不眠の騎士は暇を持て余す〜カースドナイト、二重生活する。昼は少女冒険者と高速周回し、夜は仮面受付嬢とチート周回する〜

ランドリ🐦💨

ダンジョンから湧き出た名無し鎧騎士

少女冒険者と鎧騎士の出会い

第1話 鎧騎士は覚えている

 ――ここはどこだ?


 薄暗い石の部屋の中で目覚めた私は、軋む体にムチを打って立ち上がった。

 石の部屋は植物の木の根に侵食されており、うっすらと光る苔だけが光源となっている。


 立ち上がると、身に纏っている金属製の鎧がガチャガチャと鳴ってうるさい。反射的に手で耳を押さえようとするが、硬い物に当たって押さえられなかった。


 手を動かしてみるが顔をさわれないので、どのような理屈なのか不明だが、私は視界を邪魔しないフルフェイスの兜をかぶっているらしい。


 ――それに私は誰だ?


 何故このような場所に居るのかという基本的なことから、どうして鎧を着ているのか、更には自分が何者なのかという重要なことまで、何も分からない。


 ――分からないが……。


「嫌ぁーっ! 死にたくない!」


 ――助けを呼ぶ声を無視してはいけないことだけは、心が覚えている!


 胸の奥より湧き上がる熱い心に従い、ギシギシと軋む体に湧き出す弱気を力尽くで蹴り飛ばし、一歩踏み出した。


「このっ! このっ! あっちに行きなさい!」


 ――声が近い。


 甲高い声の主は恐らくこの部屋の近くに居るはずだ。


 薄暗い部屋にある唯一の出入り口へ不格好に駆け寄った私は、外に飛び出す。


 部屋から飛び出した私を出迎えたのは……。


 高台の上に登った軽装を身に纏う長いブロンドヘアーの少女と、ツルを伸ばして彼女を引きずり下ろそうとする緑のワサワサした存在だった。


 振り乱した前髪の合間から覗く青い目で相手を睨む少女は、なんとか追い払おうとツルに蹴りを入れているが、緑のワサワサが諦める気配はない。


 ――思ったより余裕がありそうだな。


 本当に助けが必要なのか疑問に思った私は、少女と緑のワサワサが演じる闘争を観察する。


 武器を持っていない少女と、ゆっくりとした動きのツタは遊んでいるようにも見えるので、手を出して良い物か迷ってしまう。


 ――助けを呼ぶ声がすると感じたのは、私の勘違いだったのだろうか?


「あー! そこの人! 助けてぇ!」


 ――良かったと言っても良いのか不安だが、助けを求めていたのは勘違いじゃなかったようだ。


 無事、観察していた私に気が付いたらしい少女から助けを求められたので、腰程度の高さのワサワサにゆっくりと近づいていく。


 緑のワサワサは少女に集中しているのか、接近する私に気が付く様子はない。


 とりあえず引き離そうとワサワサとした緑を掴むと、体が勝手に動き出してしまう。


 ――なんだ!?


 勝手に動く体はワサワサを掴んだ手で強引に引き寄せると、その脇腹にあたる部分にもう片手の平を当てる。


 当然相手は抵抗してくるが……。


 ワサワサの脇腹に当てた手の平が青白く光り輝いて炸裂音が響くと、ガクリと動かなくなり抵抗はなくなった。


 ――消えていく!?


 少女に伸ばしていたツルをパタリと地面に投げ出した緑の塊は、空気に溶けるように消えていく。


 そして掴んでいた重さがなくなり、後には小石程度の赤い石が残された。


「助けてくれてありがとう! ……無詠唱のマジックボルトを至近距離で接射するなんて、なかなか格好いいじゃない。あたしも覚えよっと」


 上から降ってきた声の後半は小声で私に伝えるつもりでは無かったようだが、私の耳は良いらしく、よく聞こえてしまった。しかし、自分でも何をやったのか分からない私にとっては助かる。


 ――どうやらあの青白いピカピカはマジックボルトというらしい。


 体が勝手に動いたことには不安しか無いが、落ちていた赤い石を掴んだりしつつ、とりあえず敵以外の生物を掴むのは止めておこうと思う。


 他にも無詠唱、覚える、など気になる言葉もあったが、今は目の前の少女に対応しなくては。


 ――……っ!


 高台から、やけに丈の短いスカートを抑えながら降りてきた少女に返事をしようとしたのだが、困ったことに声が出ない。


 ――喉の不調なのだろうか?


 とりあえず片手を上げて答えると、訝しそうな反応が返ってきた。


「うん? 見ろって事? じゃあ、失礼して……」


 仕方が無いので手で喉を指差して声が出ないことをアピールすると、首を捻った少女が胸元からぶら下がっている小さなレンズを手に持ち、青い目に当ててこちらを見てくる。




 ――見ろとは、なんだろうか? 何をしているのだろう?


 しばらく固まって私を見ていた少女は、何度かレンズから目を離したり近づけたりを繰り返すと、私を指差して叫んだ。


「何コレ!」


 ――なんだ!?


 急に大きな声を出すのでビクッと驚いてしまった。何があったのだろうか?


「アンタ、凄い呪われてるわよ!? が呪い呪い呪いで埋まってるわ!」


 あのレンズを使うと何かが見えるのか?


 この驚き方からすると、というのはあまり良いものでは無さそうだ。


「ほら! ちょっと貸してあげる。コレ高いから落とさないでよ?」


 ――とは一体……?


 私が助けたこともあってか親切な少女は首に書けたひもを外すと、手のひらを見つめながら首を傾けていた私に高いらしいレンズを貸してくれた。


 おっかなびっくりそれを受け取った私は、自分の手のひらをレンズに映してみる。


 すると、脳裏になんとなく理解できる知らない文字列が浮かび上がり、私のを知ることが出来た。


 ――――


 [名は呪いで失われている]

 状態:

 名称剥奪の呪い

 会話不能の呪い

 過去忘却の呪い

 鎧姿固定の呪い

 ■■■■の呪い

 ■■■■の呪い……


 ――――


 ――喋れないのはのせいか!


 突きつけられた真実に肩を落とす。どうやら、というのは悪いものらしい。


 返すついでに少女の方も見てみる。


 ――――


[アリシア]

 状態:

 健康


 ――――


 自分に比べればシンプルなものでうらやま「ちょっと!」


 ――何だろうか、呪いを確認するために長く借りすぎてしまったか?


 私の手からひったくるようにレンズを回収した少女は、青い目をつり上げて腰に手を置くと、態とらしく怒っていますとアピールしながら私を責めてくる。


 レンズによればアリシア曰く。


 ――許可無く人をレンズで覗くのは、敵対宣言みたいなものよ!

 ――でも、アンタはあたしを助けてくれたし、少し手伝ってくれたら許してあげる!

 ――記憶をどうにかする呪いもあったし、今回だけだから気をつけなさい!

 ――レンズで見ただろうけど、あたしはアリシア! 本当に気をつけてよね!


 一気にまくし立てられた私は頷く事しかできない。


 常識についての記憶が無いのも、言葉が喋れないというのも本当に不便だ。彼女の反応からすると、危険ですらあるかもしれない。


 恐らくだが、彼女は本当に怒っているわけでは無い。


 私が言葉で返答出来ないので理解度を知ることが出来ず、忠告のためにも強く言うしかないのだ。

 その証拠に、こちらをチラチラと伺う青い目は、言い過ぎたことを後悔するように涙目になっている。


 ――初対面の私を戒めてくれたのだ。最初に出会ったのがアリシアで良かった。


 あまり彼女に負担をかけるのは私も本意では無い。

 出来るだけ陽気な動きになるようにプレートアーマーの胸をはり、任せろというように手を覆う金属のガントレットで叩く。


 私の動きを見た彼女が表情を明るくしたので、こちらの意図は伝わったようだ。


「ふふん! 分かったなら良いわ! ちょっと武器を落としちゃったから、探すのを手伝ってほしいの!」


 ――武器を落とすとはまた……。いや、頑張らせて貰おう!


 ――彼女の口元がヒクついている!?


 ちょっとした動きから内心が悟られたのか、今度は普通に怒らせてしまいそうだ。今後も世話になりそうな彼女を怒らせてしまうのは良くない。


 急ぎ姿勢を正して胸の前に片手を置くことで最敬礼をする。


 ――それに何故だか、アリシアに逆らってはいけないような気がしたのだ。



 ――あとがき――


 読んでくださり、ありがとうございます!


 今後も凄い呪われちゃってるけど強い名無しの鎧騎士と、ダンジョンで武器を無くしちゃったけど強運なアリシアをよろしくお願いします。



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