第2話 鎧騎士は武器を探す

 アリシアと私は彼女の無くした武器を探し、薄暗い迷宮を探索している。

 魔物からの不意打ちを受けて取り落としたらしく、彼女は記憶を思い返すように時折止まりつつ私を導いてくれる。


 彼女は会話不能で記憶喪失な私を気遣い。

 止まったときに軽く知識を教えながら励ましの声をかけてくれた。


 例えば。


 ――あたしは冒険者。こういった場所でお宝を探索するのがお仕事よ!

 ――さっき拾っていた赤い石は魔石といってお金になるから捨てないように。

 ――後で最寄りの町まで連れて行ってあげるからね。

 ――困ったときは頼ってくれて良いわ! アンタは命の恩人だもの!


 ありがたい気遣いを受けながら、光る苔にうっすらと照らされた木の根が侵食する石造りの廊下を進んでいく。


「アンタはこの場所について、どのくらい分かってる?」


 ――この場所? 何か特別な場所なのだろうか?


 言われてから見回してみるが、私には比較できる記憶が全くないので首を傾けることしか出来ない。

 石造りの廊下は不揃いな石を組み合わせて作られており、時々突き出た岩が出会ったときのアリシアが避難していた高台のように伸びている。

 観察していて気になるのは、光る苔が壁にしか生えていないことだろうか。


「ここはダンジョンと呼ばれている場所よ。さっきみたいな人を襲ってくる魔物の湧き出る危険な場所なんだから! 気をつけなさい!」


 そんな場所で武器を失ったアリシアに言われてもあまり説得力が無いと思うのだが、あまりそんなことを考えていると、また感づかれそうなので観察をしている振りをしてそっぽを向く。


「うんうん。警戒は大事! ダンジョンは魔力だまりに発生する異空間よ。さっきみたいな魔物がわんさか出てくるわ! さっきのは木の魔物グリーンマンって奴」


 ――これは大変ありがたい!


 私の行動を周辺の警戒だと解釈してくれた彼女は、機嫌よさげにフンスと息を吐くと次々とダンジョンの知識を教えてくれる。魔力だまり、異空間というのはよく分からないが、緑のワサワサの名前が知れたのは大変助かる。


 ――アリシアと私の認識がずれているのは危険だからな。


 しかし、疑問を聞けないのは本当にもどかしい。何らかの意思疎通が出来れば良いのだが。

 彼女がいうには危険らしいダンジョン内で、何度もジェスチャーを使った会話するのは危険だ。


 ――魔力だまりがある場所にダンジョンがあると思っておけば良いのだろうか?


「ダンジョンには魔物だけじゃ無くってお宝も湧き出すの。あたしみたいな冒険者達はお宝で一獲千金当ててやるのを夢見てダンジョンに潜っているわ! っし! 何か居る」


 グッと手を握り力説したアリシアは、何かを見つけたのか私に一声をかけてから手のひらを向けると、高台の影に隠れて先の様子をうかがう。


 ――冒険者か。一獲千金当てるとはワクワクするが、危険そうな仕事だ。


 話を聞いて頷いていた私もその姿に習い、中腰の姿勢で様子を見ることにした。


 ――私の方が彼女よりも頭一つほど身長が高いのだ。


 私たちが覗く先には少しだけ通路が広くなった広間があり、ちょっとした部屋のようになっている。奥にある場違いな金属扉が気になるが……。


 ――居た!


 彼女が一点をじっと見ているので視線をたどると、私が先ほど倒したのと同じ緑のワサワサ、グリーンマンが棒状の物を体から伸びるツタに絡め振り回しながら立っていた。


 ――あれは剣だろうか?


「あ、あたしの剣……。魔物に取られていたなんて! どうしよう……」


 アリシアは口元を押さえながら逡巡しているが、目的の物を見つけたのだからやることは一つだろう。彼女の肩を手の甲でトントンと叩き、私に任せろと音を立てないように自分の胸をガントレットで叩く。


 ――手のひらで叩いて体が勝手に動き出したら困るので、考えたのだ!


「また助けてくれるの? あ、ありがとう。剣に気をつけて! 落ちている物をツタに絡めて振り回すと聞いたことがあるわ」


 アリシアが迷いながら確認を取ってくるので、私は力強く頷く。


 ――敵の情報を教えてくれて本当に助かる。


 私が片手を勢いよく挙げた後、先手必勝と飛び出すのに合わせ、彼女も同時に飛び出して目標の分散をしてくれる。


 急に現れた私たちに魔物が慌てている隙に一気に近づいていく。


「危ない!」


 アリシアの声に走りながら軽く周囲に目を向けると、不規則な軌道で振り回される剣が私めがけて突っ込んでくる。


 ――ええい! 刃が立っている訳で無いのならば!


 暴れる刃すじの立っていない剣に斬撃の鋭さは無いと何故か覚えていた私は、ガントレットの厚い部分で飛来する剣を弾き飛ばす。


 地面にカランカランと転がる剣。


 更に剣が弾かれた為にたわんだツタを握ってやれば。

 思った通りに、再び私の体は勝手に動き出し。

 私のどこからここまでの力が出ているのかも分からない様な剛力で、グリーンマンの決して軽くは無い体を引き寄せると、いつかの焼き直しのように腹に手を当てて……。


 ――炸裂音と共に手のひらに青白い閃光が輝いた!


 力を失ったグリーンマンは消えていき、後には赤い魔石が残された。


「やったぁ! 勝った!」


 自分も参戦しての勝利にアリシアは大変喜んでいる。


 勝利の余韻に浸る彼女へ、転がっていた剣と魔石を拾いながら近づいて差し出した。


「良いの? ありがとうね!」


 彼女の情報と警告が無ければ手痛い反撃を貰っていただろうから、魔石も彼女に譲ろうと思う。お金になるというなら礼にはなるはずだ。


「あっ! ああー!」


 ――なんだ!? また魔物か!?

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