鎧騎士は街を案内される

第25話 鎧騎士は早すぎる再会をする

 朝、宿の部屋にて。私はパーティメンバーと食事を取っている。

 大きな食堂もあるらしいが、鎧姿の者が居ては落ち着いて食事出来ないだろうと思って遠慮したら、二人も一緒に来てくれたのだ。部屋に元々あった机の上は三人分の食事と、フルーツ山盛りのバスケットに占領されている。


 私はシャキシャキとした食感の周回食をストローで吸い取り、アリシアは湯気の立つパンにかぶりつき、ホーネットは良い香りのするスープをゆっくりとすすっている。


 今晩の手伝いは大変だった。

 まさか迷宮調整士が敵として現れるとは……。

 ミラの無法さでわかっていたが、ダンジョンよりも調整士のほうが絶対に危ない。捕まえた調整士シーラは、ミラが手伝いをやらせると言いながら引きずっていったが……。


 ――彼女が人の言うことを聞いて働いている様子が想像できない。


 シーラは街へ連れてくるまでの間もこちらを恨みがましい目で睨んだり、うそ泣きで泣き落としを図ろうとしたりと全く諦める様子のなかった強敵だ。もしかしたら戦闘中よりも道中の方が手強かったかもしれない。


 あの調子で支配の魔法という奴も、無理矢理に無効化してしまいそうな気がする。


 考え込んでいる間は食事の手が止まっていたので、食べ終わったと勘違いしたアリシアが街に誘ってくれる。対面で食事していた彼女は、早くも自分のパンを食べきっていた。しかし早食いのせいで口元にはパンくずがくっ付いており、となりのホーネットが口元を拭いてあげている。


「後輩君、今日はあたしが街を案内するわ! まずはお店ね。見習い冒険者が売ってるのは結局のところ落とし物だから、必ず必要なモノを揃えられるわけじゃないの」


「使えなくなってることもあるからな。周回食も俺らの奴ばかりじゃ飽きるだろうし、オススメの薬屋を教えておくぜ」


 アリシアの口元を拭き終わったホーネットが補足する。

 彼女は赤毛の三つ編みにスープが付かないように気を遣いゆっくりと食べており、食べきるまで時間がかかりそうだ。浄化できるとはいえ、髪を汚すのは嫌らしい。


 しかし……。


 ――周回食は薬扱いなのか?


 ホーネットの説明に仰け反って驚いてみせると、大きく頷いた彼女はバスケットの果物をいくつか取り、手慣れた様子で皮をむき、刻み、空の皿に投入してみせた。


 何をするのか見つめていると、ホーネットはスプーンとフォークを器用に使い皿の中にある果物の切り身を潰していく。その様子は手慣れており、慣れを感じる。

 しばらくすると果物はすっかり形を失い、周回食と同じ見た目になっていた。


 どうやら実際に周回食を作ってくれたらしい。


「こんな感じで周回食の加工は調薬に似てるもんで、薬屋の仕事になってるんだ。変な店の奴を買うと、調薬で出たギリ食えるゴミを混ぜ物にしてるから、気をつけた方が良いぜ」


 ――それは嫌だな!


 主食にゴミを混ぜられるのは困る。

 ホーネットの説明に危機感を覚えた私は、彼女の薬屋に対しての評価を背筋を正して傾聴し、良さげな店についての情報を得ることが出来た。


 #####


 アリシアに街を案内してもらった私は大量の戦利品を両手に持ち、彼女と一緒に街を歩いている。

 戦利品はホーネットのオススメ店で買った周回食だ。他にも専用の容器やストロー、色とりどりの味変用調味料が袋に満載されている。周回食は保存用保冷バックに詰めてあるし、これでしばらくは安心だ。


「こんなところね! ノールの街を楽しんで貰えた?」


 ――もちろんだ!


 両手が塞がっているので力強くうなづいて見せれば「当然ね!」とアリシアは嬉しそうに笑った。


 案内してもらった街は色々なお店があり人通りが多い割には、冒険者ギルド周辺に比べるとキレイなところだった。

 恐らくは見習い冒険者という制度のお陰だろう。街でも子供達は競い合うようにゴミ拾いをしており、その様子を人々が微笑ましそうに見ていた。

 冒険者達は魔力や酒で酔っ払っているからアレだったが、街ではポイ捨て防止の効果もありそうだ。


 ズッシリと重い戦利品に気を良くしながら、アリシアに連れられて街中を歩いていると、驚きの人物を見つけた。

 その人物とは、オープンカフェのテラス席で大量の甘味を味わっている紫髪の少女。


 昨晩ミラと一緒に捕縛したはずの野良調整士シーラだ。


 もしかして……。


 ――もう脱走してしまったのか!?


 何らかの勘が働いたらしいシーラはこちらを振り返り、大きく目を見開いた。

 彼女の手から落ちたフォークが空の皿に当たり、不快な音を発する。

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