NTR無心衝突①恋で傷付かずに済む世界
戻ってきて、少しだけ中に入ってスマホを置いた。
まだ、行為をしている所だった。
あんだけ騒いでバタバタしたのにまだ23時前だ。きっと夜はこれからなんだな。
後で回収出来る位置に、俺にスマホに繋げたテレビ電話の状態で。
記録しておく、俺が今日の日を忘れないように。
何で録画なんてすんだろうと思ったが、俺は自分の心を守っているのかも知れない。
ヒロは彼女が何故浮気をしたのか理由を知りたかったそうだ。愛が無いなら別れて欲しかったそうだ。強い理由だなぁ…
俺には心の彼女に死んでもらう事しか出来なそうだ。
俺が今、少しだけ落ち着いて出した結論は、心にある好きな人に死んでもらわなくてはならない、そうしないと心が壊れるからだ。
その為の記録、その為の盗聴だ。
思えば始めて好きになったのかなぁ…凄い胸がムカムカするのに怒りが出ないんだよな…高校の時は怒りだった。
今は…諦めかな、恋とか愛とか、そんなんの。
おや?アレが終わったようだ。
いつ帰り支度をするか分からないから、玄関を出て声が聞こえるギリギリの外、一番最初と同じ位置で、体育座りで蹲る。
『色々ごめんな、だけど本気なんだよ、楓の事…俺は楓がいないと駄目なんだ…例えまだ少し、彼に気持ちがあったとしても関係無い。一緒にいてくれないか?』
『うん、そうだね、ありがとう、私こそ取り乱してごめんね。本当はね、付き合ってるの…二股なんだよ…本当にごめんなさい』
『それでも構わない、俺だって離婚協議中だからね、二股みたいなもんさ…だけど同じ仕事をしている君との生活時間の方が遥かに長い。もう休みの日だけなんて我慢出来ないよ…彼ともそうだろう?』
『そっか…そうだよね。ごめんね、心配させちゃって…もうちょっとだから。もうちょっとで終わるから』
そうだね、もうちょっとで終わるんだ。
俺の長い夏休みが…青春が終わるんだな。
この男性は二股でも大丈夫な人なんだ。
好きな人がいても奪う事の出来る人だ、凄いな。
そういやタツも奪ったって言ってたな、凄いなアイツも。
『うん、楓、待ってるよ?そうだね、終わったら2人で広報事業部に異動だ。もう話もついてるからね。楽しみだよ』
『そうだね、私…上手くやっていけるかな?結局、貴方がいないと何も出来なかったよ…』
『大丈夫!俺がついてるよ…チュ♥』
『ん♥約束、守るからね?私、頑張るから。だからもう少しだけ…ね?』
そうだね、約束だ。直接は言えないかもしれないけど、幸せになって欲しいな。
俺にもいつか、お前みたいな素敵な出会いがあって、お前の話が聞けるようになったら、その時はお前はこの人の奥さんで、俺はまだ見ぬ人の旦那さんで、あの時はこんな事があって、私はこんな事を思ってたとか、そんな話を聞ける時が…来れば良いな。
俺は幼いから、過程じゃなくて目の前しか見えない。
俺は弱いから、手段じゃなくて結果しか見えない。
君とその人の会話だけ、君からの話は、心まではまだ知りたくない。
それを受け入れるだけの心のを持ってない。
バイバイ、さようなら、ありがとう、ごめんなさい、ごきげんよう、また…いつか。
付き合ってから今日まで、変わったと思った彼女の幻に別れを告げる。
ありきたりの言葉が並ぶ、彼女と彼の、未来を聞きながらその場を去る。
――さて――明日から――頑張るか――――
職場に戻る、戻ったら言おう、来年の頭頃に辞めますと。
そして父親にメールする。来年の頭頃には仕事を継ぎます、と。
クリスマスの準備を考えながら仕事の事を考える。
父親の仕事、一言で言えば設計事務所。
俺がやれと言われていたのは業務は設計ではなく制作管理の様な仕事だ。
ただ媒体がエンターテイメント、遊園地やイベント会場に使われる様な造形物を制作する。
イベントをプロモーションする企業から依頼を受け、そのジャンルが得意なフリーの職人に依頼をする。
高校時代、金欲しさにバイトした。
よく家に遊びに来る人が実は某世界的遊園地の会社のお偉いさんだと知る。
ふざけて飲み屋に連れてかれた父親の知り合いが、某プラモの会社の重役だと知る。
俺は芸術的な才能は無いから継ぎたくなかった。
しかし、仕事は信頼が全てだと父親は言う。
信頼の為に家庭を犠牲に…とは言わないな。
俺の幼い頃との思い出を犠牲にしてくれた。
母親は言う、お父さんは子供が大好きで、俺が生まれた時、それはそれは喜んだそうだ。
ただ、信頼が大事な仕事は、信頼という名の下、家族との時間を犠牲にしなければならない時がある。
俺の子供の時に父親と遊んだ記憶は無い。
だから父親は時間も選択肢もくれた。
一番簡単に信頼を引き継げるのは子供。
大手のクライアントは俺の事を幼い時から知っている。その、子供も。
だから父親の息子である俺は信頼する。
父親は自分の会社が小さいのも知っている、だから俺が継がないなら、会社をそのまま潰すそうだ。
父親は母親と、そして子供との時間が無かった事を悔やんでいる。
常に日本全国、そして海外と飛んでた人だから。
だから継ぐ自由と、継ぐまでの時間をくれた。
大学行こうが行くまいがどっちでも良い、音楽やって生きていくならそれでも良い。
ただ、継ぐなら子供作って、記憶に残るぐらいまでは一緒にいた方が良いと。
信頼の仕事だから、たまに帰って来て父親の友達、言い方を変えれば自分の仕事仲間との関係を切らなければそれで良い。
自分の仕事はいつでも継いで…いや、30ぐらいまでか?それまでに継げば間に合うし、継がなくても良い。
仕事より、運命の相手を探せと言っていた。
夢を見せる事が仕事の父親は、考え方も子育てもロマンチックだった。
でもさ、父さん…この歳まで会わなかったよ。
アカネさんは何となく知っていた。だから俺に言ってんだろう。やり方はともかくとして。
カエデは知っている、その事を。
カエデの両親も知っている、その事を。
カエデの親も親父と仕事をしているからだ。
ウチの親父の…家族を知っているからだ。
だから…カエデの両親は俺に良くしてくれる。
だから…高校の時、俺は縁を切ると言っても何も言わなかった。
だから…短大と2度続けて信頼を裏切ったカエデを、娘を半分絶縁状態にした。
今回の付き合いも懐疑的だ、そりゃまぁ同じ様な事を2度すりゃなぁ。
カエデの家は弟が家にいる。
真面目な奴だ、姉と違い芯があり道を外れない。
だから今度こそカエデは親と絶縁だ。
俺が言っても関係無い、多分調べてすぐ足がつくから。
そうなったとしても…その人と幸せになって欲しい。
広報だっけ?よく知らないけど有名になって、俺はこんな人に捨てられたんだと悔しい思いをさせてほしい。
ヒロが言ってたな、真田の事…間男のクセに全然煽ってこない、馬鹿にしてこないクソ野郎って。
アイカも、浮気した理由も今も好きだけど今のヒロは嫌いとか意味わからないから余計ムカついたと。
そうだよな、賛否両論あるだろうけど…何かを奪うなら、それで奪い損なんて俺は嫌だ。
今なら分かる、そうだよなぁ。
俺が馬鹿だから、俺が駄目だったんだと、理解らせてほしい。
しかし、奇しくもイブに浮気知る…ヒロと同じになっちゃった…だからクビ突っ込んで来るのかな(笑)
戻ったらいきなり同僚に引かれた。
「あれ、早くねぇっすか?うお!?怖っ!スゲェ顔?くせっ!?ゲロ?ゲロっすか!?」
「いやぁちょっと喧嘩しちゃって…それより俺、ここ多分辞めるよ。後1ヶ月ぐらいだけどよろしく〜」
「いきなりだし!?早っ!?」
その時、俺はすっかり忘れてた。
廊下に忘れたケーキと、高校時代の返事の手紙の事を。
今日はクリスマス、カップルが幸せになる日だ。
俺は着替えて、家に帰る。
ここまでで、殆どリセット出来たと思う。
昨日の寝ないで、逃げないで、自覚出来て良かった。
昨日着ていた服は捨てた。
彼女に似合うと言われて買った上着、着ていたらおかしくなると思って。
朝8時過ぎ、俺の家だった場所に帰る。
愛しの彼女だった人が寝ている。
いつも夜勤明けで仕事が無い時は寝ている。
その時はいつも…布団に入り…抱きしめ…
「よっと…おぅ…」
ちょっと抱きしめるのは吐きそうになるから横に並んで寝る。
俺の仮眠の4〜5時間、その間に10時出勤の彼女はいつも準備する。
今日は休みだから、いつもは寝かせといてくれる。
今日は寝れないから寝たふりだ。
起きた彼女は、上半身を起こした状態で俺を見ている…と思う。
おかえりなさい…と言った気がする。
それから夕方…
「おはよう!メリークリスマス!楓!今日のホテルのディナー、楽しみだね」
俺は起きて開口一番、元気良く言った。
「うん…た、楽しみだね」
余り元気が無いみたいだ。そうだな、昨日のヒルズの方が楽しかったかな?
それから服を着替えて、地元のホテルのディナーに行く。偶然、同級生にあった。
「あれ?木山(サトル)って木村(カエデ)と付き合ってたっけ?別れて無かった?」
「ハハハ!いつの時代の話してんだよ!」
地元というのは、コレだから困る(笑)
楓も苦笑いをしている、そうだわな。
慣れない手つきでコースを食べる。
「イマイチ、ルールが分からんなぁ…楓、これはどうすれば良いのかな?」
カチャカチャ
「あ、サトル、それはこっちだよ、で、コレは…あ、ごめんなさい!口出ししちゃって!良いんだよ?好きなように食べれば…」
「謝らないでよ〜色々ありがとうね。本当に今まで色々とありがとう。で、これはどうすれば…」
「…え?あっえっと…」
勉強になる、この経験を学ぶ。
足りなかった所、俺には必要無いと拒否していた事。知る、知るんだ。
デザートのクリスマスケーキを食べ終わる。
楓は余り口にしなかったな。
「美味しかったね?久しぶりにお酒飲んじゃったよ…残してたけどて楓はそんなでも無かった?」
楽しそうでは無かったかも知れないな…俺の勉強不足だ。もっとサプライズとかあった方が良かったかな?
「ん~ん、美味しかったよ、楽しかっ…た…なん……えっえぐ…」
何で泣く?そっか、惨めだよなぁ、地元のホテルの夕ご飯、地元の友達に会って勘違い、食事のマナーが出来ない彼氏、でも頑張るぞ。
「楓、泣かないで?これから一緒に夜景見に行こう。色々話したい事があるんだ」
「はい…はい…ごべん…なさい…」
「謝らないで、ほら、クリスマス何だから楽しくやろうよ」
思えば昔話と、子供の時の話、同様にゲームや漫画以外の話は楓からしなかったな。
仕事の話は教えてくれなかった、いや、俺がアカネさんの話したからしないようにしていたのかも。だから俺が一方的に…
何だ、思い当る節がいくらでもあるじゃないか?
だから変わらず俺は伝える。
イリミネーションで地元のいつも景色が綺麗だねとか、
動画配信で稼いだ金は税金分と分けて置いてあるとか、
あの大きな公園でかくれんぼして遊んだねとか、
ローンは全部、今年で終わる。だから安心して欲しいとか、
仕事で似合うって言ってくれたコート駄目にしちゃってごめんねとか、
動画配信の方法とノウハウは全部共同のPCに入ってるとか、
楓は終始俯きながら「うん、うん…うん…」とか言っていた。
そんな事を話しながら、ホテルに戻った。
夜景が綺麗なホテルの上階で、プレゼントをあげた。
俯いている楓にかけてあげる。
「こ、これは?」
「これね、高校の時にあげようと思っていたネックレス。楓が好きなキャラクターが付けてるブランドのネックレスのグレードが高いやつなんだ。」
「うっ!?うぐ!ううう!!うああ!!ごめっ!!ごめん!!」
涙を流しながら身体を抱える様にえづく楓。
吐きそうに成る程嫌なのは困るな。
「ブランド物だから、もし辛かったら売っていいからね?好き嫌いはあるだろうから」
すると急に楓が押し倒して来た。
悲しいんだか積極的何だかよくわからんなぁ…
「私!私ね!!サトルの気持ちを!ングッ!?」
「ごめんね、それは聞きたくない。いつか…教えてね?」
何か嫌な予感がしたから口を手で塞いだ。
手が気持ち悪いな…
「サトル!許して!サトル!私が…」
「いや、それは別に良い…って!?オうエッ!?」
キスしようと楓の顔が近付いてきた時に、酔いすぎたのかな…楓の息が当たった瞬間に急に吐き気がして、楓を突き飛ばしてトイレに行き吐いた。
オエエエエエ…気持ち悪い。
「ちょっと飲みすぎたみたいだ、せっかくの聖夜なのにね…とりあえず一緒に寝ようか?もう大丈夫だから」
「あ…あぁ、ごめ…」
「ちょっと楓の顔見ると吐きそうだから後ろ向いて寝るね…おやすみ」
「おはよう!よし、観覧車乗っていこうぜ!」
「疲れたな、帰ろうか?クリスマスは、混んでるな!映画でも借りて帰ろう!」
「あんまり面白くなかったな!ゲームしよう!レベル上げだ!」
「よし!明日も早いし寝よう!仕事、頑張れよ!」
「おはよう!今日も仕事頑張ろう!」
「廃墟!?動画!?もう行かないよ!怖いから!」
「弁当はオ○ジン弁当買っといた、明日から金渡すわ!」
「飯?何か全然腹減らないから要らない。お前のは配達に頼んどいた!」
考えてみればクリスマス前、俺は楓の意思を聞いた事があっただろうか?
楓はいつもどうすれば良い?って聞いて来たな。
俺が一方的にまず借金返そうって仕事増やして、廃墟巡りにコスプレして付いてくるって言うから動画撮ったらちょっとバズって、コレで借金返せるねなんて言ってたけど…本当は返せる目処ついてたんじゃない?
何でも俺が背負うと力み、アカネさんに言われたからムキになって俺が何でもやってやるみたいな…それで仕事増やして小銭増やして、GPSなんて付けて束縛して…あぁ死にてぇ
それ以降、俺が一方的に喋るクソ同居スタイルが1週間〜2週間過ぎ、年明けたあたりで頭がおかしくなりそうになった。
もしかしたら楓は、もっとキツイかもだけど。
そして、ある日の夜、やってしまった…
「いつになったら世田谷のマンションは建つんじゃいッ!」
ダアアアアアアンッッッ!!!
楓がビクゥッとなった。やってしまった。だってアイツの所にいつまで経っても行かないんだもん、もん。
俺は楓に罵声を浴びせそうになったのでヒロの所に行った。
ちなみに楓も年明けてすぐから仕事に行っている。俺も年末年始は仕事だった。久しぶりに一緒になって顔見たらマンションに怒りを覚えた。
それと何か年末年始にお詣りに行った気がしたが覚えていない。
GPSもろくに見ていない、もうどうでも良いからだ。
「男便!お前はいつになったら世田谷のマンションが勃つんじゃい!」
俺はとりあえず男便糞漏らしに言った。すると…
「あぁ、あれヒロが調べたけどまだ全然建たないらしいよ?お前のチ○コと一緒だよ」
「確かに俺は楓とちょっとでも何かしようとしたら吐くが、何で俺のチ○コ事情を知ってるんだ?下痢便ストーカーか?」
「ちげぇよ!サトル、お前さ、頭おかしくなってるぞ?てか、目がヤバい。病院行け」
「じゃあタツ!俺はいつマンションマン出来るんだよ!?」
「オレは知らんよ…マンションマンってなんだよ」
横からヒロが言った。
「世田谷のマンションがゴールなら数年後だぞ?ってか色々見させて貰ったが、この2週間、お前、狂ってるな。まさに耐久狂だよ、いや、ただ狂ってる」
耐久狂?何だが意味がわからない、だがもう我慢出来ない。
俺は家に帰ったが楓はいない、仕事に行ったようだ。アイツに会ってんのか?会うのは別に良い。
俺がキレてるのは世田谷のマンションが勃たない事に怒りを覚えている。まるで俺がマンション詐欺に合ったような錯覚に陥った。
何やってんだ、俺は。
正座して考える。よし。もうやめよう。
正座したまま4時間程で楓が帰ってきた。
「あ!さ、サトル!今日は家にいるの?ちょっと話が…「今日で最後、俺はもう駄目だ」
「え?ま、待ってサトル…お願い…話を聞いて…」
「今日は家にいるけど聞かない!意味ねぇから!」
この家で過ごす最後の日。
1月9日、イクの日だなと思い、今度最後は気持ち良い日だったと真田に教えてやろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます