予防線、覚悟、客観性、好きになってしまうと…

 何でだろうね、俺も結局、反省しないのかね。

 カエデと友達から…始めた。


 ただ、まぁ、言い訳じゃないけど俺はアカネさんと別れて一ヶ月…


 付き合っていた2年弱の恋人がいた感覚を忘れるには短くて…


 カエデとの幼馴染としての十数年間、小中高と同じ学び舎で、一緒にいる期間が長過ぎた。


 あっという間に距離は縮まる。


 1〜2週間程遊んでるうちに、俺はすっかりカエデの家に入り浸っていた。

 やっている事は昔と変わらない。

 買い物行って、ゲームして、テレビやゲームして、漫画読んで…仕事をしている2人には言葉も尽きない、十分な時間だった。

 バイクに始めて乗せた、GSX…カタナと言う昔のバイク。

 カエデはドライブが好きだった。

 

「サトルには全部話すよ…もう見られちゃってるけどね」


 ある日、友人として話そうと思ったんだろう。

 だからちゃんと聞いた。キツかったけど。


 カエデは懺悔のつもりだったのかも知れない。


「昔の事を嘘ついても仕方無いもんね、だからサトルに友達として信頼されるように…」


 高校の時…俺とサッカー部の奴との二股の話。

 単純な話だった。

 大会前に言い寄られて、それでせめてアレをしてくれと、最初はお互いのモノを口でしていたそうだ…


 結果としてソイツの調子が上がりスランプを脱出、春の大会では良い結果が出たそうだ。


 そんな事もありつつ、3年でたった1人のマネージャーなので、皆が頼りのマネージャーと慕う。

 マネージャーのおかげだと言われた事も嬉しかった。

 そして、皆で一丸となって試合に勝つのも嬉しい事だった。

 どこかで私のこの程度の行為で皆が勝つなら…と思ったらしい。

 それがエスカレートして事に及んだと。


 また俺としていなかったというのもあるらしい。

 相手がいるのに悪いという感覚が無かったそうだ。


 サッカーを知らないサトルに言っても分からない。これは恋愛の行為じゃないから。

 セックスをしてないサトルに言っても分からない。これはふしだらな行為ではないから。

 分からない事に関して説明してもしょうがない。サトルは知らないから。


「今考えると言い訳できないね、本当にごめんなさい…友達だけど昔の事はやっぱり謝りたい…本当に…ごめん…ごめんなさ…いぃ…」

 

 泣きながら懺悔するカエデ…

 ちょうど軽音楽部も忙しそうに見えて、お互い部活を頑張っている感覚だったそうだ。

 

 そして、俺に見られ別れた。


 別れる気はなかったらしい、説明すれば分かって貰えると。

 何で俺が狂った様に怒っていたか分からなかったそうだ。

 何で縋りついたかといえば、一緒にいて、恋人として、長い時間一緒にいるのは俺しか嫌だったそうだ。


「嬉しいけど…悲しいな。でも、分かって良かった…今だから冷静に聞けるよ」


「彼氏だから…記念の日にしたかっただけなの…でも、悲しませてごめんなさい」


 そして、その年のクリスマスにする俺とする予定だったと言う。


 しかし俺が怒鳴り、逃げて狂った様に怒鳴りまくるから何がなんだか分からなかった。

 更には俺が先輩と付き合ってしまったから。


 俺は知らないがアカネさんがカエデの胸ぐらを掴みながら釘を刺したらしい。


『テメェで捨てた男に縋るなよ、ダセェな』


 アカネさん、別れる時は社会人してたけど昔は金髪の自由を尊ぶバンドマンだったからな。


 もう自分には部活しか無いのかと思った所で、後輩に告白された。

 だけど…俺の事が忘れられず付き合いはせず身体だけ許したらしい。

 

「本当にバカだった…その場しのぎでさ…何も解決しないのに…」


 同じ様な事が別の後輩に起きて、気付けば3人と、関係を持っていた。

 サッカー部の風紀は目茶苦茶、部室は誰かしらが何かやってると有名になった。


 ちなみに真田はその1年前にヒロの当時の彼女と、部室で何回かやったのを聞いた。

 それをヒロとタツがロッカーで覗いて盗撮したと言う救いようの無い話を聞いた事がある…サッカー部はどうしょうもねぇ…


 まぁまぁ、結果、女子サッカー部キャプテンの吉田さんがブチギレ、俺はいなかったが教室で全部バラされビンタされた。

 俺の事まで話題に出たそうだ。俺いなかったら良いけど嫌だな、その場にいたら。


 吉田さんはスクールカーストで言うと体育会系女子の頂点だったから、彼女の意見は絶対だ。


 2年の時は校舎の裏でイケてる女子の頂点であった当時のヒロの彼女と、真田の事で取っ組み合いの喧嘩をしている。怖いな女って。


「吉田さん…もう許してくれないだろうな…嘘ばっかりついちゃったから」


 大声で怒鳴る吉田さんの『アンタァッ!〜なのかよッッッ!?』と言う台詞にビビって『はい』しか言えなかったらしい。


 それから吉田さんが怖くて、更にはデカい声でバラされたので唯でさえ希薄な交友関係が完全に無くなった。女はこういうのに厳しい。

 無論、男達も同じ、そして昔馴染みの俺は最低限しか学校に来ない。

 

 そのまま、授業日数を確保したら、推薦を貰った短大に入るまで学校に行かなかった。


 短大は女子短大、カエデの親が選んだ短大だった。

 つまり男がいない場所、高校時代に俺、そして部活で問題を起こしたカエデだ。

 ご両親も苦肉の策なんだろうな。


「この時ぐらいから何となく感じてたの。私は感覚がおかしいんだなって…だから言って欲しい、間違えてたら…」


 不思議な短大生活、女子しかいない短大。

 進路、男、交友関係でマウントの取り合い。

 いや、普通にしてた子もいたんだろうけどさ…多分、カエデはそういう星の下に生まれたのか、もしくは自分からそういう場所に行くのか…


 これは余談だけど…同じ学校で、高校2年の時にヒロの元カノの葛愛華っていうのが学校から消えた。

 実刑にはならなかったけど、何やら売春を取り仕切っていたらしく海外に飛んだ。


 俺は関わってないから知らんけど読モやっていたり、アイドルとつるんでいたり、それこそ財閥系の御子息やらタレントさんとやらとつるんで派手にやっていた女だ。

 カエデはその葛のグループと吉田さんのグループを行ったり来たりしてた。


 俺はそん時、バンドで他の高校やらスタジオのスタッフやらと話していて、葛愛華のヤバい話は知ってたから、カエデに教えたんだな。


 そしたらカエデはアイカちゃんが『しないならしないで別に良いけど、別に皆、自分の意思でやってる事だから』と言われたと言う。

 

『皆がやってるってのは違う、皆がやってるから正しいとは限らない、それ、犯罪だから』


 俺はごく普通の事しか言えなかった。

 高校卒業して思う、皆やってるってのは確かに正しい。

 勉強、運動、努力、遊び、引きこもりニートでない限り、この国で生きていく為には【皆やっている】は嫌でも絡んでくるワードだ。

 

 思春期の学生に普通の話は響かない。

『だって』『口だけだ』『自分の事は棚に上げて』

 夢を見る人にとって、現実は苦痛でしか無い。


 結局、短大時代に街のキャッチで芸能事務所に入り、最終的には合計100万近い金を払いレッスンを受けたりしたが泣かず飛ばすで地下アイドルグループに突っ込まれた。


 自分だけのアイドルを求める人はそれなりにいる。

 だから高校時代の葛愛華のやり方で、有名になろうとした。

 だけど葛愛華は常に何千万って億に近い金と、下手すりゃ何千って人を動かして、最後はニュースやドキュメンタリーになるような規模の事件起こす程の人間だ、同じ事がカエデに出来る訳ない。

 要は勝手に枕営業的な事をして、あっさりと事務所にバレて個別活動禁止のコンパニオンという売り子立ち子しか仕事を与えられなくなった。


 で、今は短大を卒業して、新卒で派遣会社の正社員をしているそうだ。

 先日の彼は会社の同僚らしい。


「サトル。お願いだから間違えてたら言って?事務所辞めてでも会社辞めて何でも良いから」


 それはだらだらフリーターの俺には荷の重すぎる判断だ。

 それでも、カエデは当時の心境や考え方を伝えてくる。

 俺も意思を伝える。

 事務所にいてもお金だけが飛んでいくからとりあえず辞めるべきだとか、会社は男問題を蹴りつけたなら就職してるし辞めたく無ければ続けるべきだし、だけど男にそんな簡単に身を預けるなとか、そういう事をして良いのは信頼してる相手にだけ、いつか酷い目に合うぞと伝える。


「事務所は辞めてきた…同僚とももうしないって言った。これから借金を頑張って返してサトルに信頼される様に頑張るよ!」


 同時に俺とアカネさんとの間にあった事、俺のその時の気持ち、伝えて行くうちにだんだんと距離が近付いていく。


「俺は駄目人間でよ、俺だってちゃんとした仕事に付いてないけど、いつかは就職したいんだよなぁ…でももうちょっと考えたいんだよ」


「そんな事を無いよ!家事して料理して、色んな事知ってて…それに2人でいると楽しいよ!今まで家がこんな楽しい事なんて無かったから…」


 カエデと両親と俺は仲が良いが、カエデに対しては昔からとても厳しい。

 子供の時からギリギリまでウチで遊んでた。


 だから現状報告だけしていた、カエデの両親は絶対的に俺を信頼していた。

 実際、信頼に応える様に手を出さなかった。

 住所も変更した。本気だと思って貰えるように。


 友達だけど同棲している、だけど「サトルがよければ…一緒にいてあげてほしい」と言ってくれた。

 

 7月頃に友達になり、8月には海に行った帰り道、既に半同棲だった俺達はキスをした。

 家に帰ってから、付き合う事になり繋がった。


「ずっと…ずっとサトルとしたかった♥」


 思えばカエデとするのは始めてだった。

 正直、カエデはエロい。これは間違い無い。

 その外見、言動、仕草…

 慣れてるのかなとか、言い方が悪いと男を悦ばす事に長けている。

 こうしたら?こうしたら?と言うレパートリーが半端ない。


「サトルが気持ち良い事をしたい♥私に精一杯やらせて?♥」


 多分、俺は日常では幼馴染だから手を出さないしその様な目で見ていなかったが、始めてあった人は勘違いするだろう。


 そして始めて触れ合った奴は、必ず手離したく無くなる、それはカエデ自身を見ての話じゃない、カエデの性的な部分に。


「私の気持ちはサトルだけ♥サトルも私だけを見て?♥」

 

 だから…俺の中のどうせ裏切られると言う予防線が無くなっていく。

 もしかしたら悪女って言うのは案外こういう人なのかなと思ったり。

 だから…カエデはこうなったのかな?


 高校の時は、しなかった。だから客観的に見れた、貞操観念や恋愛の仕方。


 今は客観的に見れなくなる、自分だけのものにしたい、そういう心が蝕んでいく。

 

 それでも俺は…意識的に幼馴染を忘れない。

 何があってもカエデと対等に、何かあれば断ち切る覚悟を持たねばならない。

 両親にも言った、カエデの親にも落ち着いたら2人で挨拶に来るとも言った。

 もし不義を働いたら色んなモノを巻き込むと教えた。


 その気持ちや態度、行動が、今まで何でも許される所にしか行こうとしなかったカエデを成長させると思うから。


 金を返す為、そして将来の為に今の仕事を掛け合って時間を増やした、深夜勤務を増やすと給料も増え契約社員になれると聞いた。

 だから飛びついた。

 

 例の安アパートにそのまま一緒に住んで、生活費やら食費、家賃を俺が払う。

 その分をカエデから貰い、そのまま借金に当てる。

 利息が高いところで借りてるから1人ではいつまでも返せない、だから速攻で二馬力で返す事にした。現状で200万いかないぐらい。

 半年で返す目処を付けた。


 カエデは無駄遣い、変な寄り道をしないように、俺がカエデをGPSの付いたスマホで追えるようにした。

 俺の位置も分かるけど清廉潔白だから構わない。

 

 俺がたまにバイクで行く金のかからない趣味、廃墟めぐりやキャンプ、そこにカエデは付いて行くという。

 何を思ったかコスプレ衣装を持ってきた。


「え?そういう所で撮影したいんじゃないの!?」


「そんな訳ねぇだろ…いや、待てよ?」


 ちょうど動画配信が流行ってた、意味の分からない政治的な意見を動画で垂れ流し続ける同僚から配信について教えて貰った。


 仮面女子の旅路…そんな適当に付けた名前で、極力顔を出さず、廃墟を回ったりキャンプについて説明する動画を上げたらバズった。


 コスプレは最近の物は売っていた。

 俺に金を返す時に思い入れの無いキャラクターの衣装は売って金を作ったらしい。

 平成初期の30代狙い、ちょい古めのコスプレでいったのも良かった。

 カエデは短大時代は一応、レッスン受けて人前に立つ仕事をしていて、更に言えば顔もそれなりに良くスタイルも良いから、ニッチな内容なのに普通の動画配信者より高いクオリティを発揮した。


「凄い再生回数だよ!サトルって凄いね!♥」


「俺の力じゃないよ、カエデは元からポテンシャル高いから」


 お金は全部、取られる税金分を抜いてカエデの口座に入れた。

 カエデ名義で別の口座を作り、カエデは働いて俺に渡した後、残りお金でやりくりする。


 二人合わせて月4万程度娯楽費。

 入ってくる割に質素な生活だった。


 しかしカエデには言ってなかったが、俺の深夜の仕事と、動画を上げてからの3ヶ月分の広告料で借金を返せる目処が付いた。




 ある日、俺が深夜の仕事が休みで家に居た。

 2人で風呂に入っていたら安アパートの俺等の部屋に何かが入ってくる音がした。

 

「怖い…下着泥棒とかストーカーかも知れない…サトル…怖いよ…見に行って…お願い…」


 怯えるカエデを風呂場に置いて俺が行くことにした。


「静かにしてろよ?追い払ってくる」


 全裸で近くにある金属の金鋏を持って構えながら出る。玄関と風呂場の出口が目の鼻の先の家だ。

 そこには30前後ぐらいの身なりのいい男が立っていた。


「テメェ何入ってんだコラアアアアアッッッ!!」


 別に俺は普通の男、ただ全裸で金鋏持って大声をあげたのに驚いたらしく全力で逃げていった。

 これが11月の末頃か…


 怯えるカエデに優しく言った。


「借金が年末で返し終わるからさ、そしたら年明けの給料で引っ越そうか?怖いもんね」


「…うん…うん…うえええん…離れないでぇ!サトル近くにいてぇ!うえええん…」


 その日はずっと側にいて手を繋いでいた。

 後日、10代の下着ドロが逮捕された。


「これで安心だね、でも引っ越しはしよう」

「そうだね!でも良かったよぉ!捕まって!」

「大丈夫だよ、俺がついてるから!」

「サトル♥サトルぅ♥うわああん」





 俺は今、幸せだ。盲目的に。







 一人で警察に行った。ウチにも下着ドロが入ったかもと言って特徴だけ聞いた。

 俺が見た奴と違う奴だった。


 違和感…この違和感は感じたくない。

 そんな訳無い。あってはならない。


 俺は泊まりの仕事を辞める入れてから、2人テコンビでボーっとする時間が多い。だからだろうか?


 GPSを確認する。ウチから動かない。


 俺が泊まりで仕事の日、家からカエデのGPSは動かない。

 カエデが仕事の日、カエデは仕事が終わるとまっすぐ帰ってくる。


『ごめん、今日はクライアントの会議で少し遅れるよ(泣)』

 残業の時は理由を添えて、写真も付けて送ってくる。


 お金も使えるお金は毎月決まった金額で、遊べる様な金も無い。

 減る時も俺と一緒に遊びに行く時だけ、昼は俺の作った弁当を持って行く。


 カエデを信じるべきだ、信じうる内容の筈だ。


 これも一度、いや、二度騙された人間のトラウマ何だろうか?


 白すぎる事にかえって疑いを持つのは心の病なのだろうか?


 騙されたとしたら…いや、それでもカエデの借金を返し終えて、普通に別の好きな男が出来たと言われたら…他の男と共に行くなら祝福すべきだと思っていた。


 俺は一度、アカネさんで失敗してるから。

 ちゃんとした会社に就職してないフリーター

 夢も野望もない、そんな事で劣等感を感じない。

 俺は俺のペースで、俺のしたい事が決まるまで、俺の道を行くと決めた…とて、世間は許しはしない事を。


 何でこんな事を考えるようになってしまったのか?


 簡単だ…好きになってしまったんだ。

 カエデを、高校の時の幼馴染の延長で付き合ったのとは違う。

 

 この人となら将来、死ぬまで一生楽しく過ごせる様な気がする。

 俺は、幸せというのは掴めると知ってしまった

 


 好きになってしまった

 愛してしまった

 だから怖い


  

 

 俺は怖い



 

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