろう?プライドは無い。


 そして楓は…まぁ予想通りというかヒロ達が横領とかマンションは無いとか言ってたけど、本当にあの彼氏が警察案件に発展した。

 そして世間に全部バレる。

 楓の親父さんには俺と付き合ってると伝えていたから、速攻で謝罪に来たら俺はいない。


 俺が行方不明だから死んだと勘違い。地元で広まる。

 海外に行ってたのを知ってたのは真田と吉田さん、それとヒロんちの家族ぐらいか?

 母親はめんどくさいから「良くわからないけど海外で行方不明」と近所では答えていた。

 親父の時から「旦那は海外で行方不明」と言っていたのでそれを踏襲した形だ。


 ウチの母親は旦那を愛しているが何をやっているのか分からない、自分を巻き込まなければそれで良いけど面倒くさいから行方不明と言う。

 そのスタイルは別に良いんだが、楓の親父さんが九州まで来て、泣きながら土下座してきた。

 責任を取らしてくれと。意味がわからないが。


 理由を聞くと母親が、そういや九州で見つかったとか適当な事を言ったからだ。

 行方不明のままで話をしていたから…見つかったんじゃねぇ、仕事で行ってたんだよ。


 で、何も聞いてないのに


『楓は2年前のある日、急に彼氏と結婚するとか言うからサトルと?と聞いても答えない、ただ、私はしないといけないとか言い張るから、んじゃ木村家は協力も参加しないと言ったら音信不通になった。んで楓の就職先が警察の搜索が入った日に金を借りに来たが、その時にはサトルの話を全部知ってたからそのまま勘当した。俺は金を払ってない』


 との事。でもウチの嫁がもしかしたら援助してるかもと言っていたが、もう過ぎた事です。

 としか言いようがないしどうでも良い。


 それにしても海外の仕事が酷すぎて10円ハゲ出来そう、もうやめてぇと思っていて、そしたら来た、この仕事。

 俺は本当に人と接する仕事は苦手だなと思いつつ、担当場所に行けって言ってんのにマゴマゴしている建設会社を見つける。

 

「ウチ、名前ないぞ」

「よっしゃ!じゃあ帰ろうぜ!名前ないんじゃしょうがない!雨も降りそうな…気がする」

「晴れてるしそれで帰って前に怒られてるでしょ?タッちゃん、駄目だって」

「お前ら、元ヤクザと学園のアイドル、どっちが正しいと思う?」

「なんだよ学園のアイドルって…もう22で、3人子供いるじゃん」


 何だこの建設会社…馬鹿みてーな話ししてるな…最近は現場作業員もインテリが増えたのに…

 てゆーかジジイばっかりに、髪の長いデカいガタイの若い女…なんてバランスだよ。


「ほら、来たよ、お偉いさんが…タッちゃん、もう根多組の社長何だからちゃんとしてよ」

「は?社長ってお飾りなの知らないの?本当のオレはこんな所にいない、赤いオープンカーで『その企画で行くわ!あら、コレでも逝くわ♥』とか言ってる」

「そういうの良いから、ほら、ウチはどこって聞いてくれよ?」

「秀爺、1人でできるもんじゃねーんだ。オレだってそれぐらい…ゼネコン監督、今日の天気はゲリベンジャアアアア!?イエロオオオ!?」

「何だよ、今日の天気は下痢便じゃあ!って。しかも色まで…頼むよ本当に…」


 何故か男便糞漏らしこと、藤原…じゃないな。

 ヒロの奥さん、根多龍虎…通称タツがいた…現場に。




「お前、何やってんのよ?海外行ってるってヒロから聞いたぞ?」

「いや、お前こそ何やってんのよ?2人目生んだんじゃないの?何で現場作業員なんだよ、おかしいだろう?」

「あぁ、最初双子だから3人目に生まれた散華な?まだ一歳にならんけどアソコにテントみたいなのあんだろ?定期的にあそこに乳あげに行くんだよ」


 根多組って多分、ヒロの実家とかなんだろうけど…スゲェブラックだな。


「いやいや、コンプライアンス的にヤバいだろ?家にいろよ」


「家にいるより良いんだよ、ジジイ共も面倒見るし、子供いるとジジイ共も頑張る。家で遊んでるとヒロがメンタルがやられているとか言ってトレーニングしてくるから…後、散華は俺に似て硬いから」


 硬いって何だ?それにしてもまだトレーニングとか言ってんのかアイツは…

 

「まぁ元気そうで何よりだわ、俺暫くこの現場だし、もしかしたら仕事辞めるかもしれんけど、こっち帰ってきてるんだわ。今度出産祝い持ってくよ。真田とかにも会いたいしな」


「あぁ…あの医者夫婦な、ヨシデンの家が猛反対してな(笑)今は内縁の妻になってるよ。お前はどうだ?海外のオーイェーみたいな声出すパッキン美女と付き合えたか?」


 おぉ…あの2人が…時代は進んでるなぁ… 


「殆ど中国か東南アジアにいたからそんな出会いはねぇよ、相変わらず御一人様だ」


「ちげえよ!?思い出した!!お前イエローうんこ!お前の元カノだか何だかが、お前が消えた後にウチに来てスゲェ大変だったんだぞ!?2月とか言ってるから電話したら海外とか行ってるしよ!?お前のせいで血だらけの惨劇…まぁ女3人だけど血塗れの争いをウチでやったんだぞ!?マジで人んちで喧嘩とか本当にやめろや」


「いや、俺、関係ないでしょ?」


「無いと言えば無いがあると言えばある」


「いや、だって元カノって…どうせ楓でしょ?」


「そうだよ、そのカービーみてぇな奴とヨシデンとクソイカが揃って偶然揃って血塗れの喧嘩…ていうかカービーは一方的に殴られてたけど…ヨシデンのムエタイはともかくクソイカが合気道使うから家の中が目茶苦茶になってよ?全く大変だったんだよ。」


 あ、時間だ。まぁ、そんなに気になる話じゃないしな。


「つー訳で昼の時間終わりだ、仕事に入ってくださ〜い」


「お前、オレに恩があるんだから今日は賃金発生で帰らせてくれ。今日スマホゲームでイベントあるんだ」


「駄目に決まってんだろ、働け。そして乳をあげろ」

「クソイエローが!」


 そんなこんなでタツにいきなり会ってしまった。

 けど、人見知りの俺は久しぶりに友達にあってちょっとテンション上がってしまった。

 

 そして仕事終わりにタツが話しかけてきた。


「ゲリイエロー、お前仕事何時まで?」

「いや、ちょっとまとめたら帰るよ。後1時間ぐらい。それと呼び方考えろ…」


「そうか、今日ウチで飯くうか?ヒロに、サトルウンコにNTRされそうになったが貞淑なタツは貞操を守ったと送ったら『サトル帰って来てんの?ネトも来るから今日飯でも食いに来る?』だって」


「何だよ、NTRって…まぁどうせ何もねえから行くよ」


「ほう?お前は相変わらずさみしい奴なんだな(笑)」


 コイツ…と思ったが仕方ない、嬉しいんだよ。

 日本人の…ちゃんと話せる友達と話すのは…まぁ日本語怪しいけど…




 ヒロの家に行くと真田と吉田さんと真田の妹の寧々子ちゃんがいた。

 何回か会った事あるけど子供みたいだったのに、とても綺麗になっている。

 まァ真田は気持ち良い連呼以外は完璧だからなぁ。


「寧々子ちゃん、お久しぶり!木山サトルです、覚えてる?」


「子供じゃないんだから覚えてますよ〜高校時代は兄共々がお世話になりました。お元気でしたか?」


 ペコリと頭を下げる寧々子ちゃん。

 3年ぐらい会ってなかったけど物腰も外見も成長しているなぁ…元から兄と違ってしっかり者な感じだったし。


「そう、今日は女の気配が全く無いウンコイエローに、孕袋こと、真田寧々子を紹介したい。この女は金持ちの巻き毛で『ですわ』って口調の女とチューしてた。生産性を気にするオレは出生率を憂い、こうして真田袋、もとい孕寧々子を…」


 少し血管の浮いた顔で寧々子ちゃんが言った。


「黙れよクソこけし!外で恥かかすな!お前と一緒にするな!…木山さん、この人の話は聞かないで下さいね?」


「おぉ…あ、はい…」


 怖いな、タツと関わると女が皆怖くなるな…恐々としてると何か唐揚げとか持って来たヒロが喋りかけてきた。


「帰って来て楓さんと会った?」


「いや、会ってない。多分もう会うことも無いんじゃない?何か親父さんとは仕事で会うけど絶縁したって言ってたから近くに居ないだろうし…偶然会っても…気付かないか無視するかも?まぁお互い変わってるだろうしな。」


 俺も短髪で絶対着なかったスーツでウロウロしてるし、何か警察沙汰で親が勘当してんだから、この街では普通に働けないだろ。


「あぁそう…知らないか…いや、駅近くのアパートにまだいるよ」


「はい?」


「前住んでた駅近くのアパートにまだいる」


「何で?どうやって生きていけんのよ?」


「いや〜…まぁまぁ、狭い街だからすぐ分かるけど仕事場と家の往復しかして無いしな。ニュースに一回出ちゃってるからどこ行っても同じだろうけど…どっか工場で惣菜かなんか詰めてるって…一回、吉田が会ってんのよ。なぁ?吉田」


 真田とくっつくように座っていた吉田さんが嫌そうな顔をした。


「いや、根多…言いづらい事私に全フリしないでくれる?アンタも同罪よ?家の中目茶苦茶にしたのは悪いと思ってるけど。」


「罪って言うなよ、なるべくしてなったんだから。それに物理攻撃したのはお前だろ?」


「でも薬使ってバグったり木山探し回ったりしてたのはアンタ達が刺激したからだろ?それに覚えて無いよ、愛華の頭を蹴った所までしか…何か後ろにぶん投げられて意識飛んだし…」


「お前ら何やってんの?」


「まぁ、木山、安心しなよ…やり直すなら目茶苦茶ハードだけど、その気が無いならストーカー行為とか無いと思う。もう壊れてるから…多分、木山って認識出来ないんじゃない?私もタツも、自分の母親ですら認識してなかったし…」


 聞いていて何だか胸がざわめく、でも、昔俺がした事なんだよな。

 俺がした…じゃなくてなるべくしてなったのかも知れないけど…うーん…


「でも、この街にいたら…いずれ知るんならまぁわかる範囲で知っておこうかな」


「一応、知ってる事は…最後会った時、木山死んだ事になってたし…部屋に遺影あった。それと惣菜詰めの仕事ながら動画配信してるよ。ほら、コレ…」


 ほう、俺が死んだ事に…確か行方不明にはなったけど。動画配信してるってことはそれなりに人気なのかな?

 俺は唐揚げを食いながら、吉田さんの見せてくるスマホを覗いた。


【天国のあなたへ】


 何だ、この不吉なサイトは…そして閲覧数がえぐい低い。


「で、こんな感じ」


 適当に動画を再生する…お?レイン◯ーミカのコスプレしてる人が出た。これ、楓か?…てゆうかガリガリやんけ…手首、いや、身体中が傷跡でえげつない事になってるし…画質ウンコだし汚い部屋の万年床みたいな場所で力無く座ってる…


『みらい…あたしはどこにいく?探してるのは…輝く筈だった…サトル…未来のあたしとサトル…必ず会えるその日まで…ずっと追いかける…レイン…ボ…サトル…天国まで…届いて…わたしを…おこっ』


 プッッッ


 俺は楓らしき女性が涙を流しながら俺の名前を呼びながら1人行為を始めそうになった瞬間に、吉田さんのスマホの停止ボタンを押して動画を止めた。

 

「美味しい唐揚げを食ってる時に…見るもんじゃないな…」

  

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