つくって

明鏡止水

第1話

わたし、きょうだいがほしい!


かわいい娘がいいました。


両親は困りました。


子供の作り方を知らなかったからです。


両親は、自らの子供を望まない二人でした。


二人とも、発達障害や遺伝子の欠落などで自分の血を引く子供を生み出したくはなかったのです。


やさしくて、かしこい、すばらしい女の子に孤児院で出会うまで。二人は子供が欲しいとは思わなかった。もう一人、孤児院から、引き取れるだろうか。

初心で子供の作り方も知らない、出会うべくして出会った同じ境遇の夫婦は、子作りというものに縁がありませんでした。


お前がいた孤児院で、仲良しの子を、引き取れるか働きかけてみるよ。


そう告げると。


いやよ! あのキョウダイ達はいやなの! パパとママのこどもで、わたしのいもうとかおとうとじゃなきゃ、かぞくっぽくないの!


家族の絆を血縁で考えているのか? どうとらえているのだろう。踏み込んで聞いてみます。


それじゃあ、お前だけが他の家族と、仲間外れだといつか悲しくならないか? ママからパパの子供が産まれたなら、パパとママと、赤ちゃんは仲間のようだけど。お前は仲間はずれな気分になる。疎外感、というやつだ……。


すると、娘はいうのです。


あたらしいちをひく、こせいてきなこどもがよのなかにふえるのよ。いいことだわ。わたしはあねになって、しっかりものになれるもの!


聡いのかわがままなのか、ませているのか分からない子供です。我ながら良い子を引き取った、と両親は思いましたが。


両親は、二人の子供を作りたくありません。


そんな未来が、あるといいね。


そう言って。

娘のお願いは聞き届けられることはない。

そう方針は決まっていったのです。


ところが、娘が14歳になった時。


赤ちゃんができた。産婦人科にも一人で行ってきたし、母子手帳ももらった。私は母親になるみたいだけど、なにより、赤ちゃんがこの家に生まれるから。


娘は非行もせず、むしろ優等生だったのですが、なんと子供を本当にみごもっていたのです。


子供を産む、作る努力をしたことがない両親は。

特に、そう、怒ることもせず、しかし不思議でなりませんでした。


もしかして、子供の頃の影響か。そうまでして赤ん坊が欲しかったのか?


両親は責めずに聞きます。娘は言いました。


私はね、子育てがしたいの。本当は自分で稼げるようになって、子供を養えて、世間体も気にして、適齢期になった頃。きちんと結納とかしてくれるひとを選べば良いんだろうけれど。私は先に産んだほうが後々いいと思った。苦労は先にする。しばらくはパパとママのお金を頼る。それは浅慮で自分勝手だけど、堕胎できる時期はもう過ぎてるの。


いつのまにか、そんなに隠していたのか。娘の下腹部を見遣る両親。


娘は通信制の高校に入学するらしい。

それすらも下調べしていた。


娘が考えていることはわからない。

感じていることもわからない。


しかし、生まれるまでのギクシャクとした親子の葛藤の後。あの日、施設から引き取った娘が、とうとう、子供を産んだ。


産声がかわいい!!


両親は、祖父母となった。


祖父母は娘から取り上げるように、次から次へとミルクに沐浴、おむつ替え、ベビーカーでの散歩を楽しんで、近所の目も気にせずに


うちの孫なの!!


娘を育てていた時とは違う破顔。

産まれたばかりの人を育てる、人の道を辿る子育ての道。

娘は育児をちょっとしかできず、家事をやることの方が増えた。

祖母は専業主婦となり、祖父は仕事が終わるとすぐ帰って。孫の顔を見る。


わたしの子なのに……


こんな家族のかたちも、あるんだね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つくって 明鏡止水 @miuraharuma30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ