第12話 迷宮調整士は鎧騎士を見つけた
――アリシアが帰らない。
私は仮初めの身分である冒険者ギルドの受付嬢として働く傍ら、受付カウンターに備えられた魔法端末の通知を待っています。受付嬢としての権限で、街の門番さんにアリシアが帰ってきたら短文通信で教えてくれるようにお願いしてあるのです。
「ミラ、交代の時間よ」
「了解です。ソニアさん」
笑顔の素敵なソニア先輩と交代する時間になったので、受付カウンターの魔法端末からログアウトして席を離れると、事務スペースの端末にログインし直します。
冒険者を専属で受け持つこともある受付嬢は、個別にアカウントと呼ばれる魔法端末の管理権限をを与えられているので、別の端末でも通知やデータが確認できるのです。少々目的と違う使い方をしていますが、専属契約予定ということで許して欲しいです。
――アリシアは大丈夫でしょうか?
不安な気持ちを押し込めつつ、短文通信の通知を待ちます。もしも、私が迷宮調整士だと知られれば、手段を選ばずに命を狙われてしまいます。聞いた話によると、迷宮調整士が居ると確信すれば、建物ごと爆破するような暴挙に出る場合もあるそうです。
人の為に迷宮調整士になったのに、周囲を巻き込んでしまうのは本末転倒です。
自分の選んだ道に後悔はありません。でも、助けに行く力があるのに、待つことしか出来ないのが、こんなにも苦しいとは思いませんでした。
――アリシアの持つ才能値・冒険者★★が、彼女を守ってくれるはず!
自分の心に言い聞かせます。
才能値とは受付カウンターに備えられた魔法の一つ、【解析】で確認可能な才能の相対評価です。
半数より上の才を持つなら星を一つ。
その中で更に半数より上の才を持つなら星を二つ。
英雄など、一握りの上位層のみが星を三つの評価をされます。
【解析】は過去に【解析】が使われた人類を参照して相対評価を下していますので、才能値・冒険者★★というのは、今を生きる我々にとってはかなりの高評価。冒険者という複合的な才能で、★★と評価されるアリシアは天才なのです。まさか、低級向けのダンジョン程度で問題が起きるはずがありません。
犯罪歴がなく銀貨十枚あれば誰でも登録の出来る冒険者ギルドですが、上位への昇格条件にはこの才能値が関わってきます。
シルバーまでは誰でもなれます。しかし、ゴールド以上になれるのは才能値★以上のみであり、古株なソニア先輩が言うには被害と収穫を天秤にかけた結果らしいです。
片足だけ靴下を履き忘れたり、鎧を買うお金を計算していなかったりと、ちょっとドジなところもあるアリシアですが、天職といっても良い冒険者の才能を持っています。
ただ、アリシアのドジなところを思い出すと、少々不安がこみ上げてきます。
まさか、武器を落としたり……□PiPi!□
端末が通知を知らせてくれたので、急いで短文通信の受信欄を開きます。目当ての門番さんからの通信にはこうありました。
□待ち人帰るオマケ付き□
――とても安心しましたが、オマケとは何でしょうか?
#####
しばらく後で帰ってきた待ち人のオマケは鎧さんでした。
「お~い! こっちよ! こっち!」
アリシアの拾ってきた鎧さんに、思わず受付カウンターのマインドスキャンを起動してしまいます。
□――あんなにピカピカして眩しくないのだろうか?□
そして飛び出してきた鎧さんの内心につい笑ってしまいました。プロの受付嬢ならこんな失敗はしないのですが、私は受付嬢もどきなので許して欲しいです。
その後も恐る恐る冒険者証を引き抜いてみたり、アリシアと一緒になって私の話に頷いてみたりと何だかゆるゆるな感じの鎧さんでしたが、事件は彼のの解析終了時に起こりました。ようやく解析が終わり魔法端末に表示された鎧さんの才能値があり得ない物だったのです。
――魔導騎士★★★!?
突然目に入った最高評価に変な声が出そうになりますが、軽食を注文することで注意をそらします。代償としてソニア先輩にスゴイ顔で見られてしまいました。夜間は冒険者達が美味しそうにごちそうを食べるのを眺めることになるので、彼らのために働く受付嬢にとっては、無事を安心しつつも辛い時間なのです。
――ごめんなさい。ソニア先輩……。
先輩に内心で強く謝りつつフェイントでパンにかじりつき、他にも★★や★の才能値の並ぶ鎧さんの才能値情報にロックをかけます。元々才能値は色々な理由で隠すモノですが、コレはできる限り隠しておくべき情報だと思います。しかし、最高の才能値とは……。
――この鎧さんは英雄級の鎧さんだったみたいです。
何故か周回食をアリシアに勧め始めた鎧さんを眺めながら、気になった私は色々な情報をついでに閲覧し、並ぶ呪いの数々とにギョっとしました。
――――
状態:
名称剥奪の呪い『貴方の名を知られてはならない』
会話不能の呪い『貴方の声を聞かれてはならない』
過去忘却の呪い『貴方の過去は失われる』
鎧姿固定の呪い『貴方の姿を見られてはならない』
接触必殺の呪い『貴方の手は血に濡れる』
睡眠不可の呪い『貴方の眠りは失われる』
■■■■の呪い……
――――
アリシアが言うには呪われて喋れないとのことでしたが、ギルドカウンターの解析ですら調べ切れていない呪いがあります。少し気になるところは……。
――呪いの詳細からすると、対面で呪いを受けているような……?
それにしても、触れると必ず殺すとは恐ろしい呪いです。鎧さんが妙に手のひらを気にしているのはこの呪いのせいでしょうか。
この様子だと呪い同士が複雑に絡み合い並大抵の解呪は弾いてしまいそうです。
――呪いを見ていたら閃きました!
私が守れないなら、鎧さんにアリシアを守ってもらえば良いのです。
今の鎧さんの状況と私の状況は奇跡的にマッチしています。
呪いというのは物理的に解決しようとすると、相応のしっぺ返しをしてくるモノなので、『姿を見られてはならない』という呪いの内容と、戦えば段々と壊れて行くであろう鎧の相性は致命的に悪いです。下手をすると鎧の破片を体に食い込ませたりして姿を隠そうとするので、恐ろしいことになります。
――この呪いをかけた方は、よっぽど鎧さんを苦しめたかったのでしょうか?
そこで、私が提供できるのは迷宮調整士の特権の一つである魔法石です。
魔法石は簡単な願い事を叶えてくれる魔法の石なので、呪いを解くための戦いで壊れていくであろう鎧をコレで直してしまえば問題なしです。
あの様子だとアリシアは鎧さんに絡む気満々ですし、少し気をつけて欲しいとお願いするのは友人として普通の事だと思います。
幸いというのもどうかと思いますが、冒険者に成れたということは鎧さんには犯罪歴がありませんし、私は強い
――そうと決まれば行動です!
呪いについて考えていると、アリシアが金貨一枚と銀貨の山を震える手で鎧さんに押しつけている所でした。下げていたレイピアを買い取ったみたいです。
譲り合う二人を見ながら、夜の算段を立てます。
#####
夜中、短杖を抜いた私はギルド内の人々を魔法で眠らせて鎧さんに接触します。まさか、宿屋さんから追い払われているとは思いませんでした。今度、アリシアの実家の宿屋さんを紹介しようと思います。
「こんばんは、アリシアの後輩さん」
呪いのせいか眠りの魔法も効かなかったらしい鎧さんは、振り返りました。仕事着のローブを着ている私に驚いているみたいです。
――そんな鎧さんに提案します。
「貴方に提案があります」
鎧さんが片手に持つグラスを結露した水滴が流れました。
「夜間のダンジョン周回に興味はありませんか?」
#####
よほど暇だったのか、私の提案に飛びついた鎧さんに困惑しつつ。
――仕事の内容を説明したり。
――秘密の抜け道を通ったり。
――貸した仕事着のローブがパツパツだったり。
――初の実践でちょっと失敗したり。
――魔力酔いで自分のスリーサイズを暴露したり。
軽くはない損害を負いましたが、これで安心してアリシアを送り出すことが出来そうです。使い慣れない魔法で魔力酔いになったときは焦りましたが、アリシアの魔力酔いに根気よく付き合っていたらしい鎧さんの細やかなフォローのおかげで、ケガはしないで済みました。今回の調整は……。
――だいたい成功だったのではないでしょうか?
魔法石の力を実践して見せていると、どうやら活性剤の効果が切れたみたいで、まぶたが重いです。まだ意識がしっかりしている内に、合格を伝えておきます。
「んふぁ……。活力剤の効力が切れたみたいです。今日の所は、ここまでにしましょう。 新たなる
初めての調整で迷宮調整士を無傷で守り切ったのは、私の狙いを抜いても
――逃がす手はありません。
強く念押しする私の内心を知ってか知らずか、迷宮騎士さんは胸に手を当てて了承してくれました。
――よろしく頼みますよ。新たなる
――あとがき――
今回はミラ回でした。
いくつかの隠されていた呪いが、ギルドの解析で明らかとなりましたね。戦闘中に触れると勝手に体が動いちゃう奴は呪いでした。
呪いはまだありますが、これらを解くために鎧騎士君は頑張っていきます。
もし良ければ、★でのご評価やフォローをよろしくお願いします。
応援や感想も待っております……!(欲深い)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます