将を射んと欲すれば先ず種馬を無視し将を射よ

「イクエぇ…俺はこの日の為に生まれてきたのかも知れないな」


「御意」


 襖1枚隔てて、俺の彼女の浮気現場で口端をクッとあげ、舌舐めずりをする同級生で一応、友達のヒロ。


 その後ろに何になりきっているのか知らんが『御意』とか言って腕を組んで背後霊みたいに立ってる高校時代、ヒロと同じクラスでクラス委員長だった、吉川幾重。

 …当時、成績がトップであるにも関わらず尻穴崩壊とか言う意味不明なうわさのクラス、Eクラスをエロいクラスと言わしめ、3年は、生徒会副会長か何かだった頭の良いタイプのキ◯ガイだ。


 壁一枚隔てた向こう側で行われる俺の彼女…カエデと間男の情事。

 その情事に最も精神的に遠く物理的に近い距離にいるヒロが小さい声で言った。


「フハハ…まずは小手調べだ、騎乗している様だが馬から落とす、俺は馬を射ず、大将を直接殺す」「御意」


 カン…カシャ…


 ヒロが小石を指で弾くと襖の向こう側に行き何かに当たった。


『ツカサさん!♥もっと!♥もぅっ…あ?…え…な…』


『カエデ♥カエデ…カエデ?え?何これ?同居人との写真?』


 俺が何が起きたのか気にすると、ヒロがこっちを見た後に吉川に指示した。

 

〜若い血潮のNTR 流す涙と猛る珍宝♪〜


 隣の空き部屋から微妙な音量で変な軍歌が流れた。

 

「うむ、やはり元アイドルの獅子川さんに歌わせた軍歌はこぶしが回ってるな!そしてこれで聞こえない…サトル、まずこのスマホ、プロモードと言う撮影に特化した他の用途では評判の悪いエクスペ◯アNTRZマークエイトを渡す、撮影しながら知るんだ、お前の女と間男の事を…」


 お前、適当な事を言うと訴えられるぞ?

 とりあえず変なスマホを渡され襖の端から撮影し、画面越しに中の様子を見ながら音を聴く。


 カエデが騎乗位で跨って腰を振っているといういる…が、止まった。

 視線の先には俺との想い出の写真…他のもそうだか写真立てが裏返しになっている。

 それをヒロが倒して見えるようにしたのか?


『あれ?こんなんあったっけ?仲良さそうにしてるけど…前に付き合ってたりしたの?』


『なん…で…ん…まぁまぁ…良くないですか?その話は…』


『さては前に付き合っていたのか…でも別に構わないよ…カエデの心から完全に奪ってやるよ』


『別にそんな…無いし……きにしなァン♥アン♥アン♥』

 

 目が泳いでいる…お前…何でブレてんだよ…


「ほう、この間男馬、台詞と言い変な空気になっても腰を振るのを辞めないとは、強欲な馬鬼と見える。馬は後日、将が死んでからじっくりと…そして次の手だ。将を徹底的に潰す。イクエ!やれ!」


「御意」


〜そうやって自分で勝手に考えて実行する、そんなに僕は、信用ないのだろうか?そんなに僕の事は駄目だろうか?浮気した事よりも何よりも、その事に幻滅した、後から謝っても、理由を聞いても僕は、絶対に許せないと思う。もう一度言う、僕は、勝手に行動する女が嫌いだ。そうして心まで堕ちる女、結果的に人の心を殺し回り、何かした気になった淫乱女の戯言は聞かない、淫乱死すべし…もう一度言う、あの人の為とか理由にならない…〜


 何これ…朗読?隣の部屋から軍歌が終わったと思ったら謎の朗読が…もう一度言うって微妙に違うし凄まじい恨み節みたいな朗読が…

 

『アン♥アン♥あ?…違…私…そんなつも…ア♥…やめ♥やめて♥もう…いや…いやぁ…』


『何だこの変な声…何?やっぱり前の彼氏の方が良いのか?そんな事言ったってもう遅いよ…俺だってお前の為に会社の新しいポストを用意して!マンションも結婚指輪だって買った。妻との離婚協議も進めている、これも全部お前の為なんだ…それに引き換え彼は結婚の気配すらないんだろう?カエデ!だらしない男より俺を選べよ!』


 体制を正常位に変え腰を激しく動かす男…男を手で制止するような動きをして少し泣いている様に見えたが、腰を激しく動かされると次第に甘い声を出し始めた…


『楓は自分では決められない!どうせ彼には入社してからの事は何も言ってないんだろう?分かっているぞ、だから俺について来い!俺についてくれば間違いないんだよ!分かるだろ!もう遅いんだよ!』

 

『ア♥ンアアッ♥やめて♥言わないでっ♥』


 結局俺は…カエデの事を何も知らなかったのかも知れない。

 狭いこのアパートの世界で、神田川みたいな幸せごっこをしてるだけで、本当に望んでいたのは何か…カエデがどんな事に幸せを望んでいたのか…俺はまだなにもわか「凄い!間男が光まくってるぞ!やっぱり間男はこうじゃねぇとな!イクエ、これは心の殺人のしがいがあるなっ!?さぁとりあえず今晩中に女の後悔をばよえ~んまで積み上げるぞ」

「御意」


 何言ってんだよコイツは…それよりもう、やめにしよう…ここで出ていけば俺とカエデは…


 すると遠くの方で怒声がした…


『離せや!真田!藤原ぁ!離せっつーの!アイツらぶん殴るっ!特にカエデの野郎!浮気は絶対許さん!トレーニングなんかじゃねぇ!殴らねぇと分かんねぇんだ!鼻の形変えねぇと!』


 吉田さんの声が…隣のヒロの顔を見ると絶望に満ちた悔しそうな顔で凄まじい歯軋りをしている…


「クソ吉田が…情緒のわからねぇ…とって付けた様なざまぁじゃねぇ…ドロドロとした心のダメージを何も分からねぇ肉体バカが…俺の邪魔をする…クソ…サトル、イクエ…退くぞ…」

「御意」


 いや、退くぞ…じゃなくて。

 しかし今の俺は正直、浮気されたばかりで頭が働かずそのまま外に連れ出された。


「サトル、そのスマホはやるよ。お前も独りメンタルトレーニングが必要だろう?」


 何?独りメンタルトレーニングって…


「あ、そうだ。一つ確認したいんだ。まずお前は今の段階で再構築を考えているのか?」


 えぇ?今?


「いや、今やり直せとか言われてもちょっと考えつかない…分かんないけど、ただ…ただあり得ないという気持ちしか…」


「まぁ直後はな。それと、確か高校の時、お前は父親の仕事を継ぐとかどうしたとか言ってなかったか?」


「親父の仕事は多分、継がないよ…才能無いし…やるとしたらいきなり海外だしなぁ…こっちに居たいんだよ、今の所で契約から正規になれればなぐらいで…」


「成る程…それでか…ならあの女、更に揺さぶられるな…愛VS金、永遠の課題だ。まぁ…とりあえず吉田を黙らせよう、あのゴリラをほっとくと積み上げたNTRタワーが崩壊してしまう」


 何?揺さぶるのか?なんで?

 不思議に思っていると吉田さんと真田とタツが道路で何やら揉み合っている…


「おい!ネト(真田)!とりあえず黙らせろ!手で口塞げ」

「フゴゴーぅ!ムゴォー!んくごご!!」

「吉田!落ち着け!お前とは関係無いから!お前がカエデちゃんを殴る所じゃないから!」

「ネト!口を塞ぐだけじゃ駄目だ!コートの上から揉め!付き合ってんだろ?コイツそういうのに弱い!」

「おい!こんな所で気持ち良くしろっていうのか!?仕方ない、牛さん気持ち良い乳搾りせざる得ない」

「ンコオオオオオオオ!?♥♥」


 吉田さんをタツが羽交い締めにして真田が正面から押さえつけている…というか揉んでない?

 何故、この街は今、何処かしこで犯罪の様な事が行われているのだろうか?


「吉田!貴女、良くも根多君主の邪魔したわね?地獄に落ちてもらうわケエエエエエエエエエエ!?」


 ヒロの後ろにいた眼鏡の吉川が謎のキャラ作りで吉田さんに絡んだと思ったら吉川が急に白目になって舌が飛び出した。

 後ろからタツがチョークスリーパーを決めていた。


「眼鏡、お前がいると話が進まないし人数いてワラワラすると面倒くさいから失せろ。どうせ死なないんだ、下水道でも彷徨ってろ」


 ポイーっと投げ…落ちた?瞬間に吉川を側溝近くの下水穴に入れた…死なない?


「ブハァ!ハァハァ…なぁ木山…またカエデがやったんだろ?良いんだよ、木山と関わらなければ…私がムカついてんのは何回も同じ相手に同じ事する腐った性根にムカついてんだよ!」


 吉田さん…短大時代にカエデの変な芸能人生活でブチギレして絶縁したのにそれでも怒っている…付き合い始めた時に言ってくれた。


――もうアイツは私とは会いたくないと思うけど…あの性格、直ったんだな!おめでとう!――


 吉田ヨシダ麗奈レオナ…運動部系女子のまとめ役…部活動報告の場でも女子運動部代表だった。

 カエデとは女子サッカー部と男子サッカー部のマネージャーという事でそれなりに仲が良かった。

 俺と付き合うぐらいで学校の目立ったグループの葛愛華とつるんでいだが、その後色々というか葛愛華は退学になって吉田さんと仲良くなり…俺と別れた後に吉田さんと大喧嘩したらしい。

 吉田さんは良い家のお嬢様だけど何故か高校の時は、左右アシメというアシンメトリー…片方刈り上げにして


 吉田さんのブチギレてる原因は主に浮気だ。

 それを浮気というか、話に聞くと間男だったという浮気どストライクな人間、真田と付き合うというのは不可思議なものだが…


「ヨシデン、お前とは気が合うとは思うが極端なんだ。暴力はやめろとあれほど言ってるだろう?」


「そうだぞ吉田。お前が乗り込んで来たらNTR耐久タワーが倒れてドミノ倒しに襲われ、あのまま行けばタツに産後トレーニングをしなければいけなくなる所だった…」「え?何でオレ?」


「うるさいな馬鹿夫婦!木山…お前は良いのかよ!?何にも学んでないぞ?カエデは…結局の所そういう事したって事は変わってないんだろ?だったら…よぉ…」


 ギリギリッと聞こえるぐらい歯を食いしばり拳を握って俺を見る。

 この人は相変わらず変わってない。


 変わってない…か。変わってない……かぁ…。


 今も胸糞悪いけど、どっかで腑に落ちる部分もあった。

 小さく必要な分だけを得てそこから幸せを得る。小さく生きる事をパートナーに強要してきたが、大人になれば、社会人になれば野望やら夢、しっかりとした安定望んでいるかも知れないのに、それを俺が否定していた。

 パートナーがいる時点で世捨て人みたいな事はやめるべきで、諦めで綺麗なものだけを無理矢理見るのもやめるべきで…


 あぁ…アカネさんのおかげかも知れないな、そんな考えを想像出来る様になったのも。

 もし同じ理由なら2回目だ、認めよう。自分の否を。

 罰したいならこいつ等に任せよう。

 

「耐久じゃないけど、お前等が騒いでいるざまぁ?復讐だっけ?それはまぁ俺は降りるよ。多分、もう昔みたいにカエデを怒る気にならない…ちょっと戻って…諦めがつくまで2人の会話を聞いてくるよ」


「えぇ!?マジで耐久すんの?オレには考えられない!」「木山、駄目だって!アイツ殴らないとわからないって…」「とうとうセルフ耐久トレーニングを自発的に…良いぞ!」


 何か皆好きな事言ってるな…まぁ良いや…


「まぁ明日以降、俺は…そうだなぁ…我慢できる所まで我慢するよ(笑)じゃあね、また…あ!このルドラって結局何なのよ?」


「ルドラはなぁ…あ、眼鏡戻ってきた、眼鏡が詳しいぞ」


 排水溝みたいな所から帰ってきた吉川が教えてくれた。






 【ルドラ】

 一番近いのはヘ□イン、しかし似た効果はあるが、成分と効き目は大いに異なる。

 基本的に覚醒剤のケシや合成ドラッグの化学物質ではなく、ある特殊な人間から抽出される成分で中毒性は無いものの、検査では検出されない10倍近い成分が、腸内にへばり続け10日〜30日間、何もしなけれれば波の様に繰り返し突発的に効果が出る。

 

 ただし、最も効果が出るのはセ○クスの時である。

 舌を突き出し牛のような声をあげ、身体から出る液体という液体を出しながら脳が悲鳴を上げる。

 強い意志が無ければ後遺症で身体、特に感覚と思考に影響が出る。薬自体が肉体に影響が及ばないが、制作者曰く一般人に使うと、体力や筋肉の関係で、その喘ぎでまず鼻から下顎までの筋肉や骨に深刻なダメージが出る。感度が高まりすぎて神経がおかしくなり、痙攣による筋肉のダメージを負う。

 

 時間による回復はあるものの、直後半年から1年未満は顎が閉まらず舌が垂れ下がり肉体の損傷で運動は出来ず、神経の異変で性行為はできないらしい。


 制作者が合法で後遺症の無い最高のキメセクを彼氏としようとした結果の偶然の産物であるし、本来は一ヶ月セックスしなければ問題無い事から、浮気防止策の一つして存在する筈の薬だった。






 そんなもん挿そうとしてたのか…いや、駄目だろ。


「ま、まぁ、とにかく…ざまぁだが何だが分からんのはお任せで、俺はすぐ関係無くなるけど…何かあれば言ってくれ。多分2月ぐらいまではいるから。色々ありがとな」


 まぁ…ヒロとか久しぶりに話せたし、仲良くなれたな。

 そう、当時は仲良くなくても、時間が変化をもたらしてくれる。

 だから、友達、友達が増えた。沢山。


 そしてこれから、互いに変化出来なかった、だけど大切な人と、友達になりに行くんだ。

 


 だって、もう会えないから。

 俺が好きになった人には。恋人には。

 俺が好きになった恋人妄想の人は、俺の中でもう死んでしまったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る